無責任男、紐男にジョブチェンジする
「ここは……」
目が覚めたら知らない布団の上だった。
あたりを見渡すと、どうやら民家のようだ。
「あら、目が覚めたのね? 良かったわ」
声の方へ向くと、立っていたのは美しい女性だった。赤色の長髪にキレっとした印象の赤い目、どこかの軍服のようなものを着た彼女は、腰や太ももに何本ものベルトを着けている。そのベルトには剣や薬がぶら下がっていた。
話を聞くと、名前はセレスといい、この家の持ち主らしい。
そして俺は、草原に血だらけで倒れていたところを彼女に発見され協会へと運ばれたそうだ。
「助けていただきありがとうございます、死んだと思っていました」
協会ってなんだと疑問に感じつつも、助けてくれたことへの感謝を伝えた。
「ん」
彼女はいきなり手を差し出してくる。
俺は、反射的に彼女の手を両手で握る。触れたら溶けて壊れてしまうのではと錯覚するくらいすべすべの手だった。
「何さわってんのよ、お金よお金。あなたを助けたときに治療費と服のお金建て替えたんだから払ってほしいのよ」
彼女は手を振り払い上下に揺らして、お金を要求した。
「ああ……えっと……」
俺はポケットを探った。が、何も入っていなかった。
「申し訳ないですけど、今手持ちがないので銀行に行ってもいいですか?」
俺は恐る恐る顔をうかがってみた。
彼女は少し怖い顔でこちらを見ていた。そして、小さなため息をついたあとまた真顔に戻った。
「逃げるかもしれないから、あたしも一緒に行く」
「逃げないですよ、まだ学生ですけどしっかり稼いでいますので」
「ならさっさと行くわよ」
彼女はひらりと軍服をひるがえして歩く。こんな美人さんと一緒に出掛けられるならいいかと思い背中を追って民家を出る。
「え? ここどこ」
外に出ると見たことないような景色が広がっていた。石造りの建物が並び、馬車のような乗り物も走っていた。見渡すと甲冑を着たムキムキのおっさんやローブを着た女や耳が犬みたいになっている子供たち。
明らかに日本ではない。重症治療のため海外にでも来たのだろうか?
「何ぼーっとしてるの? 早く行くわよ」
「あ、うん」
俺は彼女の後を追った。彼女は俺より少し背が小さいので歩幅を小さくして歩いた。
「ここは日本ですか?」
「え? あなた何言ってるのよ」
「いや……その……」
俺は言葉に詰まった。彼女は少し考えてから口を開いた。
「ここはアルフよ」
「アルフ?」
「そうよ、ここはアルフの街よ」
アルフ? 街? 聞いたことがない地名だ。
「は? いやいや、意味がわかりません」
俺は茫然とし彼女の顔を見る。真剣なまなざしでこちらを見ていた。まるで本気のようだ。
「あなたはどこかの国の貴族かしら?」
彼女はじっと俺を見つめた。この質問には答えていいのか。ここはきっと俺の知っているところじゃない。
「えっと……その……」
「まあ、いいわ。早く銀行に行くわよ」
そして彼女は歩き始めた。俺もそれについて行った。
大通りに出ると屋台や出店が立ち並び、日本らしくない石造な建物だらけが並んでていた。歩く人々が持つ食べ物も見たこともない。まさか異世界に来たのだろうか?
