第2話 ボンズ頭



 男子校である。黒色の詰襟の学生服を着た男ばかりが50人集まると教室内は非常に狭くるしくなる。クラス内で地方からやってきたのは5~6人。もちろんわたしも含めて彼らはやはり地方出身の顔をしていた。担任はOという古典の先生で、小さな体に似合った人なつっこい目をしているものの、ダミ声がべらんめえ調の言葉を吐き出す親分肌の人だった。それは受験以来都会コンプレックスのわたしには新鮮でもあり、逆に懐かしい感じも与えてくれた。

このO先生、次の年には父親の跡を継ぐとかで辞めてしまうのだが、クラスで唯一のボンズ頭(坊主頭)が気に入ったのか結構目にかけてくれた。きっと、なにもわからない田舎モノ的な顔が可哀想に思えたに違いない。


坊主頭は中学校のきまりだった。男子生徒は全て5分刈りと呼ばれる丸刈りにしなければならない。そうして3年間を過ごしてきた。周りがみんな坊主頭だから特別な意識なんかあるはずもなく、むしろ小学校の卒業式後に床屋で坊主刈りにしてもらった時には、中学生になるという誇らしささえ感じていたものだった。とは言っても、こうして今、自分だけが坊主頭であると結構気になるもので、仲間達の襟を隠すほどの長髪がずいぶんと都会的に見えていた。それでも、周りの反応はすこぶる良かった。誰一人知った者のいない私だったが、取り立てて害のないヤツと思われたのか、いろんなやつが近づいてきた。


 このころも坊主頭と言えば野球部だと思われていたので「野球部、入るんだべ」とずいぶんと聞かれたものだった。実際、中学では野球をしていたのだが、後半から陸上競技にはまりこんでしまった。この時はもう野球のことは頭になかった。この高校は部活動も盛んで、当時はバスケットボールとフェンシング、馬術が全国レベルの活躍をしていた。その他の部活もそこそこの成績を残していたが、野球部は、部員が新入生を加えないと9名に満たないという有様だった。数年前には選抜で甲子園に出場しているのだが、部活動を目的に入学するという学校ではなく、私と同じで、目指す公立高校に入れなかった負け組の集まりという一面も持っていた。

 とにかく、私の坊主頭がかわいかったのか、体格が認められたのか、入学式の次の日から野球部の勧誘がひっきりなしに教室にやってきた。2年生、3年生、部長の先生、おまけに担任までもがそう決めつけていたようだった。きっと入学するときの調査書とかいうものに、中学時代の部活動のことがずいぶんと大げさに書かれてあったに違いない。中学では野球部、今でも坊主頭、「きっと野球をするつもりだべな」と連想ゲームをしてもおかしくはない。でも違うのです、この頭は校則だったのですから。


 高校入学後もしばらくは坊主頭を続けていたのだが、床屋に行く時間もなく伸ばし続けていると私の髪には立派なウエーブがかかっていた。いわゆるテンパ(天然パーマ)になっていた。中学に入学する前は間違いなく「純粋な?」ストレートヘアーだった。それなのに今は見事に全体にウエーブがかかっている。中学校3年間のボウズ生活のなにかが影響してテンパになったようである。その後は坊主頭になることはなかったので、テンパの髪は未だにそのままである。もっとも、髪の量は格段に少なくなったし、それに反比例するかのように白髪はたっぷりある。ボウズ頭はテンパになりやすいのだろうか。

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