トルネードステーキ食べたい!
無表情なタイムリミットが、クリプトンとハイドロをビルの一室に連れ戻す。最後に見たラドンの顔は残酷にも戦闘員を取り戻していた。それが腕の良い戦闘員であり、これからの未来を担う人間なのだ。今は、自分が生きていたことに希望を見出すしかない。
「ハイドロの言う通り、銃を装備しておいてよかった」
クリプトンはハイドロに礼を言った。
「何があるか分からねえからな! 俺には、お前を引き込んだ責任があるし」
ハイドロの口元はいつも通り、おどけている。
「返すよ」
「いい。持ってろ。弾の補給源だけは確保しとけよ」
ハイドロは首元のボタンだけ外し、部屋の外へ出ようとした。
「待てよ」
ハイドロの腕を掴む。クリプトンより逞しくはない。
「ハイドロってさ、どうやって精神を保ってるんだよ。俺と比べて経験値があることは分かってんだけど、いやに冷静だったり、変に励まさないところとか……お前、なかなか変わってるよな」
沈黙の部屋が存在感を強めること、一秒。
「いやー、それ、よく言われんだよ!」
レベル318の男は笑う。
「多少は壊れてないと、こんなことやってらんねえもん」
ズイッと顔を近づけて大爆笑するハイドロ。クリプトンは微動だにできない。ゴーグルで見えないはずの、ハイドロの目が見えた気がした。そんなはずないと首をぶんぶん振る。
「でも、ハイドロはホウ岩でレベルを上げたんだろ。人を殺さない理由があるのか?」
クリプトンの質問に、ハイドロは髪をかき上げて答えた。
「人殺すとか、普通に、嫌じゃね?」
その答えは本心に聞こえる。しかし……
「腹減った! トルネードステーキ食べたい!」
子供のように騒ぎ始めたのはハイドロだ。
「それならいい店がある。ハイドロが飛び上がるくらい、美味い店が」
「おーし、進め! クリプトン号!」
「俺は乗り物じゃねえ!」
自分の腕に浮かぶ8.25の数字を、クリプトンは見て見ぬふりをした。
森が茂る、どこかのフィールド。真上を何かが飛んでいった。暗い空に黒羽の動物。
周りよりも三回り四回り小さい男が、背後を気にし出す。
「どうした、何か感じるか」
仲間の一人が声を掛ける。
声には答えず、その小男は忍び足で今来た道を戻る。
しばらくして、敵国の戦闘員を引きずって暗闇から現れた。その戦闘員の頭は砕かれている。
「つけられていたか。よく気づいたな」
「大したことない。備品を取ろう」
ぞんざいに死体を投げると、死体の指が動いた気がした。その指を踏みつける。
「ひー、ひっひ。抜かりないな、Arg18」
Arg18は言葉も笑いも返さない。ただ無言で、ゴミと化した死体を漁っていた。
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