無責任男、健全な行為だと主張する

「じゃあ、脱いでもらっていい?」

 平然を装う俺だったが、期待と興奮で胸が高鳴っている。


「はい……」

 イーリヤはベッドから体を起こし、ピンク色のかわいらしいパジャマのボタンを1つ1つ外していく。

 静寂の中、銀雪のように儚くはかな脆いもろ肌が少しずつあらわになり、特大のブラに包まれた柔らかそうなマシュマロが見えた。


 ……ごくり。俺は、思わず生唾を飲みそうになる。

 1〇歳なのにデカすぎるだろ。少し揺れるだけでプリンになるとは。


「脱ぎました……」

 イーリヤは緊張した様子でパジャマを完全に脱いだ。

 

「恥ずかしいかもしれないけど、我慢してね」

 イーリヤ山の谷に耳を当てる。柔らかい心音を聞くためだ。

 本来なら聴音機で対応するのだが、あいにくこの世界にはない。

 円筒の物を使えば、肌に触れず聞くことができるが、そんなもったいないことはしない。

 

「背中をこちらへ向けてください」

 10秒ほど顔に当たるプリンを味わい、淡々と告げる俺に横やりが入る。

 

「セイジ! 本当に医療行為なの!?」

 かなりムスッとした顔でこちらを見てくる。

 

「ああ、俺の出身地では心音を聞くことで、病状を判断したりする」

 至極全うな行為であることをアピールし、病人の弱弱しい背中に耳を当て横目で彼女を見る。

 あまり納得はしていなさそうだったが、それ以上は言ってこなかった。


「心音に異常は見られません、イーリヤも疲れているようですし、今回はこれまでにしておきましょう」

 医者の顔でこの場を収めた。セレスがいると触診ができなさそうだったため、それ以上のことはしなかった。

 逆にいなかったら無知シチュエーションが味わえただろう。

 

 それはさておき、なぜこんな素晴らしい状況になったのか。

 天井を見上げ、目をつぶった。


 

 ◇


 

「セイジ。あんたのステータスで気になるスキルがあったのだけれど聞いていいかしら?」

 魔物狩りをコツコツこなし借金返済を進めること2週間、俺は居間でセレスと二人横並びで座っていた。


「何のスキルだ?」


「医術ってスキルよ、これってヒーラー関連のものなの?」

 

「あー。近しいものではあるな」

 ヒーラーとは、回復魔法を使い体の傷や体力、状態異常を治す職業である。

 

「そうだな……。簡単に言えば病気、投薬の判断や手術ができるスキルだな」

 

「投薬? 手術?」

 彼女は首を傾げ、頭をぐるぐるとまわす。どうやら馴染みがないようだ。


「手術は体を切って病気の原因になる腫瘍を取ったりすること、投薬は薬で体の内部を治すことだな」

 

「ヒーラーとは違うのね……」

 彼女は、あごに手を当て、わかりやすく考えていた。

 異世界では、回復魔法で怪我を直すのが当たり前である。体を切って直す概念はない。

 だから迷っているのだろう。妹が治る可能性を信じて。


「イーリヤの病状について、話してくれないか?」

 背筋を正してから彼女の眼をまっすぐと見つめ、切り出す。


「妹はね、体が上手く動かなくなっていって、HPが回復せずにゆっくり減っていく病気なの。 原因はわからないわ」

 やはりと思いつつ、続けざまに質問した。

 

「治す方法はないのか?」


「ヒーラーのスキルじゃ治らなかったわ」


「治すあてはあるのか?」


「いろいろと候補はあるわ。聖女様に治してもらうか、大司祭様にお布施して治してもらうの、あとは……他にはないわ」

 

 聖女とは、ヒーラーが治せないとされる病気を治すことができる世界で1人しか現れないと言われている職業だ。

 発現した時点で、協会へ名乗り出ることが義務とされている。聖女の奇跡は、お金にも縛られない、無償奉仕が常だ。

 だからこそ、民衆は渇望している。なお現代では、その席はまだ埋まっていない。

 

