第6話



 日が暮れて、なんとかポーションも沢山作れて流石に疲れた。

 肩が重いし痛みも少し。マッサージ行きたいけどこの世界にマッサージってあるのかな。

 中級ポーションになると効果が三日になったり、上級ポーションは大きな傷が塞がる効果が出たりと様々だった。

 魔法のある世界って凄い。元の世界の常識で生きたらすぐ死にそうこれ。

 机の上には作り終わったポーションが沢山並んでるんだけど、これ本当にコスパが良すぎる。

 一本原液を作れば数十本作れるし、上級ポーションですら一本原液あれば十本作れた。

 これはいけない気がする。売るから作れることが知れるのは仕方ないとしても、このコスパは絶対バレたらまずい。

 レイさんを疑うわけじゃないけど、バラさないようにこれも契約書に入れてもらおう。

 鍵の開ける音がしてドアの方を見ると、レイさんが戻ってきた。


「おかえりなさい」

「ギルドマスターから特級ポーションの材料買ってきた。これでまず作ってみろ」

「えっ、特級ポーションの材料って……高いんですよね!?」

「ああ。本当に作れたら売ればいい」


 麻袋を机に置かれ、中身を出して鑑定してみる。


 種類:キュアリ草

 効果:特級ポーションの材料

 作り方:特級ポーションの材料と混ぜる

 量:一枚


 種類:古龍の血

 効果:特級ポーションの材料

 作り方:特級ポーションの材料と混ぜる

 量:一滴


 種類:神樹の樹液

 効果:特級ポーションの材料

 作り方:特級ポーションの材料と混ぜる

 量:一滴


 種類:聖水

 効果:特級ポーションの材料

 作り方:特級ポーションの材料と混ぜる


 材料多いイメージがあったけど、種類は少なそう。

 古龍の血ってやつと神樹の樹液ってやつが超レアアイテムな気がする。

 一滴で特級ポーション作れるとか凄い。


「古龍って、そんな沢山いるんですか」

「数十年に一度討伐があるかないかだな。古龍の素材は全て高値で取り引きもされるが、長く使える物だから討伐自体そこまで重要視されていない」

「血も一滴でいいなら確かに……」

「そうだ。長期間保存可能で保管は各国の魔術師が厳重にしているが、そこから商人ギルド、冒険者ギルドに卸している」


 確かに不要な討伐は必要ないよね。

 とりあえず混ぜればできるみたいだから作ってみよう。

 混ぜれば完成って特級ポーションなのに。

 知識も無いから、鑑定に書かれてるまま小鉢に材料を入れて一気に混ぜるとそれを見ていたレイさんが口元に手を当てて眉を寄せ見つめてくる。


「どうしました?」

「……材料費だけでも金貨二百枚いくのを一気に混ぜるものだから」

「二百枚も……凄いですね」

「……」

「いや、でも混ぜろって書いてあるから」


 無表情なレイさんですら顔色があまり良くなくドン引きしているのがよく伝わってくる。

 私が常識ない作り方してるのは分かるけど仕方ないというか。

 チート能力を貰っただけで資格も何も無いし勉強してきたわけじゃないし。

 材料費二百枚で売りはもっと……そもそも材料以外にも魔力が必要みたいだし失敗のリスクとかあるのかな。


「どこも材料費は約二百枚なんですか?」

「商人にもよるが、正式に購入する場合はそうなるな。数が少なくなれば価値は上がるから、本当は討伐直後に大量仕入れしておいた方がいい」

「討伐から何年ほどですか?」

「前回の討伐から十年経過しているから、そろそろ値上がりするだろうな」


 とはいえ、特級ポーションほどの緊急事態というのは滅多になく、ほとんどが上級ポーションでなんとかなるらしい。

 王族や、国お抱えのSSランクや勇者パーティーなど名のある人が使うことがほとんどで需要と供給のバランスは取れてるとか。

 それでも、中には闇市で買おうとしたり騙し騙されの裏側もあるみたい。

 それはどの世界も同じなんだなって感想。


「俺らのような平民には手が出せないが、国は別だ。

 暗殺だなんだ、物騒なこともあるからな。特級ポーションはあるだけ溜め込みたい国もある」

「はー、やっぱりあるんですねぇ」

「ギルドマスターから聞いたが、今この国では在庫が少ないらしい。

 唯一作れていた賢者が亡くなったんだ」


 そうなると、高く売れるかも。

 材料を混ぜ終え、最後に水と合わせて瓶に入れると薄っすら白く光っている。


「血が入ってるのに綺麗」

「見せてみろ」


 瓶を渡すと、レイさんがそれを振ったり上下逆さまにしたり完成した特級ポーション見ている。

 私も鑑定で完成品を見てみる。


 名前:特級ポーション

 効果:不治の病回復、解術、四肢欠損回復、その他状態異常

 副作用:耐性

 効果:即時


 なんかとんでもない。あれ?でも不治の病は無理ってレイさんは言っていたような気がする。

