真亜子(三十七歳)④

「え……ええ?」

「実は少し前に、谷沢さんとも偶然再会してさ」

 ……。

「だから、ちょっとびっくりしたんだ。短い期間に小学生時代の同級生と立て続けに会ったか……」

「いるの?」

「え?」

「子どもが、向こうにも。だから?」

「……ああ、そうじゃなくて。いや、その前に、どうかした? なんか顔色が良くないみたいだけど。気分でも悪くなった?」

「大丈夫。平気。それで、どういうことなの?」

「いやね、あのコ今、小学校の先生をやってるんだって」

「え?」

 人のことを散々いじめてた奴が先生? それも、よりによって小学校の。

「それで教えてあげようかと思ったんだ、今言ってくれた言葉。教師にも役に立ちそうじゃん。あのコが勤めてるのはこの学校じゃないし、再会してからそんな仲良くしてるわけでもないんだけど、親と教師って立場で、何かあったとき相談できたりするかもねっていうので、連絡先を交換したから、せっかくだからそうしてあげようかなって、ふと思ったんだ」

「やめて!」

「え? なんで?」

 なんでって……。

「だ、だって、学校の先生でしょ。教育の専門家なんだから、そんなことわかってるっていうか、もしかしたら子どもに言うべき内容じゃないかもしれないし、とにかく、良くは思わないよ。プロの歌手に歌唱指導をするようなもんじゃない? だから言わないで、お願い!」

 私は必死に訴えたのに、新島さんは余裕な様子で微笑んだ。

「そんな、心配しないで大丈夫だよ。こうするべきだって忠告するんじゃなくて、どうかな? って訊く感じで話すだけだから。だいたい、専門家っていっても、わかってないじゃん、教師って。自分の学生時代を振り返っても、型にはまった立派な台詞を口にするだけで、いじめにうまく対処してるとこなんか見たことないし。だから、どうせ今のアドバイスもそんなに有効活用できないだろうと思って一歩引いた調子でしゃべるし、篠塚さんに迷惑がかかるようにはしないから、安心してよ」

「駄目……それでも嫌なの! 恥ずかしいし、言わないで、お願い! それから、私と会ったってことも黙ってて! 絶対に! ね?」

「ええ? ……そう? そんなに頼むなら、言う通りにするけど……」

「じゃあ、ごめん。用を思いだしたから、もうこれで。さようなら!」

「ああ、うん……」

 その後、私は新島さんのほうをチラッとも見ずに、走って去った。

 谷沢の奴! どんなツラして教師やってやがるんだ!

 あー、もー。あいつの名前を聞きたくなかった。

 わっ!


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