のりぞっと

鳶雫

わたぬきさかさ

 いつものなんの変哲もない公園で遊ぶ。小学校も高学年にまでなったらもっと夜遅くまで遊べると思っていたのになぁ…どうしてこんなに早くに帰らないといけないんだろう?まだ五語の六時なのに。

「俺帰らなくちゃだ、またね~」

「お前もう帰るのか?」

「そうだよ?母さんに怒られちゃうから」

 友達はしぶしぶ頷いて、蹴っていたサッカーボールを持ち上げた。公園を出て、すぐに友達と別れていつもの帰り道。この道をこの時間に通っているのはいつも俺だけだった。だけど、今日は見慣れないおじさんがいた。白いタンクトップに茶色い半ズボンで、顔はニコニコしている。変な人だな。

「わたぬきさかさ」

「え?!」

 いつの間に目の前に?!怖い…逃げなきゃ……でも足がすくんで動けない…。

「わばたれわけたむわそたをわめた、わてたえわしたおわをたえわい 」

「は?!はい?!」

 あまりの勢いと怖さに俺は返事をしてしまったような感じがした。それでも、必死に何とか足を動かして、逃げ帰るように家に入った。上がる息と心臓の音を抑えながら。

「どうしたの?!そんなに慌てて…顔が青白いわよ?!」

「な、何でもない…から」

「そんなわけないでしょ?!」

 母さんが近寄ってくるけど、俺はあまりの怖さに自分の部屋に逃げるように入った。何を…言っていたのかな?わたわた言っていたような感じがしたし…それに最初に呪文のような言葉を…。

 ぼんやりと浮かぶ姿を振り払って、その日は眠ることにした。翌日明るい内に家の外を見に行く。あいつの姿は…なかった。そのまま約束いつもの公園に向かっていった。

「なぁ、おい!」

「んな?!何?」

「なんか今日はぼんやりしてないか?」

「そ、そうかな?」

「今日はもうやめておくか?」

 そう声をかけられて時間を見る。時間は午後の五時、もう少し遊んでいたい感じもするけど、昨日のことを考えると…大変だ。明日から月曜日で学校があるし。

「うん、早めに帰ろう」

 怖かった、本当は一緒に帰りたかった。でも、一緒に帰ろうなんて言えなかったんだ。そのままいつもの路地を通る。また…いる。今度は明確にこっちに向かって笑いかけてきている。

「わたぬきさかさ」

「な、なんなんですか?!」

「わばたれわけたむわそたをわめた、わくたいわにたえわまたのわえたい」

 慣れてきたのか、俺はそのまますっと逃げることに成功した。なんなんだあいつは…なんで俺にばかり来るんだ?疑問に思いながらも、家の扉を開けた。母さんがすぐに出てきて、扉を閉める。

「大丈夫だった?!」

「なんでそんなに慌ててるの?」

「いえ、なんでもないわ」

 母さんも何か隠しているのかな。よくわからないけど。ごはんを食べて風呂に入って早めに眠る。翌朝、ランドセルを背負って学校に向かう。母さんは一人で登校させたくないみたいだけど…俺の状況を分かっているのかな?確かにあの人は怖いけど…恥ずかしいよ。

 今日も公園でサッカーをして帰る。今日はどこにもいなくて一安心した。どこに行ったんだろう?俺は家の前にたどり着いて玄関を跨ごうとしたらいきなり目の前におじさんが現れた。

「うわぁぁぁぁ?!」

「わたぬきさかさ」

「わばたれわけたむわそたをわめた、わてたれわいたにわえたい」

 だから何言ってるかわからないんだよ!!!俺はそのまま家の中に入って鍵をかけた。今日は母さんが仕事で帰りが遅い日。どうして…こんなとこに限って…。でも、入ってくる気配はしない…。鍵を閉めれば安心かもしれない。

 しばらく様子を見ていたけれど、やっぱりなんともなかった。

「ただいま」

「お帰り」

「大丈夫だった?」

「うん、大丈夫…かな」

「俺もう寝るね」

「そう?お休みなさい」

 ベッドに入って、眠ることにした。明日はいないといいけど……。夢うつつ、何か夢の中で声が聞こえる気がする。さかさ…さかさ?!

「……さかさ」

「……?!」

 俺は驚きすぎて目を開ける。すると、おじさんの顔が目の前にあった。目が窪んでいて、いつもの笑顔じゃないように見える。声が出ない…何もできない…怖い……怖い…。

「わたぬきさかさ」

「わまたさわかたさわはたらわちたそわとたらわちたこ」

 わをたんわぶたじわだたんわぼたくわがたみわとたひわくたろわく、わるたいわてたみわをたんわぶたじ

「わたぬきさかさ」

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