無責任男、デートする
「はあ……はあ……セイジ、あんた最低だわ」
「本当にすまない」
最低というには、いささか無理のある甘ったるい声で話すセレスを前に謝罪する。
「すごい心配してたのに、魔物みたいに襲ってきて怖かったわ」
「昨日の俺はどうかしていた」
「なによ、どうかしていないと襲わないくらい私は魅力的じゃないわけ?」
「そんなことはない」
「まあいいわ、遅かれ早かれこうなることはわかっていたわよ」
「めんぼくない」
「もう、満足したでしょう? 1週間も帰ってこなかった理由を話しなさいよ」
「ああ、そうだな」
俺は、ダンジョンで起きたことを話した。
「そう……よかったわ、……で」
ボソボソと話す声。
俺は、本当に安心した彼女の顔を見て罪悪感を感じた。
こんな優しい女の子の想いを近い将来、踏みにじってしまうのだから。
「なあ、セレス、俺も大好きだぞ」
「!?」
かすかに聞こえた『大好きなあなたが無事で』という言葉に返答すると、彼女はものすごく照れたのであった。
「よし、明日デートに行くぞ」
「ねえ、デートはやっぱりやめないかしら? イーリヤを一人にしておけないわ」
申し訳なさそうな顔でセレスは話す。
「そのことだが、気にしなくても大丈夫だ」
「え、どういう意味かしら?」
「メルヒオールさんに護衛を頼んだら、快諾してくれたぞ」
「そう。でも、苦しんでいる彼女を一人にして私だけ楽しんでいいわけ……」
イーリヤは脚が動かなくなっているため、寝るとき以外はセレスが付きっ切りで介護している。
だからそう言ったのだろう、しかし俺はイーリヤを断る理由にさせないために詰める。
「イーリヤにはあらかじめ伝えてあるから大丈夫だ」
「でも……」
「俺と出かけないお姉ちゃんは嫌いになるって」
「そんな言い方ずるいわ」
「俺とデートしたくないの?」
「そんなわけないじゃない」
「じゃあ、どうしたいか言ってよ」
「セイジさん、あなたとデートしたいです……」
顔と耳を真っ赤にしながら、彼女は宣言する。
「そんなに俺とのデートを楽しみにしていたのか」
そうかそうかとからかうと、怒った顔で立ち上がり俺の腹の上に飛び乗ってきた。
そんな二人はまだ裸だった。久しぶりのことを終えたばかりの俺は当然反応した。
「悪い、たったわ」
「え!?」
彼女の視線が下を向いたと同時にセレスの腰をつかんでずらし、第二試合がはじまる。
そして、当たり前のように延長戦までもつれ込み、乾いた音と激しい水音が部屋に響き渡ったのであった。
◇
セレスの部屋で起きた俺は、食卓へと移動し、朝食を食べていた。
「なあ、そんなに見つめられると食べづらいんだが……」
「み、見てないわよ!」
プイっとわかりやすく顔を背け、ご飯を頬張るセレス。
「ふふふ、お姉ちゃんが元気出てよかった。セイジお兄さんが予定通り帰ってこなかった時から、毎日泣いてうるさかったんだから」
「イーリヤ! 余計なこと言わないで!」
「だって、ほんとのことだもん!」
「本当に二人は仲がいいんだね、俺は兄弟がいないからそういう関係が羨ましいよ」
ほのぼのとした家族風景に癒されながら、ファイアバードの目玉焼きを食べる。
「セイジお兄さんの家族のお話聞きたい~」
「どうしようかな。そんなに面白くない話だぞ」
「あたしも聞きたいわ」
「話せばきっと長くなるから、また今度、時間のあるときにね?」
「仕方ないわね、絶対よ」
「おうよ、絶対だ」
親の話なんかしたくなかった俺は、話を無理やり切って朝食を食べ始める。
それから、俺は女将のもとへと行き、家に戻る。
「メルヒオールさん、すいませんがイーリヤのことよろしくお願いします」
あらかじめ話していたとはいえ、急なお願いに快諾してくれた彼女には頭が上がらない。
「気にすることないよ、困ったときはお互い様だからね。それに男を全く寄せ付けなかったセレスに、旦那が出来たのなら応援したくなるってもんだよ」
