第5話 地獄で迷子になりました。
「えっと、会社って、どこまで行けばいいの?」
アレから、どれくらい経ったのだろう・・・
かれこれ、一時間くらい歩いていると思う。
なのに、全然会社が見えてこない。見えるのは、真っ赤な荒野だけです。
真っ直ぐな道をひたすら歩いているけど、一向に何も見えてきません。
「完全に遅刻よね。初日から、何やってるんだろう・・・」
泣きそうな気持を奮い立たせて、私は、足を前に踏み出します。
引き返そうにも、戻ったところで、どうにもなりません。
どこか曲がろうにも、曲がり角もなく、人に聞こうにも、誰も歩いていない。
このままでは、出勤どころか迷子です。地獄で迷子なんて、シャレにもならない。
それでも、私は、歩を進めました。
「お~い・・・」
そこに、誰かの声が聞こえました。振り向いてもだれもいない。空耳だな。きっと、私、どうかしちゃったんだ。
初出勤なのに情けない。遅刻どころか会社にたどり着けないなんて社会人失格だ。
そう思うと涙が出てきました。大人なんだから泣いちゃいけない。これくらいのことで泣いていたら地獄で仕事なんて勤まらない。私は、そう思って涙を指で拭います。
それでも、涙が後から出てきて止まりません。
「もう、どうなってるのよ。誰か助けてよ・・・」
私は、ついに、その場にしゃがんで何もない真っ赤な空に呟きました。
もう、歩けないよ。足が痛いし、どこを歩いているのかもわからないし、何も見えないし、いつになったら、会社に着くのよ。これなら、満員電車の方がましよ。
「お~い、なぎさぁ~」
その時でした、私の名前を呼ぶ声がしました。
私は、空を見上げると、空から黒い何かが降りてきました。
「エンマくん!」
それは、黒いマントを翻してやってきた社長の御子息で、専務のエンマくんでした。地獄に仏とは、この事です。イヤ、エンマくんは、地獄の使者だから、
それはないか・・・
「お前、何してんだよ」
「あぁ~ン、エンマくぅ~ン」
私は、エンマくんを見て、思わず抱きしめて泣いてしまいました。
「しっかりしろよ」
「だって、いくら歩いても、会社に着かないし、もう遅刻だわ。初出勤なのに社長に怒られるわ。私は、クビよ」
「なぎさ、泣くなよ」
「だってぇ~」
私は、エンマくんの胸に縋りついて号泣です。
「泣くなって言ってんだろ」
エンマくんは、私を引き離すと、涙でぐしょぐしょの私を見ながら呆れていました。
「まったく、だから、人間なんか雇うなって言ったんだ」
「ごめんなさい・・・」
「親父が、様子を見て来いって言うから来てみたら、この様だもんな。先が思いやられるぜ」
「ごめんなさいぃ・・・」
「いいから、行くぞ」
「だって、もう、遅刻よ」
「バカか、お前。ここは、地獄だぞ。人間の会社じゃないんだから、遅刻とかないから心配すんな」
「えっ! ないの?」
「当り前だろ。ここをどこだと思ってんだ。さっさと行くぞ。親父が待ってる」
そう言うと、エンマくんは、私の手を取っていっしょに歩いてくれました。
「ねぇ、専務、この道でいいの? 会社まで、寮から歩いてどれくらいかかるの?」
「お前の足なら、五分もかからないと思うけど」
「ウソよ。もう、一時間くらい歩いてるのよ」
「お前、寮のどこから来たんだ?」
「どこって、玄関から出て、そのまままっすぐ歩いて・・・」
「バカか、お前。会社の入口ってのは、玄関じゃないんだよ」
「だって、昨日は、姑獲鳥さんに送ってもらった時は・・・」
「あの時は、会社の中からだったろ。入り口というか、社員の通用門は、寮から繋がってるんだからわざわざ玄関から出て行くバカがいるかよ」
「そんなの知らなかったんだもん」
「ったく、あのバカ親父・・・ 行き方くらい教えろって」
エンマくんは、ブツブツ言いながら私の手を引いて歩きます。
「それで、あと、どれくらいなの?」
「すぐだよ」
そう言うと、いきなり私を抱き上げたのです。
「あの、ちょっと、なにを・・・」
「トロトロ歩いていたら、時間かかってしょうがないから、空から行く」
「イヤ、でも、あの、その・・・ キャァァァ~」
言い終わらないうちに、私は、抱かれたまま空に飛び上がっていました。
「降ろしてぇ・・・」
「しゃべると舌を噛むぞ」
エンマくんに言われて、私は、口を結んで、しがみ付きました。
真っ赤な荒野をエンマくんに抱かれて空を飛んでの出勤なんて前代未聞です。
社長になんて言い訳したらいいのか、頭がパニックでした。
そして、やっとのことで、下に降りると、足が震えていました。
「着いたぞ。しっかりしろよ」
「あ、ありがとう」
「ここが、入口な。外から入るときは、入口って見つけにくいから、外に出るときは、誰かといっしょに行くように」
「ハイ、わかりました」
「それから、俺のことは、エンマとか言うな」
「ご、ごめんなさい。専務」
「わかりゃいいんだ」
そう言うと、今にも朽ち果てそうな、枯れた大木の節穴に手を入れると、不思議なことにドアが開きました。まるで、ドラえもんのどこでもドアみたいでした。
私は、専務において行かれないように、急いで後に続きました。
