慶次朗(十四歳)④

 あー、うめー。

「やっぱ、桃の缶詰最高だな」

「兄ちゃんって、変わってるよなー。普通の桃のほうが断然おいしいのに」

「普通の桃もそりゃうまいけど、もっと好きなだけだ。断然上なんて、お前のほうがおかしい」

「そんなことないよ。前に友達に訊いたら、だいたい僕と同じ意見だったんだから」

「嘘だろ」

「本当だよ。こんなこと嘘言ったってしょうがないじゃん」

 マジかよ。

「わかんねーかな、この良さが」

「そんなに頻繁に食べないから、余計においしく感じるっていうのもあるんじゃない?」

 母親が口を挟んだ。

「いや、毎日食っても変わらないね」

 こっちは毎日でも食べたいのに、糖分が多くて体にあまり良くないだろうからって、めったに食わしてくれないんだもんな。まあ、なら自分で買えばいいのに、そうしない俺もなんだけど。

 しかし、一日中家でゆっくりできて、ゲームをやって、桃の缶詰を食えて、幸せだ。こんな日はそうそうない。

「ところであんた、調べものはいいの?」

「え? あー」

「勉強してたんだよね?」

 何だよ、二人とも邪魔しといて。

「まあな。でも、もういいや」

「なあに? 宿題じゃないの?」

「うん、違う。だからもういい」

「何よ。私が部屋に行ったとき、『忙しい』って強い口調で突っぱねたくせに。いいかげんっていうか」

「でも、お母さんも何かやることがあって、急いで帰ってきたって感じだったよね? 大丈夫なの? ゲームに誘っちゃったけどさ」

「え? あー……いいの、いいの。そんなにたいしたことじゃないから」

 何だよ、それ。また人のこと言えねーじゃんかよ。

「なんか、たまに思うけど、兄ちゃんとお母さんて似てるよね」

 そう言うと、亘は笑った。

「あ? どこがだよ。今だけ、たまたまだろ」

 そんなに似てるか?

 いや、似てねーだろ。絶対。

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