 若干嫌な予感もしつつ一応鑑定した効果を伝えると、レイさんは大きなため息をついた。


「不治の病回復に解術だと?」

「は、はい」

「解術はポーションではどうにもならないはずだ……とんでもないもの付与したもんだなあんた」

「たとえばどういう時に……?」


 この反応でチート発揮してるのは分かった。


「主に呪いだな。種類は様々で術者が呪いをかけるんだが、それを解くには教会で聖魔法をかけて解くしかないんだ」

「わー、すごーい」

「アンデッドの傷も呪いと同じで、聖魔法が必要だ」

「ソレハスゴイ」


 思わずカタコトになってしまう。

 神様ー、ちょっとこれはやりすぎなチート能力みたいです。私は稼げるなら助かりますけどやりすぎみたいです。


「その聖魔法で解術するには金貨二百枚ほど必要だ。それも、呪いが強ければ強いほど高くなる。

 それを、魔力も必要なく混ぜて作る特級ポーションで治ると知られたらいよいよ囲われるぞあんた」

「怖すぎ。呪いってそんなにヤバいんですか」


 アンデッドにつけられた傷の場合は、一部なので金貨十枚ほどで治せるらしいけど、術者にかけられた呪いは別らしい。

 術者がかける呪いは憎しみなどで強くなるため、酷ければ酷いほど金額は高くなるみたい。呪いがある世界とか怖すぎる。

 その分、人を呪うと自分にも返ってくるため、滅多に術者も呪うことはないけど、敵の多い王族貴族はそれでも呪われることはあるとのこと。


「でも、自分にも返ってくるならほぼないですよね?」

「今まではな。だが、特級ポーションで治るなら手軽になる分悪用する者は出てくるだろうな」

「……これ、どうにか無くなりませんか?」

「俺に言われてもな」


 解術は相当まずい。

 とりあえず、解術を消したいからさっきと同じように薄めてみようか。

 数滴くらいなら問題ないでしょう。

 さすがに一滴だと少ないかな?と思って空き瓶に特級ポーションを五滴垂らして、水を入れてみる。


 名前:特級ポーション

 効果:不治の病回復

 副作用:耐性

 効果:即時


 効果を伝えると、「この材料では無くなった欠損した四肢を回復させるだけのはずだった」とあまり聞かない方が良かった言葉が出て頭を抱えそうになった。


「欠損した四肢を回復って生えてくるってことですか?」

「ああ」


 なんでもありな世界すぎる。さすが魔法ある世界。

 若干私もなんでもありすぎてドン引きしている中レイさんは黙って特級ポーションを見ている。


「ポーションの名前が初級中級上級とひとまとめにされているのは材料の組み合わせで出来上がる効果がある程度決まっているから。

 鑑定で確認できるしな」

「はい」

「今回の材料は四肢の欠損を回復させる効果。これは産まれつきの欠損やなんらかの理由で手足を切断した場合など全てに効果ある。

 つまり、あくまで失った四肢を回復させるだけであって病を治すことはできない」

「今回の材料で不治の病を治すという効果をつけることは不可能ということですか」


「そうだ」と頷かレイさんを見て意識が遠のくかと思った。目眩というか倒れそうになる。


「不治の病を治すというのは不可能なはずだ。

 それを治したら人間の寿命は無くなる」

「……これは封印すべきでは?」

「そうだな。本当に治るかは別としてこんなものがあると知られたら大陸で戦争が起こる」


 神様とんでもないポーションが出来上がってしまいました。多分これは出来たことすら無かったことにしないと。

 五滴だったから一滴で試してみることになり、空き瓶に一滴と水を入れる。


 名前:特級ポーション

 効果:四肢欠損の回復

 副作用:耐性

 効果:即時


 今度は不治の病ではなく四肢欠損回復となった。

 これでホッとするのもおかしいけどこの材料で作れる効果が出て安心してしまった。


「つまり、あんたが作るポーションはそのままだとこちらが想定している効果を遥かに超えるということか。

 そこから薄め、その薄め方によって効果も変わる」

「悪用しようと思ったらなんでもできますね」


 大陸で戦争なんてと思ったけどこれは起こるかもしれない。


「とにかくこの材料で本来作れるポーションは一滴で作れるようだから、これを二本用意してほしい。

 恐らく一本金貨三百枚程度で売れるはずだ。

 この国では一本、次の国で一本売りたい」

「はい」

「売るにはまず、ここにそれぞれの効果を書き出してくれるか」

「分かりました」


 冒険者ギルドから紙を貰ってきたらしく、机に置いてくれる。

 商人ギルドで売るにはまず効果を書いたものを提出する必要があり、その申告した紙と商人ギルドが効果を確認し一致しているかを確認、そのあと買取という流れと説明してくれた。

