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リンとケイ

 次に、クリプトンの前にハイドロが現れたのは一週間後だった。

「元気してるか? 迎えに来たぜ」

 相変わらず大きなゴーグルが照明の光を反射する。

「待ってたぜ、ハイドロ」

 手套を着た手を掴み、クリプトンは戦闘機に乗り込んだ。




 二人が飛ばされた戦場は、砂漠のような場所だった。所々に緑が点在し、暗い空の間からは直射する熱源がじりじりとそれを焼く。クリプトンはすぐさま腕を捲った。肌が蒸されるような慣れていない感覚に、顔全体を歪める。

「暑い! 死ぬ! こんなに暑い所は初めてだ!」

 その時、目の前を生き物が通過した。その生物の名は知れないが、クリプトンは人間以外の命を見たことで少し救われた気持ちになる。しかし、人間以外の生き物が住むということは、自分たち人間の戦いに、その者たちを巻き込むということだ。

「人間の戦争に、他の生き物たちが巻き込まれるんだな」

 口からこぼす。

「ああ。それが戦争だ。致し方ない」

 さらりと言ってのけたハイドロは、前回と同様に戦闘機へ乗り込んでいった。


 腕の画面を見ると、ホウ岩の気配があった。

「この近くにホウ岩があるみたいだ。探してくるから、ハイドロは周りを見張っててくれ」

『あいあい』

 スイっと、ハイドロの戦闘機は上昇する。それを見上げてからクリプトンは走り出した。ハイドロが迎えに来るまでの一週間、クリプトンは特訓をしていたのだ。その力が反映されるか試したい。


