無責任男、破壊する

 山頂から下り、セレスとセイジは手を繋ぎながら昼間の街を歩いている。

 二人の手は指と指が絡められており、周りから見ても深い仲であることは明らかだった。


「ねえ、すごい見られていないかしら?」

 

「そりゃ、セレスみたいな美人とデートしていたら注目浴びるよ」

 

 セイジはすれ違う人たちが自分に視線を送っていることに気付いていた。

 いや、正確に言うのであればセレスにほとんどの視線が集まっているのだが。

 

「まじかよ、セレスさんって男いたのか……」


「あの男、街一番の美少女と手を繋いでいるぞ?」


「あんな可愛い子と手を繋げるなんて羨ましい!」

 

「僕のほうが先に好きだったのに!」

 

「うふん、カッコイイ男の子ね、食べちゃいたいわ」

 

 などと言った男の声が聞こえてくる。

 彼らは、冒険者ギルドでセレスを口説くために一生懸命通っていた男たちだった。


 セレスは、街でも有名な美少女だ。また魔法剣士という強力なジョブにもついている。

 

 だからこそ、狙っていた男もたくさんいたが、セイジと手を繋いで心底幸せそうに歩いている彼女の姿に見惚れると同時に脳に小さくないダメージを食らう。


 しかし、男たちは、邪魔をするという邪推なことは一切せずに、哀愁あいしゅう漂う背中で真昼間の酒場に歩いては消えていった。


「僕のセレスたんが……。葛原、また僕の邪魔をするのか……殺してやる」

 誰にも聞こえない声でぶつぶつという話すただ一人を除いてはだが。

 

 

 

 

 大通りにある屋台で鳥の串焼きを購入し、ゆっくりと露店を巡る。


「すごくおいしいわ」


「確かにうまいな」

 彼女の串に食らいつき、俺も堪能した。

 焼き加減も良く、鼻から突き抜けるタレの匂いは香ばしいし、肉も柔らかい。絶品だ。


「何勝手に食べてるのよ」


「こういうのって二人で共有したほうがおいしいよ」

 食べかけの塩の串焼きを彼女に差し出す。


「それなら、仕方ないわね」

 少し嬉しそうな顔をし、俺の指まで食べた。


 この大通りは、食べ物はもちろんのこと、衣服や装飾品、本など多岐にわたって並べ売りされている。

 

 しばらく見て回ると、突然彼女が立ち止まる。そこは、宝石やアクセサリーなどが売られている露店だった。

 

「可愛いわ」

 彼女は並べられているネックレスを手に取る。

 それから、ブレスレットを取ったり、イアリングを取ったりと、目をキラキラさせながら見ていた。

 

「セイジ? どっちが 似合うかしら?」


 金のチェーンネックレスと宝石がついた銀のネックレスを見せながら、彼女は期待したような目で俺を見る。


「セレスの自信に満ちた雰囲気には金のチェーンネックレスは似合うと思うよ」


 不満そうな顔をした彼女が、何かを話す前に続ける。


「でも、宝石の付いた銀のネックレスもセレスの美しさを引き立ててくれると思う。どちらを選んでも素敵だよ」


 セレスは満足そうにしていたが、どちらも買わないと言い、戻してしまった。

 

「あっちの衣服の露店も気になるわ」

 そして、彼女は手を離し行ってしまう。


「やれやれ、店主この銀のネックレス売ってほしい。いくらだ?」


 適当に選んだわけではない。彼女が見ていたのは、ほぼこのネックレスだったからだ。

 まさか、異世界に来てまで、どっちがいい?攻撃をくらうとは思っていなかった。

 

「あいよ、銀貨1枚だ」


「じゃあこれで」

 

「まいど、またきてくれよな」


 回りくどく『あなたに買って欲しい』とアピールしていた彼女の思惑に乗せられて購入する。


 ネックレスというものは、恋仲の異性にプレゼントするには、少々重い意味合いが含まれている。

 ましてや、ルビーの宝石付きとは。

 

 買い物を終え、セレスを探す。

 すると、服屋ではなく通りに立っていた。


「ど、どこ行ってたのよ?」

 目を合わせずに動揺する彼女を見て笑ってしまいそうになる。が、突っ込みはしない。


「わるい、さっきの宝石店で集中していたから気づかなかった」


「そ、そう? 気にしなくていいわよ?」

 普段なら間違いなく怒るであろうセレスに、めんどくさいなと思いつつ手を握りなおした。



 夕暮れ時、大通りを抜け、メルヒオールの経営する飲食店へと入る。

 

