とわ(六十ウン歳)②

 もー。

 ほんとに、ほんっとに、何やってんだろう私。

 今日は早く選挙に行くのを済ませちゃおうと思って、昨日の夜、目覚ましをセットして寝ることにしたのに、それを忘れてアラームが鳴ったから平日だと勘違いしたうえに、休日なのは気づいたけれど間違って目覚ましをかけたと思って、選挙のことを思いださないまま二度寝をするなんて。

 昔ならもう死んでも珍しくない歳だし、増える物忘れが気になっていたが、いよいよ本格的にボケてきたか? ヘコむわー。

 ん?

 家の電話が鳴り、私は受話器を取った。

「もしもし」

「延岡さんのお宅ですか?」

「はい」

「とわさんでいらっしゃいますか?」

「あ、はい。そうですが」

 誰だ? セールスくさいけど、夜のこんな時間帯にかけてくるかな? それに、なんとなく私のことをちゃんと知っている感じもするが。

「私、御手洗ですけれども、覚えていらっしゃいますでしょうか?」

「御手洗さん……」

 聞き覚えのある名前だな……。

「あー」

 思いだした。あの人か。

「どうも、ご無沙汰しております」

「先に携帯電話のほうにかけさせていただいたのですが。ご自宅にいらっしゃるかもと思いまして」

 え? あ。

「そうでしたか。すみません、今日はずっと自宅にいて電話に出られる状態でしたのに、携帯の電源をずっと切っておりまして。そんなに何回もご連絡いただいたのでしょうか?」

「いえ、あれ? もしかして、状況を把握らっしゃってないのですか?」

 はあ?

「状況、と申しますと?」

「やはりそうだったんですね。実は……」

 え? ええ? えーっ!

「そ、そうだったんですか」

 マジで? ちょっとテレビ……。

「はい。今ヘコんで……あ、いえ、外の情報が入ってこない状態で、のんびり過ごしておりました。ああ、そうですか。はい、大丈夫です。はい。はい。はい。あ、はい、どうもご丁寧に。はい。はい、失礼いたします」

 私は受話器を置いた。

 あー、びっくりした。

 ……そっか。

 どうやら今日は悪くない一日だったようだ。

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