無責任男、ダンジョンを踏破する
アルフの街から北へまっすぐ歩いてたどり着くクゴロス山脈の麓にある洞窟ダンジョンへ来ていた。
「あいからわず、この洞窟に入るのは慣れないな」
外から見て、光も全て飲み込んでしまうほど黒い洞窟穴。入るにはどこか不気味だ。
しかし、入ってみると洞窟なのに昼間と勘違いしてしまうほど、明るい光景が広がる。
「今日は、ボス部屋まで行くぞ」
ボスは、ゴーレム。その強さは、Dランク相当の冒険者がパーティーを組んで戦う相手だ。
だが、俺の強さならソロでも十分勝てるらしい。というのも、セレスに言われたことを納得しただけだ。
今朝の彼女は、俺のステータスカードをニマニマと見つめながら、そう言ったのだ。
そして、ステータスが見たいから、『返して』というと慌てて後ろに持っていって『いまさら、嫌よ』と拒否られた。
彼女は何でもない時ですら俺のカードを大切に持っている。寝室はもちろん、風呂やトイレ、食事の時でさえ身に着けている。
取り返す隙が全くもってない。
たかが、俺のカードであんなにうれしそうな顔するなんてチョロいにもほどがある。
俺自身あげたつもりはないんだが、あんなにも喜ばれるとどうしても強く出られなかった。
ここの洞窟ダンジョンは、全15階層からなるDランク相当のダンジョンだ。ボス部屋まで行くには、ひたすら地下へと続く階段を探すしかない。
そして、なぜかランダムマップだ。まるでゲームのような世界だなと錯覚を覚える。
この中で倒した魔物は、素材や強さに応じて異なる大きさの魔石をドロップし、その魔石は電化製品の電気のように魔道具を動かす動力になっている。
だから、ダンジョンに冒険者がもぐることに需要が生まれているようだ。
「やっと、見つけた」
2階層に続く階段を見つける。ボスを倒すことを目的としているため、余計な戦闘は行う予定がない。
今回の踏破は約3日程度掛けてダンジョンに潜る予定だ。
3日も彼女たちと離れるのは少し寂しい。
だが、俺も男だ。
日本にいた時、味わえなかった濃厚な死のやり取りという非現実のロマンに、焚きつけられてしまっている。
しかしながら、セレスも寂しかったようで、思い切りハグして見送ってくれた。
俺は、いけると思って『もし、無事に帰ってこれたらデートして』とフラグを言った。
彼女は俺の胸に顔をうずめ、首を縦に振ってくれた。表情は見えなかったが、耳は髪色くらい真っ赤だった。
敵を避けて進み、6階層に着いたころ、俺はとある魔物を追いかけていた。
「待てや、こら!」
見た目は、銀色で液体みたいな動きをするあいつだ。
戦闘は避けるといっても、あいつは別だ。
落とす素材が謎の金属っぽくて高級感あるし、日本人としてそそられる。
あいつを見かければ、落ちている石を全力で投げつけて倒す。
そして、あいつは逃げることしか能がない上にひたすら素早い。
初めて会ったときは、鳥肌が立った、一瞬の隙で消えるGみたいだったから。
ひたすら追いかけっこをして、見晴らしのいい場所に出た。
「今がチャンスか、食らえ!」
手に握りしめた
「くそ、避けられたか」
あいつはやたら回避力が高い。しっかり狙っても高確率で回避してきやがる。
近づけば、当たるチャンスも増えるが……。
一か八かで気合をいれる。ステータスはわからないが、感覚で掴んだあの技を。
体が軽くなった。やつにドンドンと近づいていく。
「あっ……」
あと少しというところで、技の効果が切れた。
逃げられるっ!
「こんだけは走らされたんだ! 逃がすか!」
腰にぶら下げていた、剣を思い切り投げつける。
「やったか!?」
奇跡的に中心部に刺さって、倒すことに成功した。
「疲れた……」
床に散らばる魔石と銀の素材を拾い、紫と青のリングに収納する。
収納時は対象が、わかりやすく光って消える。
初めは、きれいだと思ったが、今は仕舞うのがめんどくさいから自動にならないかなと思ってしまっている。
日本人の悪い癖だ、便利を知っていると不便が苦痛に感じる。
そして、俺の指にはめられた、4本のリング。
人差し指の紫のリング、魔石を入れる用。
中指の青のリング、素材を入れる用。
薬指の赤のリング、魔物の死体を入れる用。
小指の銀のリング、食料や貴重品を入れる用。
この世界ではリングの使い分けが多い。
だから薬指にはめても彼女は何も言わなかったのだろう。
なぜ1つのリングに機能をまとめないのかと言われれば、答えは簡単で複数にしたほうが儲かるからだろう。
また今ははめてはいないが、金のリングも存在する。
それは、武器を収納する用途で使われる。使う際は、街の指定の場所で届け出て、入っている武器を見せなければならない。
異空間に、武器を入れられるということは中身の確認をしておかなければ、反乱や暴徒化した時の危険性があるためだ。
10層にあるセーフティーゾーンへと着く。
異世界にありがちな、謎に存在する魔物から襲われない場所で俺はひとり休憩する。
今日の飯は、セレスが作った肉多めのサンドイッチと野菜スープだ。
焚き木の熱で温まったスープを飲む。暖かくて優しい味だ。
彼女は気高そうな振る舞いをしている割に、料理や掃除など女子力が高い。
だけど、今だけだ。結婚したらきっと変わる。女というのはそこを終着点としているやつが多い。
籍を入れたら夫にお小遣い制という名の質素を強いり、交流関係に口を出すようになる。
しかし、自身は優雅にお茶会などをし、指摘されれば激高する。
「嫌な記憶を思い出してしまった……。寝よう」
寝袋を取り出し、明日に備えて眠った。
◇
15階層のボス部屋の前に着く。
ここまで人と会っていない。その理由は、同時に入らないと別空間に飛ばされてしまうからだ。
「セレスから聞いてはいたが、壮観だな」
大きな空間にぽつんと置かれた闘技場。どでかい門と2対の石像が鎮座していた。
ボス戦が今からあります、と案にわからせるような感じだ。
門の前に進むと、ギギギっと音とともに門が開く。
俺は、覚悟を決めて入る。
「は?」
ゴーレムじゃなかった、玉座に座る首がない魔物。
明らかに強そうだ。それと目が合ったような瞬間。
甲高い音とともに俺の右手に激痛が走る。
一瞬で間合いを詰めてきた。
ギリギリだった、剣で防いでいなければ、今頃俺は真っ二つだった。
突然起こったイレギュラーに撤退の二文字が浮かぶ。
が、既に門が閉まっていた。
「はは、やるしかないか……」
一度、終わったと思って救われた俺の命。
ここで終わるわけにはいかない。
こんなところで死ねるわけがない。
あいつらを残してなんて。
流れる冷や汗をぬぐい、覚悟を決める。
ゆっくりと息を吐く。
そんな俺の覚悟を待っていたかのように、奴は待っていた。
刹那、奴は消える。
「っ……!?」
意識を集中させ、上から気配を感じた。
鈍い音が鳴る。一撃が重い。剣が震える。
このままじゃ押し負ける。
そう感じた俺は、剣の腹で奴を薙ぎ払う。奴はそれを軽々と避け、距離を取った。
そしてまた消える。
今度は右か! 気配を察知し、剣を振りぬく。しかしそれは空を切った。
また消えたのか……!?
いや違う!後ろか? 振り向いた瞬間、既に剣が迫っていた。
咄嗟に剣を前に出すも、その衝撃に受け身も取れずに地面を転がる。
口の中に鉄の味が広がる。
だが、今はそんな痛みにかまっている暇はない。
すぐに立ち上がり剣を構えて、奴を探す。
見つけた、その瞬間、首のない奴の顔がニヤリと笑った錯覚に陥った。
嫌な予感がした俺は、咄嗟に後ろへ大きく飛ぶ。
すると次の瞬間、激しい一閃が飛んできた。
「ははっ……」
思わず、乾いた笑いが出る。
だが怯んでいる暇はない。すぐに体勢を立て直し、奴に斬りかかった。
しかしそれも受け止められてしまう。そしてそのまま鍔迫り合いへと持ち込まれた。
ギリギリと音を立てながら、お互い押し合う形になる。
このままではまずいと思った俺は一旦距離を取ろうとするが、奴の方が力が強く引き剥がすことができない。
一か八か、限界を振り絞り、剣を押し込みながら奴の懐に潜り込む。
そしてそのまま下から斬り上げた。しかし、それも受け止められてしまう。
ならばと思い加速技を使い、一瞬離れると奴は体制を崩す。
再度近づき、思い切り横に切りつける。
ガキンッという音と共に、奴の手から剣が飛んでいった。
その衝撃で手が痺れたのだろう。隙を逃すまいと、俺は追撃を仕掛ける。
しかし奴はそれを読んでいたかのように避け、逆に俺の首を狙ってきた。
間一髪でそれを避けると、今度は俺が奴の懐に潜り込み、剣で胸を貫いた。
決着はついた。
奴を見ると、満足したかのような顔に見えた。
しばらくすると奴はその場に崩れ落ちるように倒れ、消え去った。
奴に刺さっていた剣がカランッと地面に落ち、死闘が終わったことを実感させた。
ふぅっと息を吐き出すと、緊張の糸が切れたのかその場に倒れ込んでしまった。
――どれだけの時間たっただろうか?
目が覚める。
大きめの魔石と奴の残していった剣を拾う、セレスから借りていた剣は折れていた。
彼女の顔が無性に見たくなる、俺はボス部屋にあるポータルを踏み街へと戻った。
街に着いて、大通りの喧騒など気にならないといわんばかりの足取りで走る。
懐かしい家が目に入り、心が沸き上がる。勢いよく扉を開け家の中に入った。
そして、探す彼女を。居間、キッチンにもいない。なら、自室だ。
すぐに向かう、そして見つけた。
彼女は、俺を見ると驚いたような顔をしている。
目はどこかはれぼったく、泣いたような跡があった。
俺はすぐさま、近づき唇を奪った。彼女は、抵抗しない。
ただ、されるがままだ。舌を絡ませる濃厚なキスをしながら、ネグリジェに手を伸ばす。そして、ゆっくりと脱がす。
裸になった彼女は、美しい。白い透き通るような肌をしていた。
しばらくそうした後、口を離すと銀色の橋がかかる。
彼女は潤んだ瞳で俺を見つめていた。その目は何かを訴えかけているようだった。
しかし俺はそれには答えず、そのまま覆い被さる形で貪り、情熱的な朝を迎えるのだった。
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