「らっしゃい! おや、セレスじゃないか? めずらしいな」


 店主の声と同時に、他のテーブルにいた冒険者たちがこちらを見てきた。

 

「ガルドさん、お久しぶりです」


 彼はメルヒオールの夫であり、この店の責任者でもある。

 セレスとは冒険者時代の顔なじみだ。

 

「元気してたか? っと、横にいるのがお前の男か?」


「ええ、私のよ!」


 セレスは手を離し、俺の腕をない胸へと引き寄せる。

 彼女の宣言とともに、周りで飲んでいた男たちの落胆が目に見えた。


「くそ、やっぱりセレスの男だったじゃねえか」


「俺、結構本気で狙ってたんだけどな」

 

「今日は、やけ酒だ!」


 特に絡んでくることはなく、酒を注文する男たち。


 それもそうだ、相手の能力がわからないのに喧嘩を売ることは命の危険に直結する。

 いくら好いた女だからと言って、無理やり相手の男を引き離してアプローチする輩のことを好きになる女などいない。

 よほどの恨みを買われていない限り、起こりえないことだ。


「ここに座ってくれ」


 案内された奥にポツンとある二人掛けのテーブルに座る。


「セレスとはどういった経緯で知り合ったんだ?」

 

「あ~、まぁ偶然ですね」


 さすがに刺されて異世界から転移してきたなんて言えない。

 それに、まだ俺はセレスやこの人たちにも本当の意味で正体を明かすことはできない。

 

「そうか。しかし、まさかあのセレスが男を連れて来る日が来るとはな」

 

「どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味だよ」


 ガルドは笑いながら、酒瓶をくるくると回す。

 

「お前、昔っから冒険者一筋だっただろ? そんなんで男ができるのか、なんて冒険者同士で心配してたんだぜ」


「うるさいわね。私には私の考えがあるのよ!」


「そうかよ。ま、めでたい話だ。とこれサービスだ」


 少し高そうなお酒を受け取り、2つの杯に注いでくれるガルド。

 

「邪魔して悪かったな、ゆっくりしていけよ」


 セレスとの馴れ初めを聞かれ、少し話すと料理も運ばれてくる。

 初めて食べる異世界の店の料理はかなり美味しくて驚いた。

 食事を進めながら酒を飲むセレスに聞いてみる。

 

「なぁ、セレスって冒険者の時の話しって……!?」


「セイジぃ……セイジぃ……」


 頬を赤く染め、とろんとした目で俺のことを見つめる彼女はとんでもなく出来上がっていた。

 

「ちょっと大丈夫か?」


 いくらなんでも酒に弱すぎる。ここまで弱い女は初めて見た。

 

「うへへ、お酒おいしー」

 

 対面で座っていたはずの彼女が立ち上がり、俺の膝の上に座ってきた。

 く……周りの視線がとんでもないことになっていた。

 

 『くそ! あれはもう抱かれてる』


 と血涙を流す男たちを無視して、セレスを抱っこしながら立ち上がる。

 彼女は俺の胸に顔を擦り付けて、『セイジの匂い好き~』と、嬉しそうだ。

 

 そして、ガルドさんのもとへ行き、会計を済まし、2階の宿屋を借りる。

 去り際に後ろを見ると、満面の笑みでガルドはグッドサインをしていた。


 部屋に入り、セレスをベットに寝転ばせ、隅に座る。


「いくらなんでも、酒に弱すぎるだろ……」

 ガルドから貰った酒を半分程度しか飲んでいないのにあの酔いっぷりだ。


「シャワーを浴びるか」

 ベッドから立ち上がろうとすると、何かが俺の服を引っ張った。


「セレス、体洗いたいから離してくれ」

 自分の服を引っ張った彼女を見る。

 

「襲わないの?」

 体が火照って暑かったのか、スカートを乱雑にまくり上げ、胸元をはだけさせていた。


「酒でつぶれた女を襲う趣味はないんだ」


「いくじなし……」

 セレスは俺の手を掴み、太ももの近くへと持っていく。

 そこは、湿りっけが凄く、物凄く熱かった。

 

「ほら、ね?こんなに濡れてる。……だから……」

 俺は、彼女に覆いかぶさり、彼女の両手を頭の上で押さえつける。

 

「セレスから誘ったんだからな?」

 彼女の唇と自分の唇を合わせた。

 

「んっ……んちゅ……」

 舌を絡ませ、互いの唾液を交換する。

 

「はぁ……はぁ……」

 息苦しくなり、口を離す。

 

「もう終わり?」


「そんなわけないだろ」

 

 どこか、挑発的な彼女を押し倒し、彼女の服を全て脱がし、情熱的な朝を迎えた。

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