第3話 戦闘1

 自由時間と言ってもなにをするのだろう。私たちしかいない学校で出来る事なんて限られてくると思うのだが。

「あの、八苗ちゃん。自由時間ってなにするんですか?」

「ん?そんなんほとんどが訓練や。射撃場で銃を撃ってみたり、校内を走り回って体力をつけてみたり、とりあえず色々やるんや。」

 体力作りか。体力は午後からでいいかな。今は銃を撃ってみて、手に馴染ませておこう。

 ん?ちょっと待てよ?m870ってどうやって撃てば良いんだ?片腕使えないのに。

 これは、片腕で制御できる筋力が必要だな。

「八苗ちゃんはなにするんですか?」

「ウチか?ウチは射撃場で練習しようと思とる。」

 偶然行きたい場所が同じだった。

「分かりました。行きましょう。」

 グラウンドに射撃場があるらしい。

 射撃場といっても的があるだけで、どちらかというと弓道場の方がしっくりくる。

「これ、ウチの愛銃や。」

買ってもらったおもちゃを自慢するように、64式7.62mm小銃を見せつけながら言った。

 そうだ、代償のことを聞いてみよう。もしかしたら生活のコツを思いつくかもしれない。

「あの、八苗ちゃんは、左足を代償にしたとき、どんな感じでしたか?」

 流石に、左足がないとやっぱり辛い?とは聞けなかった。ストレートすぎる質問は昨今の日本では叩かれるので。

「どんなって言われても。相当取り乱したでそりゃ、一夜で十五年付き添った体の一部が無くなっとるんやからな。」

 やっぱり、皆そうなんだ。八苗ちゃんは、スゴく明るそうだけど、ここに来たばかりの時は、私と同じ感じだったのかな。

 八苗は話を続ける。

「あのなぁ。」

 言いかけた瞬間。学校の方から銃声が鳴り響いた。

 取り立てが出現した場合、即座に撃って周囲に知らせることになっている。恐らく昨日と同じように、学校で取り立てが出現したのだろう。

「弥生、急ぐで!」

「はい!」

 重い銃を担ぎながら八苗についていく。

 今思ったけど、八苗ちゃん、片足なのに私よりも早い。

 皆出来ることを出来る範囲でやってるんだな。私も早く慣れないと。

「距離的にA棟の方か!」

「よく分かりますね。」

 息を切らしながら質問する。

「代償神のアホに教えられたんや!」

 八苗ちゃんも同じように取り引きしたのかもしれない。

 私と八苗ちゃんが到着したとき、既に絢音ちゃん、ほなりちゃん、七日ちゃん、時雨ちゃんが戦闘していた。あれ?雪ちゃんは?

 三人を指揮していた時雨が怒鳴る。

「遅い!早く撃つのよ!」

 言われるがまま空いているスペースに寝転がり、銃の二脚を立てる。マガジンがじゃまで上から覗けないので見た時の感覚で取り立てを次々と撃っていく。

 そんなとき、背後から一つの悲鳴が聞こえた。

「キャアァァァァァァア!」

 恐らく時雨ちゃんだろう。ルガーを抜き、背後を向こうとした瞬間、絢音がアタシが行く!と言って時雨に襲いかかった取り立てを次々に撃ち抜いていった。

 それに見取れていたのが失敗だった。私たちは廊下の交差する地点で防衛線を百八十度に展開している。五人でも厳しかった防衛戦の保守から、時雨を守る絢音と、それに見取れていた私と、一気に二人抜けたため、ほなりのベネリM3T、八苗の64式、七日のFG42では、三つの進路から同時に向かってくる敵を撃ちきることが難しくなり、防衛戦は崩壊。撤退を余儀なくされた。

