しかしその腕は動かない

ユタ氏

第1話 出会い

「っ!」

 目が覚めた。見知らぬ天井

 横の窓へ視線をやると、もう夕方だった。部屋の感じを見るに病院らしい。

 にしても窓から見える景色がやけに低い気がするのだが。

 私が状況の把握に努めていると、横から声が聞こえてきた。

「おや、お目覚めかね?」

「ここは?」

 その子は椅子に座っていた。おそらく椅子の下に付いている車輪でここまで移動してきたのだろう。

「最初の質問がソレか。見込みがあるね。」

 最後にボソッと怪しいことを言った気がする。

「ここは奈侑代学校なよだいがっこう、略して奈侑代の保健室。君は昨夜発見され、ここに連れてこられたと言うわけさ。」

 ご丁寧にどうも。

 しかし説明されても分からない点がある。

 それは、なぜこんな訳のわからない学校の保健室に運ばれたのか。

 怪我をしたなら病院とかに連れて行かれるはず。というか昨日は怪我をしていないしすぐに寝たのだが。

「何でこんなところに?」

 女の子は一瞬首を傾げたが、すぐに理解したようだった。

「あぁ、どうしてかは私達も分からないんだ。ある日突然気絶した状態で現れた。それを保護しただけ。」

 なるほど。つまり謎の怪奇現象に巻き込まれたと言うことですか。

 そんなことがあったのなら、ここの教師はなぜ、なにも対応しないのだろう。

「ありがとう。今日も学校があるから、私はもう帰りますね。」

 起き上がり、忘れ物がないことを確認すると、私は彼女を置いて保健室から出ようとした。

 しかし、そこで待ったが掛かった。

「奈侑代からは出られないよ。」

「え?」

 耳を疑った。

「君、名前は?私は陽月ひづきほなり。」

仁摩弥生にまやよいですけど。」

「そう、弥生ちゃん。ニュースで見たことない?東京にそびえる天空学校。その学校には女子高校生だけが集められている。」

 は……?そんなニュース、見たことない。もちろん学校でも、スマホでも、一度も耳にしたことはない。奈侑代なんて言葉、ついさっき初めて知ったのだ。

「で、出られないって、どういう……」

 言いかけたところでどこからか爆発音のような音が聞こえた。

 ――そうだ。明らかにおかしい。

 天空学校とはいえ、学校は学校だ。普通爆発音なんて聞くことはないのだ。

 私が混乱していると、ほなりは、またか。というような顔で私に言った

「ごめんね。説明は移動しながらするよ。悪いけど走ってもらう。」

 返事をするまもなく、ほなりは私の手を取り走り出した。

「えっと、そうだ。出られない理由は、雑に言えば天空学校だから。下に降りるエレベータがないんだ。」

 ほなりは手を離してしまっている。正直着いていくので精一杯だ。

「それと、この学校にはバケモノが湧くんだ。私達は《取り立て》って呼んでる。」

 え、嫌だ。帰りたい。

 どうしていきなりこんな危険な場所に送り込まれないといけないのだ。

 私はいつも通り過ごしていたいだけだったのに。

 そして、目的地に近づいているのか、何だか騒がしい音が聞こえる。

 銃声……?

「と、着いたよ。」

 ほなりは止まったが、横の銃声は止まらない。

 なぜ学校に銃なんかが存在しているんだ。

 銃があるなら、先程の爆発音も本物の爆弾だったのだろう。

 私は走っていた勢いのまま膝に手を置き、休みの体勢をとった。

 息を整えていると

「お、起きてたんか。」

 関西弁の子が視点をずらさずに話し掛けてきた。

 彼女の腕には銃が握られており、ものすごい音と振動を出し続けている。

「私の銃ある?」

「持ってきてやったよ!」

 ほなりとやりとりをしているもう一人の子。その様子は、普通の学生のように見えるのだが、周りの状況と手に握られている物がマッチしていない。

「とりあえずその子は守るよ。」

 その子は、気合いを入れるようにしてそう言った。


 数十分は経っただろうか、戦闘は終わっていた。

 といっても、なにもせずにただぼうっと見ていただけだが。

 私がどうすれば良いかと考えていると、ほなり達が何やら話している。

「それで?この子、どうすれば良いんだ?」

「とりあえず本部室に連れて行こう。」

「了解。」

 本部室とやらに連れてかれることになった。

 交戦していた場所から結構離れた、というか真逆の位置に、本部室と書かれた教室があった。

 ほなりは、教室のドアを開けると

「新入りが起きたよ!」

 と、元気よく言った。

 ほなりに手を引かれて教室に入ると、眼帯をしているリーダー格らしき人が満面の笑みでこちらを見ていた。

 いや、そこまで見つめられると少し照れちゃうっていうか……。

「遅かったわね。」

「移動に時間が掛かってさ。」

 ほなりと仲が良さそうに話している。

 もしかしてほなりは誰とでも仲良くなれる系の人なんだろうか。

「それで?あなたが今朝居たって言う新人ね?早速だけど、入部に当たってある程度のプロフィールを教えてくれないかしら。」

 気が強そうだが、悪い子ってわけでもなさそうだ。

「はい。名前は仁摩弥生で、特技は宙返りです。」

「なるほどね。宙返りが出来るのは素直にスゴいわ。これであなたも入部完了ね。」

 え!これだけで?

