第2話

 家事の手伝いを終えた俺は母さんに遊びに行くと言って山に来ていた。そして誰もいない事を確認すると俺は目をつぶって口を開いた。


「さてと……アークリーのじいさん出てきてくれ!」


 もしもこんな誰もいない場所でいきなり独り言を話す俺を誰かが見たらきっと心配されるだろう。


 でも、俺は正気だ。


(ホイホイ、なんじゃ?)


 少し間が開いた後、頭に年老いたじいさんの返事が返ってきた。


 そう、このじいさんと出会ったのは数日前……ちょうど今日のようにお手伝いを終えて山で休んでいた時の事だった。


 …………………………………………………………


「はぁ……やっと言葉を理解できるようになったけどまだまだこの世界の事が全然分からない……家も貧乏だし、俺に何かできないかな……」


 俺は貧しい暮らしを何とかできないかを日々模索していた。


「どうしたらいいんだ……何から始めればいいのか分からない」


 そうはいってもまだ8歳の子供には荷が重く、何もできない自分が歯痒くて悶々とした毎日を過ごしていたんだ。


(む⁉︎ こ、ここは何処じゃ‼︎ な、何が起きたのじゃ! わしは確か死んだはず!)


 その時、いきなり頭に騒ぐおじいさんの声が聞こえてきたんだよな……


「え⁉︎ な、何だこの声⁉︎」


(そ、そうじゃ! わしはさっき死んだはずじゃ! とすればこの状態はどういう事なんじゃ!)


「あの、おじいさん?」


(うお⁉︎ だ、誰じゃ!)


 どうやら俺の声が聞こえるらしい。


「誰って言われても……」


(賢者であるわしともあろう者が、落ち着くのじゃ……ふむ……)


 少しの間が空いた。


(どうやらわしはお主の体に憑いてしまったようじゃな)


「え! それって、俺に取り憑いたって事⁉︎ 出ることはできないの?」


 流石に知らないじいさんに取り憑かれたんじゃこの先が不安だ。


(ダメじゃな……何者かの力が働いて何かの目的の為にそうしたのじゃろう)


「一体誰がそんな事を……」


(さあな……じゃが、何か意味があるのじゃろうて。今は事実を受け入れ、前に進むしかないのう)


 いやに達観しているおじいさんだな。


「それよりおじいさん誰?」


(ふふん! よくぞ聞いてくれた! 聞いて驚くな! わしはこの世界の事なら何でも知っているあの賢者、アークリーじゃ!)


「……ごめん、まだ8歳になったばかりで知らないんだ」


(ゴハ‼︎ お主まだ8歳なのか⁉︎ 随分と大人びた話し方だったから大人だと思ったぞ⁉︎)


「だって俺、違う世界からこの世界に生まれ変わったから……」


(うーむ、何やら事情がありそうじゃな。どれ、話してみよ)


 俺は何故か会ったばかりのおじいさんに胸に溜めていたものを吐き出していた。多分おじいさんが現実にいない人だから何を言っても大丈夫だと思ったからだ。違う世界から来たなんて信じないと思いながらも口から次々と言葉が出ていった。それでも全てを話すと少し気が楽になっていた。


(なるほどな……にわかには信じがたい話だが嘘には聞こえんな……だが、面白い! わしはお主に興味が湧いてきたぞ!)


「俺もなんか本当の事を話せる相手ができて少し嬉しいかも」


(お主、名は何という?)


「セイナだよ」


(何かおなごのような名じゃの)


「だって女だもん」


(なんと! 女じゃったのか⁉︎ 話し方から男だと思っておった!)


「さっき言い忘れたけど前の世界じゃ男だったんだよ」


(ほほう、それは難儀じゃのう)


「何で記憶が残ったまま生まれ変わっちゃったんだろ……」


(それも何か事情があったのだろうな)


「まあいいや。考えてもしょうがないし」


(そうじゃな。今は分からんでも、もしかしたら将来分かる時が来るかもしれん)


「うん、それよりさっきおじいさんこの世界のことなら何でも知ってるって言ってたよね?」


(うむ! わしにかかればその辺に生えている雑草でさえ詳しく話せるぞ!)


「じゃあその知識を俺に貸して欲しいんだ」


(良いぞ! 存分にわしの知識を使うが良い! だが、その代わりお主のいた世界の話を沢山聞かせてくれ。新たな知識はわしの大好物じゃ)


「分かったよ。じゃあ早速だけど教えて欲しい事があるんだ」


(何でも訊くがよい!)


 俺は今の生活を豊かにしようと思っていた矢先のこの出会いに感謝した。

 

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