 あまり、変わらないか。

 基礎能力の底上げで、街にいるよりは能力が上がっているのは確かだ。しかし、クリプトンにとって、思っていたほど前回よりも力が出ているとは思えなかった。

『前回よりスピードが0.12上昇。筋力が0.06上昇。お前、特訓でもしてたか?』

「何で分かんだよ」

 褒められた嬉しさよりも、見つけられた奇妙さにクリプトンは興味を持つ。

『俺くらいのレベルになると、そんぐらい勘で一発よ』

 お前くらいのレベルが、人類ではお前だけなんだよ、と考えながら目的地へ走る。汗を吹き飛ばすほどの俊足で、ホウ岩の在り処にはすぐに辿り着いた。

「おっしゃ、掘るぞ」

 前回で覚えた手際を使い、クリプトンは難なくホウ岩の欠片を手に入れた。

『学習したな、クリプトン。でも小さい』

「そうだよな。もっと大きいホウ岩を見つけたい」

 このホウ岩で0.75点。今のところ合算で4.5点。レベルは5。人を狙った方が明らかに効率がいいなどと一瞬頭を過るが振り払う。できるなら、誰も傷つけたくない。

『それなら、ここから南南西に向かって二百キロ走れ』

「さすがギフテ」

 広い大地を蹴り、クリプトンは走り出した。




 遠くに人間らしき影が見える。目を凝らしながら、減速してクリプトンは止まった。

「味方?」

『うん。レベルもそれなりに高い奴がいる。アイツらと行動すれば安心なはずだ』

 クリプトンが近寄ると、そこにいた三人が振り返る。

「おお、新人?」

「にしてはガタイがいいな、レベルは幾つだ?」

 クリプトンは答える。

「5」

 それを聞いた、一番背の大きな男が口を開いた。

「それじゃあ、まだ新人だな。あまり人を殺してないだろ」

 恥じるべきなのか、誇るべきなのか。深く悩みながら、軽く頷く。

「吾輩たちは、ここにあるという大きなホウ岩を探してるんだ。丁度いい。未来ある新人にも点数を分けてあげよう。まあ、君たちが見つけられたらの話だけどな」

 大きな手でクリプトンの肩を叩く。

「それなら、ハイドロにも手伝ってもらおう。上にいるんで」

 人差し指を立て、クリプトンは上空を指した。三人は真上を見上げる。戦闘機は点のように小さい。

「え! ハイドロって、もしかしてあの、レベル300を超えてるっていう……!?」

「マジか! 俺、お目にかかれるなんて思ってなかった! ステージ1にいるなんて!」

 男たちが騒ぎ出す。それを見たクリプトンは再度、ハイドロの卓越を見せつけられる。

「それはそれは。吾輩はレベル86のラドン。ハイドロ様には随分敵わないが、協力できたらと思うよ」

 背の高い男が自己紹介をした。

「俺はクリプトン。よろしくな」

『あのさ、親交を結んでる最中悪いんだけど、俺がホウ岩探しに協力するのは違反なわけで……』

 黙っていたハイドロが無線で口を挟む。

「分かってるよ。吾輩もだ。だから、今日はこの、ステージ1の三人に花を持たせてあげようってんだ」

 ラドンがハイドロの声に返答する。

「なあクリプトン、俺はリン!」

「ねえクリプトン、俺はケイ! よろしく!」

 両方から握手を求められ、両手で握手したクリプトン。一方、ハイドロの声は黙っていた。




 四人はラドンに従い、砂地が広がる場所までやってきた。

「ラドンさん、ここに何があるんですか」

「何も見えねえな」

 リンとケイが見渡す。

「詳しくは言えねえが、ここに何かがあって、ギフテの力を使うということだけは教えておこう。後は三人で考えてごらん」

 クリプトンとリン、ケイは顔を見合わせる。

「二人はシュンス?」

 クリプトンが問う。

「俺はシュンスだけど、ケイはギフテだよ」

「へえ、ギフテは皆、機械に乗ってるもんだと思ってた」

 ケイに首を向けながら、クリプトンは目を見張る。

「確かに俺はギフテだけど、乗り物には乗らないんだ。道具を開発するのが好きで」

 そう言うと、ケイは荷物の中から様々な道具を取り出した。

「こいつ、荷物整理ができねえから、いつもフリマ状態になるんだ」

 リンの言う通り、ケイの周りは発明道具のフリーマーケットになっている。面白そうな道具が次々と引っ張り出された。

「どれが使えるのかな」

「これは? この笛みたいなやつ」

 リンが手に取ったのは銀の棒に穴が開いている、まさに笛だった。

「音色で現れる道があるとか? 面白そう!」

「何か吹ける? 俺、音楽とかよく分からねえ」

 三人が相談する様を見てラドンは頷く。国の将来を担う力が協力し合うのを好ましく思っているのだ。ハイドロも、何も言うまいと静かに見守っている。

「『とこしえのいにしえ』でも吹いてみる?」

 ケイは言った。

「俺もクリプトンも吹けないから、ケイに任せるしかねえよな」

 苦笑いでクリプトンと頷き合う。

 ケイは唯一知っている音楽を追った。生まれ故郷で母が歌ってくれた、ただ一つの歌。まだ幼くて意味は分からなかったが、子供ながらに感じていたあの記憶を蘇らせる。何もない土地に、セピアの音色が澄み渡った。


