無責任男、打ち明けられる

 翌朝、二人仲良く宿を出て、自宅へと歩く。

 

「ねえ、ずっとセイジが入っている感じがするわ」


「実際、入れたまま寝たからな」

 

「あ、あなたじゃないとだめなの」

 セレスの耳元で昨日の夜に叫ぶように言っていた言葉をささやく。

 

「うるさい、あんたなんて嫌いよ」

 

「嫌いな男でも一緒に寝るのか?」


「そんなわけないじゃない、セイジだからよ」

 

「まあ、あれだけ好き好きいってたもんな」


「もう、セイジが言わせたんでしょ!」

 セレスの恥ずかしそうな言葉を聞きながら、俺は笑みを浮かべる。

 

「ねえ、セイジ好きよ」

 

「おう、俺も大好きだぞセレス」

 不意打ちを与えたつもりの彼女だったが、逆にカウンターをもらって赤くなる。

 

「なんで照れないのよ!!」

 

 彼女をからかうと、反応が面白い。

 そんな仕草が可愛くて、つい頭を撫でようとする。

 

 すると、セレスは俺の手を避けるように速足で歩き始める。

 そんな彼女を追いかけては、さらに早く歩いて避ける。

 二人は、はたから見るとバカップルそのものの状態で、帰るのであった。



 

二人で仲良く帰宅した後、すぐのことだ。


「じゃあ、行ってくるわね、イーリヤのこと頼んだわよ」


 セレスは、帰宅してすぐにメルヒオールさんの店へと再度出かける。

 

 本来、メルヒオールは昨夜には帰宅し、夜の仕事をする予定だった。

 しかし、俺たちが朝まで帰らなかったため、店に戻らず待っていてくれたのだ。


 彼女は『若い者同士がデートしたら、朝まで帰ってこないのも仕方ないさ』と笑っていたが、セレスは引かなかった。

 

 ならばと、彼女が店に出られなかった損失を補填するために、セレスが一日店員をすることになった。


 一日とはいえ、美少女が接客をすると売り上げが上がる、ましてや女となったセレスの色気はかなりやばい。

 耐性がない男は、口説き落とすためにお金をたくさん使ってアピールをするだろう。


 

 セレスを見送った俺は、イーリヤの部屋へと来ていた。


「セイジお兄さん、お姉ちゃんのことありがとうございます」


「俺がしたくてしただけだから、気にすんなよ」


「私、お姉ちゃんだけが心残りだったんです。私たちの話を聞いてください」

 

 イーリヤは、ゆっくりと語り始めた。

 今は亡き、母と父、そして兄のこと。

 姉妹の境遇が、どんなものだったのかを。


 ◇

 