 一瞬の油断でこんなことになるなんて。

 ……。いや、これが本当の戦闘。私の気が抜けていただけなのだ。

 まだ少し、これが現実だと受け入れられていない自分がいたのだ。

 取り立ての足は決して速くはないが、相当の数居るので、途中バリケードを作ることになった。

 椅子と机は、薬や包帯などの代償として使えるため、あまり使いたくはないそうだが、ここで全滅するよりはマシだ。少ないが、政府からの配給もある。

 バリケードを建てたあとも、安全そうな空き教室まで逃げてきた。バリケードといっても十分保てば良い方というようなものだ。

「弥生!アナタね、ここは戦場なのよ!映画でも劇場でもないの!たしかに取り立てに襲われたのは予想外だったわ。でもね、すぐに絢音が助けてくれたし、絢音はしっかりと私が行く!と合図もしていたわよ!それなのにどうして撃つのを止めたのよ!あなたがあのまま撃ち続けていれば、少なくともあの場は確保できていたの。それをね!」

 教室に入ってすぐに時雨ちゃんは私を叱った。私の油断でこうなったのだ。これぐらい叱られて当然だ。寧ろ多少の殴打は覚悟していた。それぐらいのことをしてしまったのだ。

 相変わらず時雨ちゃんは私を叱っている。今日の朝、絢音ちゃんが朝会に遅刻するのを恐れた理由がよく分かった。

「おい、時雨。ちょっと待てや。」

 私が大人しく叱られていると、八苗ちゃんが時雨ちゃんに声を掛けた。

「む、何よ、八苗。今は弥生ちゃんと話しているのだけど?」

 話しているというか一方的に叱られているというか……。

「弥生は昨日ここに来たばかりの初心者や。そんなのが初めての戦闘で、時雨が思うほど上手く判断できんのは当たり前やんか!あそこを保守できなかったのは、元はといえばアンタが悪いで。」

 八苗が時雨に反発する。

「ちょっ!八苗、アンタねぇ!」

 時雨は、あったま来た!と言い八苗につかみかかる。

 その二人のことをほなりちゃんと絢音ちゃん。七日ちゃんがなだめる。

「今はそんなことしてる場合じゃないよ。」

「お前ら落ち着け!ケンカするな!」

「雰囲気がどんどん重く……。」

 そんな三人の声も今の二人には届いていない。そんな中、一つの音が、この教室に鳴り響いた。

 時雨が八苗を叩いたのだ。

「っ!アンタ、やりよったな!はっ!愛想尽きたわ。アンタとはもう絶交や!」

 八苗が教室を飛び出していく。

「ちょっと、時雨、叩くことないんじゃないのか?」

 絢音ちゃんは時雨を問いただす。

 絢音ちゃんの質問に対し、時雨ちゃんはひと言も返さず、ただ足下を見つめることしかしなかった。

「ふん、まぁいい。こうなってしまった以上、八苗を探しながら取り立てを掃討するしかない。」

 少しふてくされた様子の絢音ちゃんが案を出す。

 それに対して声を上げる者は誰も居ない。

「お前達が行かないなら、アタシ一人でも八苗を探しに行く。」

 教室を出ようとする絢音に七日が待ったを掛けた。

「絢音まで居なくなったら私たちはどうすれば良いのよ。私には、絢音みたいに暴れられる体力が無い。」

 ほなりもそれに続いて絢音を引き留める。

「私も、絢音が八苗を探しに行くのはあまり良くないと思う。この四人の中で、一番戦力になるのは絢音だからね。あの大量の取り立ての中一人で行動するのは自殺行為だよ。」

 絢音ちゃんは今にも暴れ出しそうな目つきで言う。

「じゃあどうすんだよ。八苗も探して、取り立ても殺して、その二つをこの四人で完遂出来るってのか?」

 ほなりが反応して言う

「できるよ。」

「ほう。なら、どんな作戦なのか、教えてもらおうか。」


その作戦を聞いたとき、絢音ちゃんは少し喜んでいたように見えた。

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しかしその腕は動かない ユタ氏 @YUTAc3

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