「……何も起こらないね」

 ケイは笛を吹くのをやめた。ただ、心は温まっている。気づけば、周りに動物たちが寄ってきて、笛の音に身を委ねていた。

「こんなに動物が集まってんのに、気づかなかったなんてこと、ある?」

 リンは不審がる。これほど広い土地に動物が集まってこようものなら、笛に気を取られていた自分たちでも、地平線から走りくる動物の一匹くらいは気づくだろうと。

「遠くから、来たんじゃ、ないとか?」

 クリプトンは提案した。

「ってことは?」

 リン。

「はい! トオシミラー!」

 ここで、ケイが待ってましたとばかりに道具を出す。それは両手でやっと持てるような大きな鏡だった。

「説明しよう! 人間の目には見えないものが、この鏡では見えるんだ」

「ギフテすげえ! 早く使おう!」

 胸を張るケイの説明を聞いて、リンもクリプトンも鏡の効力を確かめたかった。

「ギフテが凄いんじゃなくて、俺が凄いの!」

 もさくさ言いながら鏡の使い方を思い出したケイは、えいやと鏡を砂地に向ける。

「何が見える!?」

 三人で覗き込む。さりげなく、ラドンも覗いている。

「……ごちゃごちゃで、何も見えねえ」

 鏡の中は、広がる砂地の上に様々な雲がゴミのように散乱し、見えすぎるあまり余計に見えなくなっていた。

「人間の目には見えない物質や光が邪魔なんだ! この鏡が悪いんじゃない!」

 ケイは汗を拭き、鏡を抱きしめて説明をする。

「ケイ、もう一度、鏡の中を見せてくれ」

 クリプトンが鏡を受け取る。もう一度見ても、雲がうじゃうじゃと漂っているだけだ。

「ケイ、この鏡の他に、似たような効果のある道具ってあるか?」

「あるよ。俺、手癖があるみたいで、似たような物をたくさん作ってる」

 もう一つ道具を取り出し、クリプトンに渡す。眼鏡だった。

「その眼鏡をかけると、人間の目には見えないものが見えるんだ」

 さっきと同じ説明を揚々と繰り返し、ケイは自分の道具がどのように使われるのかに心を弾ませている。そのキラキラの瞳を受けながら、クリプトンは眼鏡をかけた。

「……見えた! 砂の中に、道が!」

 クリプトンは叫んだ。鏡の中に、素直な道があちこちに見えている。階段で、地下に続いているようだ。先程現れた動物たちは砂の下で暮らしているのだろう。

「え、俺にはさっきと同じに見えるんだけど」

「俺も」

 リンとケイには、鏡の中の景色が変わらない。

「この鏡は、人間の目には見えないものが見える。だけど、今の俺はそれが見える眼鏡をかけてる。つまり、見えないものが見えてる俺が、その状態で鏡を覗くと、その俺でもまだ見えていないものだけが見えるってことだ!」

「凄い!」

 ケイは拍手をする。リンは、はてなマークを浮かべているが、理解できないのなら動こうと肩を回し始めた。

「よく分かんねえけど、その道はどこだ? 掘るんだろ? 俺、腕力なら負けないぜ」

「俺もだ!」

 クリプトンとリンはレーダーに従い、争うように道を掘り進める。それを見ていたラドンは感嘆の声を上げた。




 ある程度まで掘ると、そこで砂の連鎖は落ち着いた。洞窟が口を開けて待っている。地上では暑かったのと対象に、この場所は凍えるような寒さだ。すれ違っていた動物たちは、ここではほとんど姿が見えない。

「地下に、こんな洞窟があるなんて」

「暗いな。明かりは……」

「俺、持ってる」

 リンがライトを点けた。足元しか見えないが、ないよりはましな光だ。

「おおーい、皆、無事か」

 遠い地上でラドンの声が聞こえる。

「大丈夫だー! 洞窟が見える!」

「そうか! 吾輩とハイドロ様はここで待つから、何かあれば駆け上がって来い。無理はするなよ」

「はーい!」

 ラドンは声を掛けてくれるのに、今日のハイドロは珍しく口を出さないと、クリプトンは思う。しかし、わざわざ通信で聞くにも何と言って声を掛ければよいのか分からなかった彼は、そのまま進むことに決めた。


