第15話

「んで、さっきの話」

 流石に掃除中に長話をするのは部長殿に怒られてしまいそうだったので、結局話は後回しにして作業を続けた。

 それから疲労が溜まり続け、部員全員の顔に疲れが現れ始めた頃に昼休憩となった。

 近くにあるファストフード店まで歩きながら、俺は誠吾に睨まれている。どうやら、今あの話をするようだ。

「つっても、初代の話は多分お前の方が知ってると思うぞ」

 男に顔を近づけられても最悪な気分になるだけなので、軽く彼の体を押して離す。

「そりゃそうだ。舐めるな俺を」

「きも」

「んだとテメェ」

 コイツの狂信はある意味信用できる。特に情報収集に関してはプロ顔負けだ。

「まあ、俺の友人なんだけど、どうやらアクターズ? の一員だったらしいんだよね」

と彼の情報を少しだけ晒すと、誠吾は空気が震撼するほどの声で叫んだ。……ミミシヌ。

「おま、おまままま、おち、おえああええ」

「落ち着け。壊れたロボットになってんぞ」

 どうやら彼にとっては処理しきれないほど大きな情報だったらしく、まるでロボットのようにバグを起こしていた。

「落ち着けるかこんなん!!」

 驚きっぷりが異常だが、そこまで驚くものなのだろうか。確かに俺も驚きはしたが、遥から言われてもここまでではなかった。

「アクターズといえば、三年間だけ存在した我が校伝説の部活だろ!!」

 三年間しか、確かに遥の先輩……神崎美月達が設立したとは聞いたが、まさか彼女たちが在籍している三年間しか活動していなかったとは。驚きだ。

「多少聞いたけど、人気出そうな部活だっただろ。なんで三年で無くなったんだ?」

 遥の話では、「ただ遊ぶだけの部活」で、こんな部活だったら誰もが入りそうなのだが、当時の生徒たちは違ったのだろうか。

「なんでも、部員が居なくて廃部って訳じゃなかったらしーよ」

 と理解していないような顔で言う誠吾に、俺は困惑しながら小首を傾げる。

「ならなんで無くなったんだ?」

「そりゃあ……知らねえ。その元部員に聞いてみりん。てか俺が聞きたい」

「お前にゃ会わせねえ」

 などと雑談をしていると、いつの間にか某ファストフード店に辿り着いた。

 ……掃除終わったら店行ってみるか。

と考えながら、スマホをつつく。

「にしても、プール始まんのかぁ……」

 食べるものを決めて注文を済ませると、目の前に座った誠吾がしみじみと言った。

「どうした急に。嫌か?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、時間が経つのは早いなって思ってさ」

 そう言う彼を見て、苦笑する。

 確かに、時が経つのは早いものだ。

 ここ数日は別の件でそれどころではなかったため気にしていなかったが、よく考えてみれば俺達は「先輩」なのだ。

 少し前までは後輩として、先輩を追いかけるだけでよかったのだが、もうそれではダメなのだ。追いかける対象は、次の大会で引退となる。その先は、もう俺たちの代。

 後一年しかないのだ。今ここで駄弁っているこの一秒ですら、引退というタイムリミットに近づいている。

「でも、嫌だよなぁ……」

 気づけば、俺はそんな言葉を零していた。

 後輩の居る部活も、先輩の居ない部活も、俺達に責任がある部活も、嫌だ。

「なんだよ。お前は嫌なのか」

 俺が零した呟きを彼はしっかり聞いていたらしく、困ったように苦笑した。

「泳ぐこと自体は良いんだけどさ。今年は後輩めちゃ入ってきたし、大変そうだしな」

 今年の水泳部は異常な人数入ってきた。そのおかげでプールがどうなるか分からない。

 そもそも泳げるのだろうか。

「まあ、確かに大変かもな」

と誠吾は遠い目をする。どうやら彼も思うところがあるらしい。

 などと今後の部活のことを憂いていると、注文したバーガーが届いた。そのため、俺たちは話を切り上げてそのバーガーにかぶりつくのだった。


◇◇◇


「……珍しいな。また壊れたか?」

 一週間前にも訪れた店に、足を踏み入れる。扉を開ける音が聞こえたのか、また別のバイクを弄っていた遥が弾かれるように俺の方を見て驚いた。

「うんにゃ、今日は違う用事」

「違う用事?」

 はてなマークを頭の上で回転させている遥をジッと見つめながら、

「アクターズについて、もっと教えてくれ」

と言うのだった。

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