難病からあの世に旅立ったと思ったら妄想していたチート設定で生まれ変わったので、たとえ性別が違っても異世界で幸せに暮らします

尚太郎

第1話

 中学2年になって声変わりが始まり身長の急上昇によって体が段々大人になっていくのが自分でもよくわかる。それに将来を考える時期でもあって、色々と身体的にも精神的にも複雑な年頃だ。


 俺は今まで順調な人生を歩んできたと言える。


 幼少期は元気いっぱいに過ごし、中流家庭で育った俺はこのまま父さんのようにサラリーマンになって平凡で普通の暮らしをするんだろうなと思っていた。


 でも、それは凄く贅沢なものだと今になって思い知らされた……ある日、突然体の自由が奪われたのだ。


 医者から難病である事、後一ヵ月の命だと宣告され、その日から病院のベッドに直行……動けない体に歯痒さを感じ、先の無い絶望感によって生きる屍のように腐っていった。


 後一ヵ月の命……


 家族の悲しげな顔を見ながら過ごしていた日々の中、俺が唯一すがっていたのは妄想だった。病院のベッドの上で何もできない俺は暇つぶしに来世に生まれ変わるならこんな人になりたいと考えるようになっていたのだ。


 今回は男だったから来世は女でもいいな〜 それも絶級の美女だったら最高! きっと楽しい人生を送れるんだろうな。


 そんな事を思ったのがきっかけだった。


 そして……日が経つに連れその妄想は普通を超え始める。


 空を飛べたら楽だよなぁ〜 あと自然の力を自由に操れたり! それに漫画であるような鑑定スキルみたいなやつがあったらもはや便利すぎて生活が楽になりそう。


 最初は金持ちだとか芸能人だとか誰もが思うなりたいものを妄想していたが、ネタが無くなるとその域は人外へといってしまった。もう普通では満足できなくなっていたのだ。


 だから一ヵ月が経った頃にはかなりチートな人物が出来上がっていた。人生がヌルゲーになってしまうほどの設定に俺は馬鹿馬鹿しくなって笑ってしまった。


 日に日に体は痩せ細り自分でも死期が近づいているのが分かる。遂には意識も薄れかけ、家族に見守れながら俺はあの世へ旅立とうとしていた。


「ごめんね……私が丈夫な体で産めてあげられなくて……うぅ……」


 意識が薄れて行く中、母さんの声が聞こえた。


 そんな事ないよ……俺は母さんの子供でよかった……凄く幸せだったよ……


 これまでの人生を振り返ると幸せしかない。それは優しい母さんや父さん、それに成績優秀な自慢の妹がいたからだ。


「晴彦!」


「お兄ちゃん‼︎」


 父さんと妹の声もかすかに聞こえる。


「次に生まれ変わる時は幸せな人生を歩める事を願ってるから……」


 母さんの優しさを表したような言葉を聞きながら俺の意識は深い闇へと沈んでいった……。


 …………………………………………………………………………………


「おぎゃあ!」


 ん……何で俺、赤ちゃんみたいに泣いてるんだ?


「‼︎ £€£££!」


 え? 何だって?


 視界には若い男女が俺を見て微笑んでいた。会話を聞いていてもサッパリ分からない……って! ここ何処だよ……俺、どうしちゃったんだ……?


 

 あれから8年の歳月が流れていた。


 どうやら俺は別の星だか分からないが異世界に来たらしい。この8年間でそう結論づけたのには理由がある。


 ひとつは言語の問題だ。全く理解できない言葉に最初はかなり戸惑ったけど勉強した甲斐あってやっと慣れてきた。そしてもうひとつが魔法の存在があるという事だった。


 周りの誰もが当たり前のように手から火を出したり風を巻き起こす。そんな風景を見て育った為か、言語同様驚かなくなっていた。


 まあそんな事はまだ良かった。


 一番問題だったのは性別が女になっていた事だ。これが俺にとって大大大問題で、確かに俺は来世は女がいいなとは言った。でも前の世界での記憶が残ってるのでは話が全然違う。男として生きてきた14年で十分に男が染み付いているからいきなり女になれっていっても切り替えるのは多分無理だ。8年経ってもそれが変わらないんだからもう諦めるしかない……何をって? 


 結婚からの子供だ……俺が前の世界で築くはずだった幸せな人生の象徴である。


 俺……この先女として生きていけるのかちょっと不安になってきた。


「セイナ! ご飯よ!」


 またいつものようにこの先の人生を悲観していると新しい母さんの声が聞こえた。


「はーい!」


 俺は幼い子供のように元気に返事をして食卓へ向かった。


 そして食卓に並ぶいつもの食べ物を見てゲンナリする。


 うぅ……またこのイモか……


 俺の家はかなり貧しい。


 木でできた小さな一軒家では至る所で風が漏れていて寒い時期はかじかむくらい寒い。服もボロボロだしご飯もこの通り芋かしおれた野菜がほとんどで、たまに鳥肉が出ると涙が出るほど嬉しくなる。


 今住んでいる村全体が俺の家庭のように貧しいからしょうがない。山に挟まれた村には20の家族が住んでいて、それぞれが農業、畜産業、狩猟をして食糧を分け合い助け合いながら生活しているのだ。

 

 だけどどんなに貧しくても俺は今凄く幸せだった。


 父さんは凄くカッコよくて優しいし、母さんもとびっきりの美人で優しい。それに可愛い弟もいる。皆んな仲が良くて毎日貧しくても笑顔が絶えない家庭が俺は大好きだった。


「またコマナでごめんなさい……だから今日は少し違った方法で調理してみたのよ」


 母さんは申し訳なさそうに俺にそう言ってきた。でも、それは仕方のない事だから文句を言うなんて絶対できない。


「うん! 美味しいよ! 私、コマナが大好きだから!」


 母さんは俺の言葉に少し安心したような表情を見せて微笑んでくれた。


「セイナは本当に良い子だな。こんなに可愛くて優しい子へ育ってくれて良かったよ」


 母さんの隣にいた父さんは目に涙を浮かべて俺を見ていた。少し大袈裟な気もする。


「本当ね、セイナには色々手伝ってもらって助かるわ!」


 両親の俺への評価はかなり高い。そりゃそうだ、文句ひとつ言わずに家事や畑の手伝いをしているからな。だから俺は近所では評判の良い娘となっている。


「お姉ちゃん! コマナの皮取って!」


 隣でコマナを食べようと奮闘する弟が愛らしく、俺を上目遣いで見るその天使のような眼差しに自然と頬が緩んでしまう。


「うん! お姉ちゃんが取ってあげる」


「ありがとう! お姉ちゃん大好き!」


 ああ……可愛い弟だ。


 この家族で暮らしていたらもう異世界に来たとかどうでもよくなってくる。この温かい家庭で暮らせれば俺はいいと思った。


 後はもう少し暮らしが豊かになればな……そうすればもっと幸せになれるはずだ! 


 味があまりしないコマナを齧りながら俺は生活を豊かにしようと考えていた。

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