 つまり、嘘を言った場合信用がないので買取は断られるようだ。


「大体組み合わせで効果は決まってる。

 あんたのようにただすり潰して混ぜる作り方じゃないからな。

 薬草の枚数や魔力量など決まってる。

 その知識もないとポーションは作れない」

「うわー本当これおかしい力なんだ」

「全員に鑑定があれば楽だけどな。

 ある程度決まってるからこそ調整して作る。初級まではほぼ決まっているから魔力あれば作れるが中級からは誰でも作れるわけじゃない」

「……なるほど」


 いかに私の作り方がでたらめなのか分かるね。

 そりゃ誰でも中級から作れたらポーション売る必要も買う必要もないものね。

 力も必要だけどそれなりに知識も必要ってことね。

 勿論知識だけでは簡単に買い取ることができないので商人ギルド側ではちゃんと鑑定のできる数名が立ち会い、ギルド側が嘘を言わないように徹底しているからそこは安心していいとのこと。

 今日作ったポーションの名前と効果を書き出し、レイさんが仕分け用に買ってきてくれた袋にポーションと効果別に入れていく。


「レイさんはどうして護衛を名乗りでてくれたんですか?」

「仕事を探していたのと、あんたの護衛なら金に困らないと思ったからな」

「それはポーションを見て、ですか」

「そうだ。優しいこと言えなくて悪いが、元冒険者だと金稼ぐには不安定が続く」


 お金のために、素直で分かりやすい。

 けどその方が私も助かる。


「また明日ギルドで細かいことは決めますが、あくまで護衛なので常に張り付く必要はありません。

 ただ、私はご覧の通り何も知らないので気をつけることがあれば教えていただきたいです」

「あんたの住んでいた世界っていうのは平和だったか?」

「そうですね……勿論事件はありましたし、悪人もいましたがそれでも平和だと言えます」


 少なくとも私の周りは平和だった。

 夜だって一人で歩けたし。だけど世界で見たら治安悪いところもあるし、一言で平和とも言い切れないんだけど。


「夜は俺がいない時は外に出るな。

 街の中なら夜以外出歩いていいが、スラムなどもある。そこは夜以外でも足を踏み入れるな」

「分かりました。ということは、夜に出歩くんですかレイさんは」

「そうだな。飲みに出たり……あと先に言っておくが娼館に出かけることもある」

「なるほど、それは確かに」


 そういう時は宿から出るなってことね。

 娼館にいかなくてもこれだけの色男なら遊べそうだけど、お金を払った方が割り切れるとか色々ありそう。大変だな色男っていうのも。

 というかやっぱりあるんだそういうお店なんて思ったり。


「あまり張り付かれてもあんたも嫌だろう。距離感は徐々に掴んでいけばいい」

「はい、よろしくお願いします」

「そろそろこの国を出たかったからな、俺も助かる」


 小さな声で言ったレイさんの表情は少し悲しげで、色々な事情を抱えているのが分かる。

 だからといって、まだ信頼関係が出来上がっていない私から聞いても困るだろうし、私も困る。

 その距離感を分かってるだけ、レイさんは大人だしありがたい。


「あと、あんたは雇い主なんだ。

 言葉遣いをなんとかしてくれないか」

「言葉遣いですか……」

「レイでいい」

「呼び捨ては慣れてからじゃ駄目ですか?」

「雇い主が護衛に腰低い態度してたら周りから信用もされない。

 堂々とするためにも、言葉遣いをなんとかしろ」


 言ってることは分かるんだけど、つまり敬語を無くして呼び捨てしろってことでしょう。

 この世界では雇い主が絶対というのが常識なのかもしれないし、確かに護衛っていうのは主を守るためにいる人だから腰低いのは良くないかもしれない。私のいたところの常識が通用すると思っちゃいけない。


「じゃあ、そうする」

「ああ、そうしてくれ」

「少し疲れたんだけど、もう休んでいい?」

「ああ、俺は下で少し食事してくるが」

「私はまた明日食べる」

「分かった」


 そういえば一日何も食べてない。

 けどお腹は空いてないし、疲れもあるから休みたい。

 この部屋には幸いお湯が出るみたいで、身体は拭けそう。タオルとかは部屋に付いているからそれでサッパリして寝よう。

 レイは下の食堂で食事するために部屋を出ていった。そういえば、受付と食堂が一緒になってた気がする。

 なんとかなりそうで安心したら急に眠気が襲ってくる。

 特級ポーションの効果には驚いたけど、いざというときの資金源にもなるだろうし、そこはレイのアドバイスとか聞いて徐々に覚えていこう。


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