末男(五十五歳)②

 今、私が歩いているこの道は、「しさくの小径」というようだ。

「しさく」の意味は、思索かと思った。A市ではどこも似たり寄ったりとはいえ、とりわけ周囲の景色がぱっとしないこの道を歩くと、目に映るものに意識が向かないために、考えにふけってしまうことが多いから、そう思ったのだが、ではなく、藤原詩策という名の歌人がよくこの道を歩きながら和歌を考えていたところからついたらしい。なので、正解ではなかったけれども、考えを巡らせるのに適した道という点で、結果的にいい線いってたわけだ。「小径」のほうは、道幅が狭いことから理解できる一方で、植え込みなどもなく、ただ舗装されただけと言い表せられる道がずっと続いていて、どこからどこまでがその小径に該当するのかがわからない。また、歌人であること以外で藤原詩策がどういった人物なのかも不明だ。

 そんなに興味があるわけではないからいいのだが、一度パソコンを使っているときに思いだしたので、検索をしてみたけれど、やはり歌人という情報くらいしか得られなかった。そこで、A市のホームページになら詳しく書かれているんじゃないかと思いつき、アクセスして捜してみたが、詳しくどころか一行の記載すらなかった。

 もとはといえば、道の端に「しさくの小径」とのみ書かれた小さいプレートが埋まっているのに気づき、そのとき偶然通りかかった、近くに住んでいるのであろうが面識のない、おじいさんが名の由来を教えてくれたのだけれども、おじいさんも藤原詩策の詳細な人物像は知らなかったのだ。

 どうでもいいことだが、情報をつかめないために気になってしまうのである。

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