第2話 代償

 真っ暗だ。ほんと、一寸先も見えないって感じ。

 ん、暗闇の中に一人の男が居る。暗闇で顔は見えない。何故か、輪郭だけはくっきりと見える。

 その男は私に言った。体の一部を代償に、どんな武器でも交換してやる。と。

 なるほど。皆はこの男と交渉して、体の一部と引き換えに銃を手に入れていたのか。

「どんな武器と交換できるんですか?」

「それは代償によるが、なにも知らない状態では代償の決めようがないだろう。銃の知識を少しだけ、君に与えてやる。それで決めたまえ。」

 男が私の頭に指をつけた瞬間、欲しい銃、代償にする部位が不思議と決まった。

「九九式軽機関銃、m870、ルガーp08。代償は左腕。」

 このときは何だか不思議な気分だった。言葉が頭に浮かんできたような感じだ。

 その男は分かった。と言い消えていった。


 気付けばもう朝だった。目を閉じてすぐに眠ってしまったらしい。

「お、起きたな。お前は左腕か。しばらく苦労するぞ。」

 左腕か、そうか。左腕を代償にしたんだった。

 起き上がろうとすると、左腕に力が入らない。バランスを崩してベッドから落ちてしまった。

 見ると、私も絢音と同じように腕が”無くなっていた”。無く……。なっていた……。

 腕がない。なんで?なんでなんでなんで?助けて、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

「おい、落ち着け。」

「う、腕が!痛い痛いよ!」

「おい!チッ。」

 痛い。

 顔を上げると、先程の場所から数メートル離れた場所に居た。

 胸に手を当て、息を落ち着かせる。

 どうやら頬を殴られたみたいだ。腕の痛みは消えていた。

「弥生、すまない。大丈夫だったか?」

「はい。ありがとうございます。目が覚めました。」

「まぁ、最初は皆そんな感じなんだよ。気にするな。」

「はい。」

 今は腕が痛くない。と言うことは、それだけ取り乱していたのだろう。

「今日ぐらいは遅刻してもいいよな。少し休んでから行くか。」

 たしかに、絢音ちゃんの言うとおり今は休んだ方が良さそうだ。

「あ、すみません。」

「いいのよ。さっきも言ったろ?そう気にすることもないさ。」

 代償って、こういう事なんだ。ん?でも、銃は?

「あの、九九式軽機関銃とか、見ませんでしたか?」

「あぁ、武器はそれにしたのか。それなら多分この部屋のどこかにある。一緒に探してやろうか?」

「お願いします。」

 ベッドの下、枕元を探してみたが無かった。

 数十分は探しただろうか。

「おい。あったぞ。」

「ありがとうございます。どこにありました?」

「ロッカーの中に入ってたぞ。ったく、代償神の野郎、どうして毎回分かりづらいところに置くのやら。」

 私たちが見つけられなかったら得するからだろうなぁ。

「代償神って?」

「あぁ、交換してくれる男のことさ。名前はアタシ達が付けたものだけどな。」

 あの男は代償神と呼ばれているのか。たしかに、代償を払えばどんな物でも交換してくれそうだ。

「そろそろ行くか。いくら取り乱したと言っても、流石に怒られちまう。」

「なにかあるんですか?」

「ああ、言ってなかったな。毎日朝会があるんだ。遅れると時雨に説教されるんだよ。」

 え、それ遅れたらマズいんじゃ。

「すぐ行きましょう!」

「あの、銃だけど、常に持ってた方が良いぞ。昨日のほなりはお前を不安にさせないために持ってなかったんだ。戦闘が起こったのは予想外だったけどな。」

 それなら九九式軽機関銃をメインとしてルガーp08を腰に忍ばしておけばまぁ戦えるか。

 ん?今のはなんだ?私はこんなに銃に詳しかったっけ?

 あ、たしか銃の知識を与えるとか言ってた気がする。

 少しズレていた制服を直し、銃を装備して本部室に向かう。

「左腕の件だがな、皆が皆一人で出来るわけじゃない。だから困ったことがあったら周りを頼れよ。」

「はい。」

 思ったが、少し返事が無愛想過ぎるだろうか。誰でもいいから出会って日が浅いウチに聞いておこう。

 絢音ちゃんと雑談しながら歩いていると、いつの間にか本部室に到着していた。

 絢音ちゃんに合図されて恐る恐る扉を開けてみる。

 部室内を見渡すと、もう既に皆集まっていた。見知らぬ顔が二つあるが。

「あ、やっと来た。約二十分の遅刻よ。」

 やはりマズいだろうか。

「まぁ勘弁してやれよ時雨。コイツも色々とな。」

 絢音がすかさず時雨をなだめる。

「色々?」

 そう言うと時雨は私の腕を一瞥した後、

「あなた、左腕にしたのね。武器は?」

「九九式軽機関銃とルガーp08、m870です。」

「m870はどうしたの?」

「場所をとると思ったのもありますが、持てないと判断したので置いてきました。」

「まぁそうね。そうだけど!明日からは武器は全部持ってきなさい。九九式軽機関銃は肩に掛けるのだから、持てないことはないはずよ」

 あれ重そうなんだけどなぁ。まぁ、時雨ちゃんが言うのだから仕方ない。

「分かりました。」

「よろしい。それじゃあ、昨日できなかったメンバーの紹介をするわね。」

 あ、そうだった。今朝のこともあってすっかり忘れていた。

 時雨は無表情な子に振った。

「……。杉山雪すぎやまゆき。それだけ。よろしく。」

 なんとも質素な自己紹介なんだ。もう少しあると思うのだが。代償のこととか。まぁそれは彼女なりにも事情があるのだろう。深くは探らないようにする。

 時雨が更に振る。

杉山七日すぎやまなのかでーす!特技は空間把握と射撃だよ。代償は、ゴホッゴホッ体力、です。」

 体力まで代償になりえるとは。結構何でもありなんだな。

「よろしくお願いします。昨日入部した仁摩弥生です。代償は、見ての通り左腕です。」

「よろしく。」

「よろしくね☆」

「よし!それじゃあ自己紹介もすんだことだし!碇、最近の状況をお願い。」

 碇は一歩前に出て特に変化はありません。と言い、また元の位置に戻った。

 そのことを確認すると時雨は

「ありがとう。なら解散!ただし、弥生ちゃんは必ず誰かと一緒に行動すること。それと、取り立てが現れたら撃って銃声で知らせること。分かった?」

「「はい。」」

 さて、誰かと行動しろと言われたが、誰と行動しよう。と、考えていると、八苗ちゃんとほなりちゃんが話し掛けてきた。

「今日は一緒に居るよね!弥生ちゃん!」

「弥生と行動するんはウチや!負けへんでほなり!」

「お、落ち着いてください。」

 私が困っていると、時雨が二人をなだめてくれた。

「決めるのは弥生ちゃんだからね。二人とも」

「た、たしかにそうやな。」

「ごめん。弥生ちゃんを思うばかりに、弥生ちゃんのことがおろそかになっていたよ。」

 ちょっと何言ってるか分からないですね。

 数十秒間の葛藤の末。

「八苗ちゃんで。」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

「うあぁぁぁぁぁぁん!」

 とは言ったものの、ほなりちゃん、そんな反応されるとこちらとしても罪悪感がものすごいわけでして。

 ほなりちゃん。ホントにごめん。また今度ね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る