「流石に早すぎるんじゃ……。まだ自己紹介しかしてませんよ?」

「別にいいのよ。入部といっても、ここしか部活動がない上に、入部以外に生き残る方法はないわ。」

「でも、銃なんて撃ったことも持ったこともないですし。」

 私がそう言うと、リーダーの子はそれが?とでも言いたそうだ。

「まぁ、そこら辺はその内慣れるから。今は、なるようになりなさいとしか言えないわ。」

 これまたテキトーな答えが返ってきた。

 いやまぁ、ほなりを見る限りそんな感じだろうと思ったが。

「私は宵時雨よいしぐれ。この抵抗部の部長よ。」

「抵抗部?あぁ、この部活ですか。」

「そうよ。あなたはこれから、私達の仲間、抵抗部の部員よ。まぁ、できる限り楽しくやりましょ。」

 つまりは抵抗部に入部して取り立てと戦えと。

「……はい。これから頑張ります。」

 まだあまり飲み込めていないところもあるが、その内分かることだ。ただ今は、なるようになるだけだ。

「それじゃぁ、私達も自己紹介するね。」

 オホンと咳払いをして始める

「改めて、陽月ほなりだよ。代償は小指。特技は、そうだなぁ。誰とでも仲良くなれることかな。」

「代償?代償ってなんですか?」

 思ったままの疑問を口にした。

 時雨はあたりまえのようにして答えた。

「今夜には分かるわ。くれぐれも大変なことにはならないでね。」

 これまた含みのある言い方ですね。

 今夜、一体何が起こるというのか。少し心配だ。

「もしかして、体の部位がないことに関係が?」

 戦闘中に思ったことなのだが、あの場に居た三人とも、体の部位がどこかしら無くなっていた。障害とか怪我ではなく、〈無い〉のだ。

 その質問をすると、時雨は黙ってしまった。おそらく当たっていたのだろう。

 まぁ、あまり触れないことにしておこう。どっちにしろ、今夜私にもなにかあるんだろうから。

 ほなりから振られて関西弁の子の番になった。

「ウチは玉木八苗たまきやなえゆうねん。特技は銃のリロードで、代償は左足やで。」

 八苗は先程の三人の内最後の一人へ合図を送る。すると、その子はあいよ。と返事をして自己紹介を始めた

唐戸絢音からとあやねだ。代償は右腕、左利きだから特に他の奴らと変わらない。この部活の切り込み隊長だ。よろしくな。」

 絢音の服はなぜかところどころ赤黒く変色した箇所があり、それほどの量の血を浴びてきたことは一目で分かった。最初に会ったときに分からなかったのは、恐らくまだ目が覚めていなかったからなのだろう。

川手碇かわていかりです。軍で言う参謀、ここでは副部長という肩書きです。任務の伝達などは私がしますので、以後お見知りおきを。」

 ビックリした。

 いきなり音もなく後ろに居たのだ。驚くなと言う方がおかしい。

「あなた、いつも硬くて少し遠いのよ。もっと明るく、近くなりなさい。」

 時雨に指摘されると碇は少し微笑んで、善処します。と返した。

「悪いけど、まだ全員集まってないの。任務や戦闘の時以外は自由にしてるけど、今日はもう遅いから寝なさい。また明日、他の部員の紹介をするわ。」

「はい。ところで、どこで寝れば。」

「あ、そうね。明日の夜までには準備しておくわ。今日はそうね、弥生ちゃんと寝たい人!」

 時雨がそう問いかけると、八苗とほなりが手を上げた。

「はいはい!ウチが寝る!ほなりは新人が来たら全員もってっちゃうからたまにはウチにもくれや!」

 もってっちゃうって……。

「ふふ。弥生ちゃんはもう既に私の虜!(のはず)八苗に勝ち目はないよ!」

 ほなりまで何を言ってるのだろうか。

 そこで絢音から声が掛かった。

「なぁ新入り。アタシと寝ないか。」

「決めるのは弥生よ。誰と寝たいの?」

 数十秒間の葛藤の末。

「絢音さんで。」

「なにぃぃぃぃぃ!」

「なんやてぇぇぇぇぇ!」

「アタシの勝ちみたいだな。」

 ほなり、八苗、なんかごめん。私、絢音と寝るよ!

      【その日の夜】

「ホントにアタシで良かったのかよ。別に面白くもねぇぞ?」

「八苗よりは安全そうだったから。」

「アレはアレで役に立つんだがなぁ。」

 八苗はあれだろうか、やるときはやる、みたいな。

「すまないが、アタシは寝るのが早いのでね。あまり構ってやれない。というかもう眠い。」

 私も、正直今日はいろいろありすぎた。色々といっても戦闘くらいしか思い浮かばないが。それでも、つい先日まで銃声も聞いたことないような人からしたら充分に疲れる。

「おやすみなさい、絢音。」

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