 私たちはもともと領地貴族の娘で、悪事に手を染めることもなく、財政状況も至って普通でした。


 しかし、そんな平穏な日々に変化が訪れました。領地内で手に負えないほどの強力な盗賊がのさばり始めたのです。


 父は事態を重く受け止め、冒険者や縁のある貴族たちに増援を求めましたが、どこへ助けを求めても何かと理由をつけて断られました。

 貴族として出しうる見返り以上の礼を提示しても同じでした。


 この状況が続けば、商人は領地に近づかず、領民も疲弊し、流出していきます。


 財政を立て直すために、身銭を切り、備蓄を吐き出し、限界が近づいていました。


 そして、その時はすぐに訪れました。財政は取り返しのつかないほど悪化し、借りるしかない状況になったのです。


 しかし、明らかに没落している貴族に金を貸す者はいません。


 そんな中、有力な貴族が父に手を差し伸べました。盗賊退治はもちろんのこと、お金も即座に手配してくれたのです。


 その貴族が討伐に出ると、あれだけ苦労した盗賊たちはすぐに討ち取られました。


 また、出し渋っていた縁のある貴族にも声をかけてくださり、お金の工面もうまくいきました。

 お金は、その貴族が一番多く出してくれました。


 もちろん、その方とは会ったことがあります。

 見た目は40歳ほどのとてもふくよかな方で、私を物色するかのように見つめる目はとてもじゃないですが、いいものではありませんでした。


 だから、恩人とはいえあまり好きになれませんでした。


 財政が回復し始め、私が10歳になったころ、その方が私を嫁がせてほしいと言いました。

 父は、まだ幼い私ではなく、15歳のお姉ちゃんならばと提案しましたが、その方は首を縦に振りませんでした。


 そこからでしょうか? 父は書斎でよく頭を抱えるようになりました。

 でも、私やお姉ちゃんが近づくと、なんでもないように優しく話してくれたのを今でも思い出します。


 嫁ぐことなく過ごしていたある日、とても悲しい出来事が起きました。

 父と母、兄が王都へ挨拶に行った帰り道、領地で盗賊の残党に襲われたのです。


 父と母、兄も……みんな即死でした。


 私は信じられず、何かの冗談だと思いました。

 でも、騎士たちが拾い集めたであろう肉の塊にあるリング状のものを見て、現実を知りました。

 そのリングは、お父さんとお母さんが仲良くつけていたものです。


 私は立っているのも辛くなり、泣き崩れました。

でも、お姉ちゃんは違いました。泣くこともせずに私を抱きしめ、ただただ背中をさすってくれました。

 全く泣かないお姉ちゃんは、家族が殺されても悲しくならない鬼だと感じました。


 しかし、それは私の思い込みだったことを知ります。


 夜、母と父の部屋を通った時にお姉ちゃんの声が聞こえたのです。

 そっとドアを開けて覗き込むと、お姉ちゃんがお父さんとお母さんの布団に顔を埋めながら泣いていました。


 そんなお姉ちゃんを見て、私も泣いてしまいました。


 翌朝、お姉ちゃんは何事もなかったかのように『この先どんな理不尽が待ち受けていたとしても、イーリヤあなたは強く生きなさい』と言ってきました。


 しばらくして、親戚の男が領主に着任しました。この国では、男児以外は領主になることができません。


 その男が着任してすぐに、私はあの有力貴族へ嫁ぐことが決まりました。嫌でしたが、家を守るために仕方ないことだと覚悟を決めました。


 嫁ぐ日がだんだん近づくにつれ、私に余裕はなくなってきます。その様子を見ていたお姉ちゃんは、私に言いました。

 

 『明日、この国をでる』と。

 

 その言葉を聞き、私の覚悟は崩れ去りました。本来であれば、父や母、そして兄が残したこの家を守るために反対するべきでした。


 しかし、私は甘えてしまったのです。

 

 だから意思や覚悟の弱い私が、不治の病にかかるのは当然の報いです。

 


 それから、セレスとイーリヤが冒険者になるまでの話を聞く。

 

「長々とごめんなさい。いま語ったことが私たちの過去です」

 俺は無言で彼女を抱きしめて、頭を撫でる。


 長い話だったが、彼女たちの過去を知ることができた。

 正直なところ、なんて返してよいかわからない。

 いろいろな女の子を見てきたが、ここまで壮絶な人生を送っていた子達は知らない。


 そして、そんな過酷な人生を送ってきたのに、彼女たちは笑っている。

 ……俺はこの子たちを食い物にしてよいのだろうか?


「そうか。話してくれてありがとう」


「私がいなくなった後のお姉ちゃんをよろしくお願いします」


「そんな、悲しいことを言うなよ」

 

「いえ、あの時にできなかった覚悟はできています」

 

「そうか」

 俺は短い相槌を打って、それ以上何も言わなかった。


「それと、私を助けられることが嘘であることは、お姉ちゃんには言わないでください」


「気づいていたのか……」


「わかりますよ、最近はセイジお兄さんのことばかり見てきましたので」

 動揺した俺をよそに、彼女は満開の笑みで答えた。


「じゃあ、胸に耳を当てた時も?」


「もちろん、気づいていますよ? 私のおっぱいそんなに見たかったんですね」

 くすくすと彼女は笑う。まるで小悪魔のようだ。

 

「セイジお兄さん、私の最期のわがままを聞いてください。よかったら、今からデートしてくれませんか?」

 

「俺でよければ、喜んで」

 

 こんなかわいい子のデートの誘いを断る理由など見当たらなかった。

 

 

 無知で病弱だと思ってた女の子は14歳とは思えないほど、誰よりも人を思うことができる力強い大人の女性だった。

 そんなイーリヤに、なぜか翻弄されてしまうので俺であった。

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無責任最低クズ転移者 〜異世界で美女達を好き勝手惚れさせて捨てた結果、逃げきれません!日本に逃げても無駄なので大人しくハーレム婚してください〜 ポパペパ @popHDKK

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