真亜子(三十七歳)③
「え?」
「ほんとに心配なの?」
「何が……ああ、娘のこと?」
「うん」
「心配だよ、もちろん本当に。いじめられたりしてないかね」
「だったら、こう言って、その通りにしてあげて。もしいじめられたら、私、解決しようとして、あなたに何の断りもなく先生やいじめるコの親に相談したりだとか、勝手なことは絶対にしないから、何かする場合はちゃんとあなたと話し合って了解を得たことだけやるようにするから、信用して、独りで悩んだりせずに正直に言いなさい。負けずに学校へ行きなさいとも、逆に絶対学校に行くなとも口にしないし、とにかく何をするにしても、あなたの気持ちが最優先だから。心配や迷惑をかけるなんて考える必要もないよ。あなたがつらいのを独りで抱え込むほうが、後でそれがわかったとき、私もすごくつらいんだから」
はっ!
新島さんはびっくりして呆気に取られたような表情で私を見ていた。
やだ。何言ってんだろう、私。
「ご、ごめんなさい。余計なお世話だよね、人の家庭の問題なのに。しかも、こう言えだなんて偉そうに……」
「ううん」
新島さんは首を横に振った。
「ありがとう。嬉しいよ。篠塚さんが、会ったこともない私の娘のために、そんなに真剣に助言をしてくれるなんて。小学生の頃はクールな印象だったから、ちょっと驚いちゃったけど」
く……クール? 私が? 「暗い」の間違いじゃないの?
良いように言うのに、そういう表現しかなかったからか? にしても、よくそんな言葉が思いつくもんだな。
「そっか。なるほどね。確かにそう言われていれば、いじめられたとき、隠さないで相談しようと思いそうだよね。私が今そう感じたもん。わかった。今しゃべってくれたまんま娘に話すよ」
「あ、そう? でも、ほんと偉そうに言っちゃってごめんなさい」
体育館を出てすぐのところでずっと話していて、投票を終えた人が次々そばを通り過ぎていっているが、そっちに初めて意識が行った。こっちを気にかける人はいないし、普通に立ち話をしているだけだから別に気にかけられたって構わないんだけど、なんか恥ずかしい気持ちが込み上げてきた。
「じゃあ、さようなら」
元々新島さんも帰る気だったんだし、私はそう述べて頭を下げた。
そんなことするつもりはなかったのに、無意識に勢いで、でしゃばったことを言っちゃったけれど、どうやらお世辞じゃなく良いアドバイスだったみたいだし、私は思っていたことを吐きだせてすっきりしたし、よかったかもな。
「ねえ、ちょっと待って」
離れかけた私に、今度は新島さんが声をかけて止めた。
「はい?」
私は顔を向けた。
「あのさ、今言ってくれたの、谷沢さんにも教えてあげていいかな?」
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