幼馴染しかいないラブコメ

楠木祐

第1話 幼馴染

 幼馴染、主人公を昔から知っていて早い段階から主人公に好意を寄せる尊き存在。

 そんな神に近い存在を主人公とやらは見事に振っていく。そんなクソみたいな世界が当たり前になっているのが俺、佐々木大輝は許せない。


 だからこそ、俺くらいは幼馴染を幸せにする。そう思っていたのに……。


 五月の第2月曜日の朝、俺の家のインターホンがピンポーンと甲高く鳴る。

 階段をリズムよく上る音が聞こえてからノックもせずに彼女、佐藤朱夏は俺の部屋の扉を開けた。


「大輝、起きないと学校遅刻するよ」


 朱夏は俺の布団を剥がそうとする。


 俺はベッドで布団に入りながら寝言のように言う。


「ここは俺に任せろ。だから、お前だけでも早く学校に」

「一緒に行くに決まってるでしょ」


 幼馴染を守った感を出しながら学校をサボる作戦は見事失敗に終わる。


 朱色に染めたツインテールを揺らしながら俺の掛け布団を綺麗に畳んでいる。


「相変わらず汚い部屋ね」


 部屋の床には沢山の本が散らばっている。


「男の一人暮らしなんてこんなもんだよ」

「大輝は一人暮らしなんてしてないでしょ」


 俺の両親は共働きで朝早くから会社に行っている。帰るのも遅いのでほとんど家にいない。だから、ほぼ一人暮らしといっても過言ではない。


「早く学校行く準備して」


 準備してと言いながら朱夏が今日の授業で使う教科書などを鞄に入れてくれる。

 俺はその間に着替えることにする。


「いつも思うけど女の子がいるんだから廊下で着替えるとかしてよ」

「なんで俺の部屋で俺が着替えてはいけないんだよ」


 朱夏とはいつもこんな感じだ。よくできた同い年の幼馴染を持つと苦労する。


「大輝と話していると頭痛がしてくるわ」

「頭痛がするなら学校を休もう。無理は良くない。看病するから俺も休むわ」

「サボりでしょ」


 ジト目で言われ、俺は無言で学校指定の赤色のネクタイを結ぶ。俺たちの学年は赤学年と言われているのでジャージや上履きのラインも赤で統一されている。


 準備を終えて俺と朱夏は学校まで歩く。学校までは徒歩5分、これでは遅刻したら言い訳ができない。


 緩やかな風が朱夏のツインテールを揺らし、俺の髪を撫でる。


「寝癖、ちゃんと直しなさいよね」


 俺の髪がはねているところを朱夏は自分の手をアイロンのように抑えてくれる。


「いやぁ、どうもクシで梳かすという行為があまり好きじゃなくてね。なんか自分の髪の毛をいじめてるみたいで」

「なに馬鹿なこと言ってんのよ」


 朱夏は俺に溜息を吐いて校門をくぐった。


 昇降口でローファーから上履きに履き替えて3階にある教室へと向かう。


「あ、大ちゃん。それに朱夏ちゃんも。おはよう!」


 3階の廊下で俺たちに声を掛けてきたのはの茶谷けいだ。色素の薄い大きな目に茶髪のポニーテールを揺らしながら俺の元へと駆け寄ってくる。


「相変わらず二人仲良く登校するなんて妬いちゃうな。私も学年が同じだったら良かったのに」


 景は俺と朱夏より1学年上の高校2年生なのだが全くお姉ちゃんという感じがしない。同級生以下の存在だ。


「来年も2年生をやってくれるなら同じ教室で勉強できるかもな」


 冗談混じりに俺がそう言うと景は目を輝かせ親指をビシっと立て向けてくる。


「グッドアイデアだね、大ちゃん!」


 何がグッドなんだよ。


「ただの留年だけどな」

「大輝、こんなバカ放っておいて早く教室行こ」


 朱夏よ。一応、学校では先輩なんだから少しくらいは敬わないと。そう言おうと思ったが目の前の残念美人を見て口を閉じる。


「それでは茶谷先輩、失礼します」


 朱夏は俺を引っ張っていく。相変わらず、朱夏は景が嫌いなようだ。


 それにしても俺の幼馴染は皆、容姿端麗だなと思う。多分、前世の俺か先祖が徳を積みまくったのだろう。


 教室に入るとショートの青みがかった黒髪をした女子が声を掛けてくる。それもそのはず、彼女も俺の幼馴染だから。


「……昨日のアニメ、観た?」

「勿論、おかげで寝坊しそうになったわ」


 藤岡葵、漫画やアニメが好きなヲタク女子だ。


「私が起こしに行かなければ本当に危なかったわね」

「まあ、朱夏が起こしに来なければ学校を休めたのにな」

「少しくらい感謝しなさいよ!」


 朝から朱夏は元気だなと思いつつ、葵に俺は聞く。


「今日は部活行くのか?」

「行く。大くんは?」

「まあ、バイトも休みだし行くわ」

「嬉しい」

「俺なんかいてもいなくても変わらないだろ。どうせ、本読んでるだけだし」


 俺と葵は文芸部に所属している。二人とも小説が好きなので所属しているがまだ小説は書いていない。俺の場合は部室に読みたい本が多かったので入部した。読み終えたら辞めると思う。


「ぶ、部活の話はしないでよ」

「朱夏はわがままだな。しょうがないだろ、朱夏は読書苦手なんだから」

「うっさい! ……ばか」


 ホームルームが始まる鐘が鳴る。俺は自分の席である窓側の一番後ろの席で頬杖をついて青空を見上げる。


 本当に、俺の学校生活は幼馴染ばかりいるのだ。


「困ったもんだ」


 

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幼馴染しかいないラブコメ 楠木祐 @kusunokitasuku

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