「寒。上はあんなにパッサパサだったのに、何でここは湿ってんだ?」

 リンが先頭を歩きながら声を響かせる。

「砂漠になる前はこんな所だったのかも。時間の経過で、表面が砂漠化したんだ」

 ケイの答えを片耳に入れながら、クリプトンはレーダーを確かめた。着実に近づいている。

「もうすぐだな。多分、この道を曲がれば、でっかいホウ岩があるはず!」

 リンが道を曲がる。それに続こうとして、クリプトンは咄嗟に足を止めた。


 耳にこびり付いていたあの音が、空耳ではなく、目の前で走った。


「リン!」

 後ろにいたケイが悲鳴を上げてリンに手を伸ばす。その手を掴んで、クリプトンは後ろに下がった。再び銃声。

「敵だ!」

 リンが撃たれた。敵が近い。この暗闇の中、迫られればおしまいだ。

 リンが撃たれたのは胸。リンの高さからして、敵の弾は地上から百六十センチの場所を狙った。それなら……

 クリプトンはしゃがむ。戦場へ降りる前に、ハイドロから預かっていた武器を手に取る。まさか本当に使うことになるとは。

「ケイはここにいてくれ」

 しゃがんだまま走り、リンが手放した明かりの元まで来ると、弾が飛んできた方向へ二発撃った。静かに呻く声が一人分、聞こえる。その横から後ずさるような足音。

「そこにも、」

 方向転換して撃つ。何も聞こえない。

「うっ」

 今度は、自分の足元に飛んできた弾を数ミリの所で避けた。


 もう何人かいるのか!?


 クリプトンはリンを蹴らないように移動し、耳を澄ませる。聴力には多少の自信があった。だが、自分のやかましい鼓動でよく聞こえない。


『……聞こえるか』


 耳に、救いの声が聞こえた。

『窮地の五感は何の役にも立たない。お前には他の力があるはずだ。前回を思い出せ』

 前回……いつの間にか身体が動いて、味方を助けに行ったこと。撃ったこともない銃を、土壇場で使えたこと。あの感覚を、もう一度。


「できるさああ!」


 クリプトンは走り出す。暗闇で暗闇と戦う。どこまで続き、どこに標的があるかも分からない。頼るのは全て、自分の第六感。



 感じた!


 暗闇に浮かぶ的を一撃で仕留める。何かが倒れる音と共に、気配は消えた。


「おい、無事なのか!?」

 ドスドスと足を働かせ、ラドンの声が近づいてくる。それに安心したのか、クリプトンの膝は崩れ落ち、手を付いていた。

「ケイ! 無事かっ、リンは!? クリプトンは!?」

 ケイは涙を流しながら、震える手でリンを指差す。

「リン! リン! しっかりしろ! リン!」

 ランプを捨て、青い顔でリンに呼びかける。横たわるリンの顔は、それより青かった。


 すぐ近くの声なのに、クリプトンには遠くで響く声のように聞こえる。遠くで指示を出すラドンの元へ向かう必要があると分かっていても、足が、膝が、石のように動かない。ただ仕事をサボった忙しい脳を躍らせて、眼球は黒一色の世界を嘗め回している。

 背後から、徐々に光が差し込んだ。

「クリプトン」

「……ハイドロ」

 ハイドロの手元が照らすのは、死体が二体転がった景色だ。死体は二人ともガリガリに痩せ細っており、人間というよりは骸骨に近かった。

「二人ともコイオリードの奴だ。高得点のホウ岩があるのをいいことに、敵の待ち伏せを強制されてたってところか。いかにもコイオリードがやりそうな手口」

 クリプトンに見向きもせず、ハイドロは琥珀色のホウ岩に近づいた。岩にしがみ付いたそれをえぐり取り、クリプトンに投げる。

「取れよ。お前の点数だ」

 目の前の琥珀色は慰めるように、優しくクリプトンを見上げている。クリプトンはリンの命だと思い、それを手で包んだ。




 地上に出ると、ラドンに応急処置をされているリンと、魂が抜けたようなケイの姿があった。

「ハイドロ、リンは助かるのか」

 クリプトンの縋りに否定も肯定も捨て、ハイドロはラドンに近づいた。

「もう、リンにこれ以上できることは、俺たちにない」

 ハイドロの言葉を聞いて、スッと手を下げたラドンは深く呼吸をした。

「……そう、だな」


 選択をしたハイドロとラドンに、クリプトンは言いようのない煮えたぎる感情を抱く。


 諦めるのかよ、助かるかもしれねえのに!


