第4話
俺のいる村は2つの大きな山に挟まれた所にあるのだがそのうち俺の家の近くにある山はもう一つの山に比べて全くと言っていいほど人気がない。その理由は明確で、山で取れる山菜や獲物の数が圧倒的に少ないからだ。薬草が豊富にあるものの、この村にはそれを調合できる人がいないからいつも俺が遊びに行くと村人と会う事はなかった。
だからか、村の子供達と少し疎遠になってしまっていた。それでも自分の好きなように遊べる近くの山は俺にとって人目を気にしないでいられる安らぎの場所となっている。
今日も山にやってくると洞窟を利用した自分の基地でパン作りを楽しんでいた。
パクッ! むぐむぐ……ゴクン!
「うーん、もうちょっと水が欲しいな……あとは火の加減も見直してみるか」
ひとりでぶつぶつ言いながら紙に水の量や火の強さを書き込んだ。俺の理想に近いパンを作るのが最近の楽しみになっている。
パンの原料となるカーストを栽培する為、広大な山の丘を俺は畑に作り替えた。本来ひとりでは絶対に無理なはずだったが、それを可能にしたのは魔法だ。
丘に生えていた草を刈り取り、石が混ざった荒れた土地をゴッソリ掘り起こすと近場で手に入れた良い土と入れ替えた。そこにたっぷりと栄養を与えてカーストに適した土に生まれ変わらせたのだ。
日が暮れるまでパン作りに没頭した後、俺はいそいそと家に帰っていった。
すると両親の表情が明らかに暗い。お通夜のような雰囲気に何かがあったのは明白だった。
「お母さん、どうしたの?」
母さんは俺の顔を見ると悲しげな表情で話し始めた。
「隣のマーズさん家のカアズ君が高熱病で倒れたの……」
それはこの村でよく起こる病気だった。大人が発症しても何とか耐えられるけど子供や年寄りがかかると命に関わる恐ろしい病だ。
「父さんはこれから看病に行ってくるよ。魔法で冷やしてあげれば少しは楽になるだろうから」
父さんが家を出ていくと母さんと弟で静かな夕食を食べた。
「アークリー」
(ん? お呼びかな?)
寝床に着いた俺はすぐにアークリーを呼んだ。
「実はさ、今村の子供が病にかかってて大変なんだ。どうにか治せないかなって思って」
(ふむ、症状を詳しく話してみよ)
俺は出来るだけ細かく症状を伝えた。
(高熱病か……それなら大丈夫じゃ。山にある薬草から薬を作れるはずじゃ)
「本当⁉︎ じゃあすぐ行って取ってくるよ!」
窓から家を飛び出し、山に入った俺はアークリーの言う通りに2種類の薬草を採取してすり潰し、布でこして出たエキスを水と混ぜた。
(これを飲めばすぐによくなるぞ!)
「ありがとうアークリー。後はこれをどうやって飲ませるかだな……」
実は今病で苦しんでいるカアズは苦手な男の子だった。歳は俺より二つ上で会えば何かとちょっかいを出してくるのだ。だから普段はあまり会わないようにしていた。
「誰かしら側にいるだろうし……」
しばらく考えこんだ結果カアズの弟に渡して飲ませる作戦で行こうという結論に達した。
さささっとシーンとした村を駆け抜け、目的の家まで近づいていく。
近くの木隠れて頃合いを見ていると一向にカアズの家からは誰も出てこない。
「どうしよ……カアズはどの部屋にいるのかな」
いつまでもここにいてもしょうがないと俺は家の周りを歩いて開いていた窓からそっと中を覗いた。
一階には誰もいないな……上か?
スッと魔法で浮き上がると光が灯る部屋を窓から覗く。
……いた。
大人達は黙って苦しむカアズを辛そうな顔で見つめていた。
「あれじゃ無理だな。どうにか少しの間大人達の気を引けないかな」
屋根の上に座りながらどうしようか悩んでいると大人達の会話が聞こえてきた。
「すまない、もう魔法が切れてしまった」
父さんの声だ。
「ありがとうございます。大分楽になっていたと思います」
「助かった。あとはあいつの生命力にかけるさ」
おじさんとおばさんの声も聞こえる。
「じゃあ、一旦家に帰るよ。また明日になれば魔法も使えるだろうから」
ドタドタと階段を降りる音がすると俺は窓から中を覗いた。
よし! 皆んな下に行ったみたいだ!
絶好の機会に俺はサッと中に入ってカアズの横に座った。
「起きて、薬を持ってきたの」
俺はカアズを揺するとカアズの目が少し開いてボーッと俺を見ていたが急に目を見開いて驚き出した。
「な、何で……お、まえが」
「これを飲んで。元気になるから」
薬を少し強引に飲ますとカアズは顔をしかめていた。相当苦かったらしい。
よし、ミッション完了!
「じゃあ行くから」
俺はカアズが何か言おうとしていたけど振り返る事なく窓から飛び降りて家に帰っていった。
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