「旦那って!? セイジはまだ、そんなんじゃないわよ……」
徐々に小さくなる声のセレスを見て、メルヒオールは微笑む。
「とにかくイーリヤのことは任せておくれよ。引退したとはいえ、まだまだあたいはやれるからね」
「いってきます」
軽い談笑を終え、玄関を後にする。
「いつものズボン姿も可愛いけど、今日のスカートを履いているセレスも可愛いね」
俺は歩きながら、彼女の服装について褒める。
彼女の服装は、白のブラウスに白のジャケットを重ね、エメラルド色のスカートに小麦色の広いつばの帽子を身に着けていた。
いわゆる森ガールコーデだった。詳しく褒めることよりもストレートに褒めることが大事なのでそうした。
「ありがとう、セイジもすごくかっこいいよ」
帽子を少し深めに被りなおしながら言う彼女の口元はものすごく緩んでいた。
まったりとした朝の街を歩き、草原へと出る。
そして、整備された街道を進み、クゴロス山へと着く。何もダンジョン攻略に来たわけではない。山へ登り、ピクニックをするためだ。
セレスは、イーリヤの両脚が動かなくなってから常に家にいる。彼女の身を守るためだ。
心配なのだろう。過保護と思われるかもしれないが、世の中には動けない女を食い物にする悪い奴らもいる。
日本でも泥酔した女を無理やり連れて帰り、好き放題する悪人もいるわけだ。
世界が変われど、そういった輩が一定数いるのことは自然の摂理だ。
「疲れたわ」
山の中腹あたりに差し掛かったあたりで彼女は呟いた。
「少し、休憩するか」
彼女を近くの岩に座らせて、水筒を取り出して渡すとごくごくと飲み始めた。
やがて満足したのか、水筒を返してきた。
俺はセレスが口をつけた部分にわざと唇を当て残りのお茶を飲みほした。
「間接キス……」
唇を押さえながら、顔を赤くする。
昨晩、浴びるほどのキスをしたというのに可愛い女だ。
「よし、行くか」
そう言って俺は彼女の手を握って立たせて進みだす。
もちろん、手は握ったままだ。彼女の手は少し汗ばんでいたが嫌ではなかった。
ちらりと彼女を見ると嬉しそうな顔を見られないように、地面を見ながら引っ張られていた。
「わあ……綺麗ね……」
目的地である山頂へとたどり着く。そこから見える見渡す限りの緑の中に存在する街は綺麗だ。
そして、そよぐ風は涼やかで、とても心地いい。
「ああ、綺麗だ」
「どこを見ながら言ってるのかしら?」
明らかに街のほうを向いていない俺に対して彼女は言う。
「この素晴らしい景色に見とれている君を見て言った言葉だよ」
「あなたと一緒に見ているからよ。だから、私は綺麗になっているの」
自分で言っておきながら、恥ずかしくなったのか、顔を両手で隠してしまった。
「こっち見ないで……」
俺はゴクリと唾を呑み込み、周りを見渡す。
周囲には人影はおろか、魔物すらいない。
なら、いいよな?
「ごめんだけど、そこの岩に両手を置いてくれる?」
「な、なんでかしら?」
言われるがまま、彼女が両手を置いた瞬間に彼女のスカートをまくり上げる。すると、彼女の白い下着が露になる。
そして俺はその下着を膝まで下ろし、そのまま……。
「けだもの! 変態!」
「ごめん、ごめん。可愛すぎたからつい」
乱れた服装を正しながら、そっぽを向く彼女に謝っていた。
「はい」
「これは……?」
相変らず、こちらを見ない彼女はなぜかカードを渡してきた。
「あんたの貰ったから私のもあげるわ。シャングリラに行って帰ってきたら色々と関係を進めましょう」
「無事に帰ってこれたらね。そしたらきっと俺たちの関係も変わるだろうから」
彼女の言葉は、俺が巻いた嘘という種が既に取り返しのつかないところまで成長していることを再確認させる。
そして、山頂から見えるアルフの街は遠くないはずなのに、ずっとずっと遠く感じさせられた。
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