しばらく歩くと綺麗な女性のシンボルの大きな建物が見えてきた。その建物の中に入ると受付があり、人が並んでいたのでそこに並んだ。案内してくれた彼女は椅子で座って待つようだ。
「アーシアカードのご提示お願いします」
「それって何ですか?」
「村出身の方でしょうか? アーシアカードというのは女神アーシアが授け、血を捧げた世界のあらゆる生き物の名前やステータスを確認することができるいわば身分証みたいなものです。お持ちでないなら、無料でお作りできますがどうされますか?」
「無料ですし、お願いします」
かなたより日本人は無料という言葉に弱いので、俺も例外なく即答した。
「ではこの魔道具に血を垂らしてください。そしたらアーシアカードが作成されますのでお持ちください」
俺が言われた通りにすると。
ピコン!と音がなり目の前に半透明の板が現れた。そこには俺の名前、年齢、種族、職業、レベル、スキルなどが書いてあった。
ステータス
名前:セイジ・クズハラ
年齢:20
種族:人間
職業:【学生】
数:1
Lv:1
HP:45/45
MP:20/20
STR:20
AGI:30
DEX:20
VIT:15
INT:30
MND:15
LUK:99
ユニークスキル:分配、加護
パッシブスキル:会話スキル(Lv5)、剣技(Lv3)、格闘(Lv3)、商才(Lv4)、医術(lv4)
「では基本的な説明をいたしますね。アーシアカードは基本的に他人には見えません、見せたい場合に念じると見せることができます。またアーシアカードのすべてを異性に開示……渡…………プ」
受付の説明は耳にあまり入ってこなかった。やはり異世界かと戸惑いとともにセレスにどうお金を返せばいいか必死に考えていたからだ。
「聞いていますか?」
「あ、はい」
「アーシアカードは基本的に街以上に住んでいる方は必須でお持ちいただかなければなりません。また街ごとに税金を納める必要があります。1か月の30日ごとに滞在している街で指定された金額引き落とされます。もし3か月以上引き落としができなかった場合は、借金奴隷となり統治者のもとで仕事をしていただき返済していく形になります。紛失した場合の再発行や複製したい場合は女神アーシアのシンボルの建物にて発行可能ですが、手数料はいただきます。以上になりますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
俺は受付を離れ、彼女のもとへと向かった。
「お金引き出せた?」
「そのことなんだけど……」
「あんたまさか踏み倒す気じゃないわね?」
「実は俺、今手持ちがなくて……」
「はぁ!? カード見せなさい!」
カードを渡すと彼女は大きなため息をついた。
「あんた一文無しじゃない!」
「あの……仕事紹介してくれませんか? あと寝床もないのでお金も追加で貸してほしいです………、治療費は働いて必ずお返しします」
「返す気はあるのね? わかったわ。金貨3枚を返すまでしっかり働くこと。仕事は冒険者でいいわよね? 家はそうね。私の家に泊まってもいいわ。ただし妹に手を出したり色目使ったら追い出すわよ! あと今のあんたじゃ私は付き合わないから。泊めてあげるからって勘違いしないことね!」
ツンツンとした表情で言う、彼女の頬はどこか少し赤かった。
◇
「イーリヤ、紹介するわね、今日からこの家に泊めてあげることになった紐男のセイジさんよ、彼は一文無しでザコザコだから安心していいわ」
「お姉ちゃんが男の人を連れてくるなんて珍しいね、セイジさんイーリヤです、よろしくお願いします」
ベットに横たわる少女は、俺を見つめながらどこか諦めてしまっているような表情でぺこりと挨拶をした。
「どうも、セレスの夫のセイジです、イーリヤちゃんよろしくね」
「な! イーリヤ違うわよ!こいつがあまりにも可哀そうだから優しくしてあげただけだから! あんたとはまだ無理よ」
客観的事実であるが、紐男呼ばわりされたのが悔しくて、男慣れしていなさそうセレスをからかうと案の定の反応が返ってくる。
「ふふふ、お姉ちゃんまだって何~~?」
そんな俺たちを見て彼女は優しい笑みを浮かべた。イーリヤの顔は祖父の最期にみた表情にそっくりであった。
しばらくお互いについて、話し合った。すると大体のことはわかってきた。
まずイーリヤさんは、元Cランク冒険者のヒーラー14歳で銀毛色の短い髪をしたひんやりしていそうな美少女で、背が少し低いが胸はかなりでかい。俺のぱいぱいカウンターからしてHくらいはありそうだ。日本にいたら間違いなくモテモテのおっぱいだな。
セレスさんは、現役Bランク冒険者の魔法剣士、中堅。今は、諸事情でギルド職員として不定期に働いているとのこと。正面から見た感じかなり残念だ。何とは言わないが。ただスタイルはかなりよさそうで170センチほどあるだろうか?
それにしても姉妹なのになぜ、こんなにも差が出るのだろうか?
「あなた、何か失礼なこと考えてない?」
「いやいや、そんなことは」
少しでもこの姉妹の警戒心を解くためにたくさんお話をしたのであったが、貴族ではないと伝えた時に見せた小さな落胆は、俺の脳裏に焼きついたのだった。
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