真亜子(三十七歳)⑥

 ちょっと待てよ。そういえば小学生当時、新島さんに私、何かでひどいことをしたような気がする。

 何だっけ? えーと……。思いだせないけれど、傷つくことをしたのは間違いないような……。

 だとしたらあの人、それを覚えていて、その仕返しで谷沢のことを持ちだしたのかな?

 だけど、私がされたいじめなんかと比べたら、全然たいしたことではないはずだ。何をやったのかはやっぱり思いだせないが、それは絶対にそうなはず。それで今さら仕返しなんて……。

 いやいや、ひどいことをしたほうは軽く考えるもんなんだって。状況やタイミングとかもあるし、相当ショックを受けたのかも。私は被害者だけど、加害者でもあったのか。

 それでも、やっぱり継続的ないじめなどとは違うし、もう気にしてなかったり、そのこと自体忘れてる可能性だって十分にあるよな。

 どうしよう。単に話の流れであいつのことを話題にしたのかもしれないし、仕返しを代わりにしてあげようという親切心だったのか、私への復讐心による嫌がらせだったのか、どれだろう?

 ……。

 とにかく戻って、会えたらあのアドバイスを伝えるように頼もうかな。新島さんの意図がどれだったとしても、どれだったのか結局わからないとしても。

 本当にわずかな子どものもとにしか届かないかもしれないし、届いてもさほど役には立たないかもしれない。それでも、今いじめられている、今後いじめられるかもしれない、子どもたちのために、教師である谷沢に伝えてと。どうか伝えてと。

 ……。

 ごめん、子どもたち。やっぱり駄目だ。不安がどんどん膨らんできた。

 私の名前は伏せるように頼んでも、何かのはずみで口にしちゃうかもしれないし、もう二度と昔みたいな不安まみれの毎日を過ごしたくない。

 あー、子どもたち、どうにか頑張って。

 大人はいつだって頼りにならないものなんだ。ほんとに、本当にごめんなさい。

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