末男(五十五歳)①
今日が、先週や来週と変わらぬありきたりな日曜日か、それとも特別な日曜日かは、人によって意見は異なるだろう。
そんなことをいうならどの日曜日、さらには曜日関係なくどの日だってそうじゃないかと返されてしまいそうだが、今日に関しては特別だと考える人が全国津々浦々に大勢存在するはずだ。
といっても、その理由を聞いたら大半の人は「何だ、そんなことか」などと思い、一気に興味を失うであろう。だから、もうもったいぶらずに答えを明かすと、今日は総選挙、つまり衆議院議員選挙の投票日なのである。
今や、国、地方、首長、議会の、いずれの選挙においても、投票率が半分の五十パーセントを超えるのすら珍しいご時勢。表向きはともかく、本心ではありきたりな日曜日だと思っている人のほうが多いことは目に見えている。それも、特別な日曜日だと考える人との差は桁違いなくらい開きがある可能性も十分にある。
マスメディアや、そうした場によく登場する知識人のほか、その現状を嘆かわしいと発言する一般の人も一定の数はおり、新聞には選挙の前後に必ずと言っていいほど低い投票率を憂える内容の投書が掲載されるし、投票所に足を運びましょうという呼びかけが行政機関にとどまらず民間の団体でも盛んに行われる。が、一向に上昇しない。
ともあれ、そろそろ今回の選挙の投票が開始する時刻だ。
ここはA市。東京の、区よりも知名度の低い市のなかで、さらに名前を知られていないうえに、周辺の市はどこも近年おしゃれな店や観光スポットなどが増えて、区と肩を並べるくらいのにぎわいや華やかさになってきている一方で、シャッター商店街しか印象に残らないような、これと言えるものがない、地味なまちだ。
そのほぼ中央に位置する、市立のA小学校の、体育館だけが老朽化のために数年前に建て直された。メインの校舎もけっこうな年数が経っていると思うが、予算がないのかこちらはそのままで、綺麗で立派になったその体育館が、とりわけ何もないこの周辺では非常に目立ち、市のシンボルと感じられるほどになっている。
そして、その体育館は選挙の際のA市の投票所の一つで、私は今そこにいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます