第16話 異変
「ねぇ、
客人たちの部屋から朝食の膳を下げて、
「そう言えば裏庭の隅にいたかも。男の人と話をしてたみたいだよ」
「昨日の人かしら? ねぇ、見に行きましょう!」
睡蓮はキラリと目を光らせると、夏乃の腕に自分の腕を絡ませた。
「邪魔しちゃ悪いんじゃない? やめようよ」
「大丈夫よ、ちょっと見るだけだもの」
「えー」
睡蓮に無理やり引っ張って行かれ、裏庭の井戸の影からこっそり窺うと、汐里と男はまだ話をしていた。何の話をしているかまでは分からないが、クスクス笑う汐里の声が聞こえる。
「あの子ったら……」
睡蓮は低い声でつぶやくなり、すっくと立ち上がった。そのままつかつかと二人の方へ歩いてゆく。
夏乃は慌てて睡蓮を止めようとしたが、それより早く睡蓮が声をかけてしまった。
「ちょっと汐里、私たちだけに膳を下げさせて酷いじゃない!」
「あ、睡蓮……ごめんなさい」
睡蓮の出現に戸惑った汐里が言い訳の言葉をさがしていると、隣にいた男が庇うように前に出た。
「私が汐里さんに声をかけたせいですね。お許しください。私は通訳として同行した、
男は背筋を伸ばし、貴人のように礼をする。
にっこりと微笑む顔は、噂通りのアイドル顔だ。
睡蓮はたちまち頬を赤らめて、雪夜に積極的に話しかけはじめた。
夏乃はなんだか面倒くさくなって、こっそりとその場を離れたのだった。
〇 〇
二晩目の宴が始まった。
夏乃たち侍女は、厨房と大広間を何度も往復して食べ物や飲み物を運んだ。
「今日も何事もなく終わるといいわね」
厨房で睡蓮がそう言った。
「そうだね」と夏乃がうなずいたところへ、汐里がやって来た。
「睡蓮、夏乃、今朝はごめんなさいね。これ、お詫びの印。少ないけど食べてね」
汐里は、夏乃と睡蓮に黒いものを一粒ずつ渡すと、またどこかへ行ってしまう。
「これ何?」
夏乃は、汐里がくれた3センチほどの黒い粒をつまみ上げた。少しべとべとしていているが、干した果物らしいことはわかる。
「知らないの? 干しナツメよ。異国の商人が来た時しか手に入らない高級品なのよ! きっとあの人にもらったんだわ!」
睡蓮はなぜかぷんぷん怒っている。
「あの人って、雪夜さん?」
「そうよ。私たちと同じただの侍女が、干しナツメを手に入れられる訳ないじゃない!」
睡蓮はそう言うと、パクッと干しナツメを口に入れた。
「甘ぁい!」
両手で頬を押さえている睡蓮を見て、夏乃は干しナツメを懐にしまった。甘いものは好きだけど、残念ながら干果の類はあまり好きではないのだ。
「お酒の追加お願いします!」
厨房の人に声をかけ、夏乃は新しい酒壺を持って大広間へ戻った。
大広間に集った異国の客人たちは、昨日と同じように楽しそうに飲み食いしている。皆かなりの大酒飲みらしく、酒壺はすぐに空になってしまう。
何度目かの酒壺を運んだあと、夏乃は壁にもたれて待機しているうちについウトウトしてしまった。
(しまった!)
ハッと飛び起きた途端、夏乃の目の前には異様な光景が広がっていた。
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