ステータス普通のシスコン・スローライフ~今度こそ妹を守り抜くと決めたんだ!

夢野アニカ

第1話 逃避行

 夜。

 綺麗な月夜の日。


 人目を忍んで城から抜け出そうとしていた。

 私は恋人であるローラに手を差し出した。

「誰も私たちを知らないところに行こう」

「えぇ、ヴァルフレット。どこまでも一緒よ」

 愛しい人が私の目を真っすぐと見ている。

 幸福で頭がのぼせそうな感覚と胸が締め付けられる感覚を味わいながら私はしっかりとローラの手を引いた。


 裏口からでて、そこには馬車を待たせてある手はずだった。

 しかしそこに待っていたのは私の母親のヴィノールと屈強な男たちだった。おそらく雇われた冒険者だろう。

「おや、ヴァルフレット。ローラと一緒にこんな時間にお出かけかい?」


「お母様!!? どうしてここに」

「どうしてって、それは……あんたたちが悪い事を企んでいるからでしょ!!」

 ヴィノールはとても怒っている様子で目玉を剥き出し私たちを威嚇した。


「行かせてください!!お母様。兄上が家の事をするなら私は居なくてもかまわないでしょう。」

「そうはいきますか! あなたは何も分かっちゃいない。家の事は良くても神様が貴方達を許すわけが無いでしょう。あんたたちは――兄妹なんだから!!」

 ローラは私のマントの後ろに隠れて震えている。


 そう、一緒に逃避行を決めた相手は母親は違うが血が半分繋がった実の妹である。

 私が産まれた一年後にメイドが生んだのがローラである。

 ローラは屋敷に引き取られローラの母親は行方知れずと聞いている。

 おそらく殺されたのだろうというのが私の見解だ。


「かわいそうなヴァルちゃん。忌々しいあの女の娘にたぶらかされたのでしょうけど、それも今日までです」

「な、何をするおつもりですか」


「やれ!!」


 冒険者たちは武器を掲げ私たちに襲い掛かった。

 いや、正確には私の後ろに隠れているローラを狙っている。


「ローラ、君一人でも逃げるんだ!!」

「そんな事できない」

「早く逃げるんだ!! 狙われているのは君だ!」

 そう強く言うと、ローラは走り出した。


「ここは通さない。私が相手だ!!」

 私は腰にえていた短剣を取り出した。

 しかし、あっというまだった。

 いとも簡単に短剣は棍棒を持った冒険者の一撃で折れてしまった。

 彼の二撃目は私の腹部に直撃し、私の体は宙を舞い地面に叩きつけられた。


「息子には傷をつけるんじゃないよ」

 母親の声が遠くに聞こえる。痛みのせいなのか耳鳴りもすごい。

 しかしここで負けるわけにはいかない。

 だが体が言う事を聞かない。


 もっと剣術を極めて体力も付けておくべきだったと思ってももう遅い。


 冒険者たちが”さぁ、狩りだ”と言わんばかりに私の横を走り抜けていく。

 獲物はローラだ。


 ローラはたちまち捕り、その男の屈強な手で首を掴まれ抱え上げられた。

「くはっ――。」

 ゴキっという音がしてから彼女の体は力をなくし垂れ下がった。


 地面に横たわる私の前にローラの体が放り投げられた。

 首がひしゃげており、息をしていないのが分かった。


 すぐさま私は力を振り絞って使える限りの回復魔法を施した。

「ヒール!! ヒール!! ヒール!! ヒール!!」

 しかしローラは一向に起き上がろうとしない。

「ヒール!! ヒール!! ヒール!!」

 MPが付き視界が歪み頭痛が発生したがそれでも私はヒールをつづけた。



 ***

 何時の間にか気を失ってしまったのだろう。

 気が付くと自室のベットに寝ていた。


 丁度、正午くらいだろうか。


「ローラは、ローラはどうなったんだ??」

 廊下に出ると居合わせた侍女を問い詰める。


「ローラお嬢様は中庭に……」

 私は走った。

 愛しい人に会うために。


 しかし現実は無常だった。

 二階渡り廊下から中庭が見える。

 そこには棺桶に眠るローラと、地面には麻布の上にどうしたことか冒険者たちの死体が寝かされていた。

 横には役人が数人と母親のヴィノールがいた。


「えーと、つまり昨晩、この冒険者たちが城に侵入しローラ様に乱暴を働いている所を護衛が見つけて殺した。ローラ様はすでに亡くなっていた。そう言う事ですね」

「そうよ。あぁ怖かった。夫が帰ってくる前に速く片付けて頂戴」


「わかりました。ではご遺体を全て運び出しましょう――」

 そう言うと役人の一人がローラの棺の蓋をしめようとした。

「役人さん!! 待ってくれ」

 私はおぼつかない足取りでローラの眠る棺桶へ歩み寄る。

「ローラ、起きてくれ! ローラ!!!」

「残念ですがローラさんは亡くなっています。大聖女か賢者の石エリクサーでもない限り生き返すことはできません」

「大聖女?」

「えぇ、勇者様と共に魔王を打ち破ったヒーラーです。」

「どこにいるんですか!!?」

「330年程前に老衰でなくなりました」

「じゃぁ賢者の石エリクサーは?」

「当時大聖女を復活させるために賢者の石エリクサーを探したのですがそうそうあるものでもなく、今なお伝説上の代物になっています。ですので現状では残念ですが手立てはありませんね」


「そんな……」

 私は足から崩れ落ちた。


 役人たちは遺体の入った棺桶と麻布を担ぎ上げようとした。

「どこへ連れて行くんですか?」

「不遇の死を遂げた物は鬼となって甦るといけないので土葬はせず火葬して海に散骨するのがこの地方の習わしです」


「散骨……それでは何も残らないではないか」

「そうなりますね」

「鬼でも構わない、もう一度ローラに合わせてくれ。私はローラを一人の女性として愛している……」

 役人たちにどよめきが走り、母親が血相を変え吠えた。

「まぁ、なんてことを言うの!! 末代までの恥じよ!!」


「まぁまぁ、奥様。落ち着いてください。ヴァルフレット様はお疲れなのです。昨夜MP切れになるまでヒールを続けて寝込んでいるとおっしゃられていたではありませんか。まだ気が動転しているのでしょう」

 そう言って役人は残念そうに続けた。

「もう死んでしまったものは生き返ったりしないのです。それが自然の摂理です。それが嫌ならばヴァルフレット様は強くなってください」


 そう言い残し役人たちは遺体を引き上げた。


 その夜、私は首を吊ってローラの後を追った。

 17歳の夏の終わりだった。


 ――こんなことになるなら、恋など、愛など知りたくなかった――

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