 大司祭は、聖女の対になる存在だと言われ、すでに見つかっている。

 ただ治療を受けるには、莫大なお布施が必要だ。

 白金貨3枚は必要とする。

 

 わかりやすく対にしたのは、貴族が無償奉仕を受けたとなると体裁が悪い、しかし大衆は貴族が払うようなレベルでは対価を支払えない。

 奇跡を独占することは、不満のもとになるのだから分けたのだろう。

 

 この世界の通貨の価値は、白金貨、金貨、銀貨、大銅貨、銅貨となっている。

 白金貨は日本円で例えると100万円の価値があり、金貨から1万、1000円、100円、10円となっている。

 1円などの額面が原価を下回るのものは存在していない。法整備の問題もあり、金属が使われることから鋳て、武器や防具に転用されてしまうからだ。

 生きていく分には、銀貨3枚で十分なようだ。

 

 またアーシアカードで、暗号通貨のように金銭のやり取りできる中、現物が存在している理由として、村やカードの恩恵を悪とする国とも取引できるようにするためだ。


「そうか」

 隠されたであろう選択肢を想像しつつ、今後の計画を立てていた。

 まず聖女を探すことは不可能に近い。大司祭に治療をしてもらうことは借金返済の身であることや明らかに貴族向けの値段設定に無理と悟った。

 医術もこの世界では通用しない可能性が高い。一応、見るには見ることにするが。


「お願いがあるのだけど、いいかしら」

 姿勢を正し、まっすぐと俺の目を見てくる。身長差が10cmのためか、キスをせがまれているようで可愛い。

 

「なんだ?」

 頼まれることは既にわかっている。野暮な真似はしないで彼女の言葉を待つ。


「イーリヤに医術を使ってほしいの」


「わかった、まずは俺の話を聞いてくれるか?」

 病人を襲うために、クズ男は思考を巡らせる。


「いいわよ」

 

「俺は二ホン国シャングリラ出身で、医術はそこで学んでこの周辺国にはない治療法だ」

 街の図書館で得た地図や知識をもとに話す。


「聞いたことない、国ね」


「それも無理はない、シャングリラは完全独立していて特に他国とも交流していないし、この街アルフからはかなり遠い。行くまでに往復で2か月はかかる」


「そうなのね、それで何が言いたいのかしら?」


「俺の国ではどんな病でもきくエリクシールの薬がある。もし手術で治らなければ取りに帰ってイーリヤを助けたい」


「!? ……にわかに信じがたいわ」

 その反応は当然だろう。もちろん大嘘だ。

 

「命の恩人に嘘はつかない」

 俺はゲス顔を悟られないように、真剣なで彼女を見たのだった。

 

「3か月、あと3か月待ってほしいわ」


「大丈夫だ」

 深く悩んでいる様子が目に入り、安心させるように、そう言葉をかける。

 無理もない、出会って2週間程度の男だ。すぐに信じるのは無理だろう。


「妹、イーリヤの余命はあと半年なの……。だから私は助ける方法を探したし、詐欺まがいな方法も試したわ」

 でも、治らなかった……。そう悲しく彼女は話す。

 彼女は語り始めた。


 あの日、あなたに出会ったのは本当に偶然だったわ。

 あなたと出会う日、魔法具を買ったの、何でも願いを叶えるという宝石を。

 そして、願ったわ。

 両手で抱きしめながらイーリヤを助けてあげてくださいと何度も願った願いを。

 そしたら、宝石は見たことのないまばゆい光を放って消えたわ。

 その様子をイーリヤに見られていたみたいで、もう私のことはいいから。

 そう言われたの。

 そして、ルピナスの花がほしいとねだられたの。

 いつも頼みごとをしない妹だったから、私は思わず草原に向かったわ。

 そこであなたを見つけたの。

 すぐに助けなきゃって思ったわ。

 そんなあなたに運命を感じているの。

 あなたの言葉は信じたい、でも信じられない。

 わたしのもんだい。

 だからあなたの気持ちにこたえるのには時間をください。
















 

 返事はいつでもいい、その一言だけいい俺は立ち去った。

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