 気持ちだけが燃え上がる。だが、かといって自分が何をできるでもない。力不足を知ったクリプトンは歯を食いしばることしかできなかった。

 ラドンはクリプトンとケイに向き直ると、頭を下げる。

「吾輩も、君たちと行けばよかった……掟を破ってでもリンを守ればよかった。吾輩の責任だ。すまない」

 二人は声を出せない。クリプトンの目はずっとリンを見ている。

「ここにいても気分が晴れないだろ。二人とも、オアシスへ行ってこい。ここから西だ。敵はいない」

 ハイドロの提案が命令に聞こえて、二人は言葉を返さずに西へ向かった。


 猛暑も、喉の渇きも、嘘のように感じない。ただ、心だけが乾いている。今、自分たちが足を付けているフィールドのように。砂の山を登って、下って、繰り返す。

「ケイ、オアシスだ」

 クリプトンの言葉に返ってくる言葉はない。

 オアシスは濁った緑色で、とても水分補給ができる贅沢なものではない。しかし、景色が変わらない砂漠では、水の存在を確認できただけで気持ちが少し柔らかくなるようだ。

 集まっていた動物たちが人間の気配を感じて逃げていく。そこに、二人は腰を下ろした。

「俺、人を殺すのもまだ慣れてなくて、この先、どうしたらいいか分からない」

 クリプトンは正直な心情を述べた。強くはなりたいが、そのために人を殺すのでは、人が殺されない世界を作り上げることに矛盾を感じる。

「今日で、二人も殺して……しまった」

 直で放射されている熱は肌に痛い。クリプトンは文句を言うように空を見上げる。


「……俺とリンは、小さい頃から一緒で、兄弟みたいに育ったんだ」

 膝を抱えたケイがポツリと話し出した。

「リンは身体を動かすのが好きで、俺は道具作りが好きだった。だから戦場に出たら、二人で協力しようって約束した。ギフテとシュンスなら、いいタッグだって」

 ケイは顔を上げる。

「ラドンさんは最近出会ったんだけど、まるで父親のように指導してくれて。俺は、あの二人さえいれば大丈夫だと思ってた」

 熱風が二人の頬を撫でる。

「でも、俺はいつも遅れを取って、二人に迷惑ばかり掛けてた。今回も、そうだった」

 ケイの声は震える。

「俺がもっと警戒できてたら、リンは撃たれなかったかもしれない。もっといい道具を作れていれば、今回のことは避けられたかもしれない。でもね……」

 クリプトンの目を見る。

「クリプトンがいなければ、俺まで殺されてたかもしれないと思うと、それが一番悔しいんだ。クリプトンが俺の腕を掴んでくれなければ、俺はリンと一緒に撃たれてた」

 クリプトンが必死で掴んだケイの腕。あの時の選択が正しいものだったのだと、クリプトンはこの時、初めて確信できた。ケイが駆け出すのを止めなければ、リンが受ける弾は一弾だったかもしれない。クリプトンがケイを押さえたために、リンは二発の弾を受けることになったのだ。

「俺は絶対、世界一凄い道具を作ってみせる。強さで人々を守れるような。そんなのを……だからクリプトン、それまで頑張ってほしい。俺の我儘だけど、戦場にいてほしい。プッイの人々を守って」


「君には、素質がある」


 同じことをハイドロにも言われたような気がする。クリプトンは思う。自分の中の何かが他よりも優れているならば、それを使わないのは、金をドブに捨てているのと同義。せっかく目標を達成できるだけの土台を持っているのに、その上に寝そべっているのでは、いつか死んでも死に気づけないだろう。そんな間抜けな人生を自分から物語る筋合いは、ない。


 俺がやらなきゃ、誰がやるんだ。


「口では迷いながら本当は分かってんだ。やめる気がないことも、俺ならできるってことも」

 豪語だな、と我ながら思うが、それでも迷いはなかった。クリプトンには、誰にも凌げない天賦の才が備わっている。

 二人は、寂しい笑顔で優しい拳をぶつけ合った。

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