第8話
「あーあー、暗くなってら」
部室で駄弁っていると、いつの間にか時間が過ぎていた。おかげで外は闇に包まれかけている。
「まだ冬だなぁ……」
隣には、自転車を押して歩く誠吾が居る。
彼はこの学校の近辺に住んでいるので、自転車で通っている。そしてたまに、バイク通学の俺を羨んでいる。自転車も良いのにな。
「昼間は暖かくなってきたんだがな」
やはり春というのは、気候が不安定だ。とても暖かい日があると思えば、冬のように寒い日だってある。今日だって、昼間は暖かかったのに、今は身体が震えるほどに寒い。
……いや、これは俺が寒がりなだけか?
「あら、今お帰りですか?」
駅までの歩道を歩いていると、横からそんな声をかけられた。
そちらを見てみると、相変わらず笑みを浮かべている女神様が居た。しかし、その笑みはどこか「思惑通り」といった感じだ。
「女神様!? どうしてここに」
突然現れたものだから、誠吾は目が飛び出そうなほどに驚いている。驚いてないように見えるだろうが、俺だってびっくりした。
「たまたまですよ。本当に、たまたま」
その目は俺の事を見つめている。
「女神様は電車通学なんでしたっけ」
彼女のとの関係を誠吾にバレないように、わざと敬語を使い、女神様呼びをする。
「だから……いや、そうですよ。普段は電車を使っています」
彼女は何かを言いかける。多分「女神様と呼ばないでください」とでも言おうとしたのだろうが、今は誠吾も居る。ここで俺だけ呼び方を訂正すれば、違和感が残るだろう。
「なら、こんな日もあるでしょうね」
と、女神様ではなく誠吾を見て苦笑する。
そう、あくまでも俺達は"たまたま"出会ったのだ。特に待ち伏せされていただとか、そんな話は無い。俺がたまたま電車通学で、彼女が何かしらの理由でこの時間に学校を出ていただけなのだ。
「てことは、女神様と帰れるだとぉ?」
あることに気づいた誠吾は叫ぶ。
俺も彼女も今は電車通学だしな。たまたま会ってしまったら同じ電車に乗るだろう。
「あはは、光月さんがよろしければですが」
「良いですよ。断る理由もないですし」
ていうか、何でこいつ女神様が乗る電車知ってんだよ。流石に怖くなってきたぞ。
「ばったり出くわしただけですもんね」
と、彼女は顔を近づけて俺にだけ聞こえるように囁いた。
「そーっすね」
適当に相槌を打ちながら、少し離れる。誠吾は膝から崩れ落ちているため聞こえていないとは思うが、危険は避けるに限る。
不満を視線に乗せて送られるが、知らないふりをする。俺達はあくまで話すこともないクラスメイトなのだ。
「って、そろそろ電車来るじゃねえか」
スマホを見ると、光を放った待ち受けにデジタル時計が表示される。そこには、電車が到着する数分前の数字が書かれていた。
無理やり誠吾を立たせる。こんなことしてるから時間が無くなるのだ。
「けっ、そのままお前だけ遅れてチャンスを逃しちまえ」
そうだな誠吾。俺もそうしたいよ。だがな、お前は気づいていないかもしれないが、女神様お前のこと有り得ないほど睨んでるぞ。
「もう遅いですし、早く帰れるに越したことはないでしょう。ほら、来ちゃいますよ」
駅はすぐそこだが、女神様は小走りで進んでいく。すぐに距離が空いてしまったため、誠吾の背中を叩いて、共に走り始める。
「このやろう……許さんぞ……」
「なんで俺を恨むんだよ。なんならお前も電車で帰ればいいだろうに」
「朝の電車が嫌いだからヤダ」
身勝手な男である。人の事恨む前に自分を改善してほしいものだな。
「ふう、間に合いましたね」
それから少し走って、俺達は駅に辿り着いていた。遠くからカンカンという音がしているので、電車も丁度来たのだろう。
「そんじゃ、またな」
「お疲れ様でした。また月曜日」
俺達は一度振り返って、誠吾に向けて手を振る。奴も笑顔で「バイバイ」と笑っていたのだが、女神様の視界から外れた瞬間、俺へ恨み妬みの視線を送った。
おーこわ、アイツ当分機嫌悪いな、これ。
そんなことを考えて顔を引き攣らせると、隣の女神様が不思議そうな顔をする。「なんでもないですよ」と誤魔化してから電車に乗り込む。清水さんもついてきた。
時間も時間なので、席は結構空いている。そのため二人揃って腰を下ろした。
「……待ってたんすか」
「なんのことです?」
完全に駅から離れたことを確認した俺は、ため息をつきながら彼女を見る。すると、「なんのことか分からない」と言っているかのような顔をされてしまう。
「いいや、なんでもない」
俺が蒔いた種だ。深く追求するのはスマートではないだろう。と、女神の笑みを浮かべる彼女を見ながら、考えるのだった。
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