中に足を踏み入れると、昨日、何度も歩いた地味で何もない、殺風景な通路が伸びているだけでした。
両側には、いくつもドアがあります。このどれもが、開けてはいけないドアなのです。
階段を通り過ぎると、突き当りが社長室です。専務に付き添われて、社長室をノックしました。
「ハイ、どうぞ」
「失礼します」
私は、平身低頭で社長室に入りました。
「あの、社長、今日は、遅れて申し訳ありませんでした」
私は、深く体を折り曲げて頭を下げました。
「いいから、いいから、なぎさちゃん、頭を上げて」
「でも、その、私は、遅刻して・・・」
「いいんだって。ここは、人間の会社じゃないんだから、遅刻とかないから」
社長は、満面の笑みで私に言いました。
「ウソつけ。鬼どもが、一分でも遅れたら、八つ裂きにするくせに、なぎさには、甘いんだから」
「こら、エンマ。お前は、もう、いいから、さっさと仕事に戻れ」
「ハイハイ、それじゃな」
「あの、専務、ありがとうございました」
「もう、迷子になるなよ。次は、助けてやらないからな」
そう言って、専務は、マントを翻して社長室を出て行きました。
それにしても、もし、専務が助けに来てくれなかったら、いまごろ私は、どうなっていたのだろう・・・
地獄で行き倒れになって、誰にも知られず、のたれ死にするところだったのだろうか。それを思うと、専務は、まさに命の恩人です。
私は、社長の言葉に胸を打たれて、感謝の気持ちで一杯でした。
社長は、椅子から立ち上がって、私の方に来ると、優しく肩を叩きながら言いました。
「わしが悪かったな。行き方とか時間とか、なぎさちゃんにはわからなかったもんな」
「いえ、遅れた私が悪いんです」
「それじゃさ、なぎさちゃんでもわかるようにするから。とりあえず、今日の予定とキミの仕事を教えるからね」
「ハイ、よろしくお願いします」
そう言って、話を始めたので、私は、バックから手帳を取り出してメモをしました。
「なぎさちゃん。メモは、取らないように。頭で覚えるの。そうじゃないと、いつまでたっても、覚えられないからね。簡単なことだから大丈夫だよ」
そこに、広報課のろくろ首さんが入ってきました。
「おはようございます、社長」
「丁度いいところに来た。なぎさちゃんに説明してあげて」
「ハイ、承知しました」
ろくろ首さんに促されるようにして、ソファに座ると説明を受けます。
「まず、出社するのは、子の刻ね。時間配分は、わかりますか?」
「ハイ、昨日、寮で緑鬼さんに聞きました」
「それじゃ、ここに来る道順だけど、それは、口で説明するより、今日、寮に帰ったら千手婆に聞いてね」
「ハイ、わかりました」
私は、今言ったことを頭に叩き込みます。
「時間になったら、社長室に来てね。その日の社長の予定は、私が教えるから、あなたは、社長の言うことを聞いて動いてね」
「ハイ」
「それとは別に、毎日のなぎさちゃんの日課は、地獄内の見回りね。地獄の行き方は、わかる?」
「ハイ、通路を出て、階段を下りて、ドアを開けるんですよね」
「そうよ。後は、道に沿って歩くだけ。足元だけは気を付けてね。落ちたら死ぬから」
私は、昨日のことを思い出して息を飲みました。
「道に沿って歩けば、自然に終点に着くから。だいたい、2時間くらいで終わるから。その後は、お昼休みでその後は、見回り中に鬼とか番人から言われた苦情とか、聞いた話を処理すること。他は、社長の指示に従って」
「ハイ、わかりました」
「要するに、パトロールね。地獄で働く鬼とか番人たちに、もっと、快適に働けるようにしないといけないでしょ。
いろいろと苦情とかあるのよね。それを聞いて回るのが、なぎさちゃんの仕事だから」
「ハイ」
「帰り方は、教えてあげるから、明日からは、迷子にならないようにね」
「ハイ」
それだけ言うと、今度は、ろくろ首さんが社長に言いました。
「本日のご予定ですが、お昼に悪魔界のゼノン様とシレーヌ様との会食。その後は、天上界で打ち合わせ。それから、五感王様と会議を予定しております」
「面倒臭いなぁ・・・ そっちで、やってくれない?」
「社長、会社のためです。辛抱してください」
「でもさ、あいつら、勝手なことばっかり言って、話が難しいんだよな」
「それなら、なぎさちゃんをいっしょに連れていったらいかがですか?」
「それは、いいアイディアだね。顔見世にもなるし、ちょうどいいよ。なぎさちゃん、付き添いいいかな?」
「ハイ、よろしくお願いします」
「それじゃ、急いで、パトロールに行ってきて。時計は、持ってるよね。寅の刻までに戻ってきて」
「ハイ、わかりました」
私は、時計を見ました。今が、子の刻を少し過ぎたところなので、寅の刻まで二時間以上あります。
「それじゃ、急いで回ってきます。失礼します」
「ハイ、いってらっしゃい。くれぐれも、足元に気を付けてね」
社長に言われて部屋を出ました。後から、ろくろ首さんが追いかけてきて、階段のところまで送ってくれました。
「それじゃ、あたしは、仕事に戻るから、気を付けてね」
「ハイ、がんばります」
私は、気合を入れて、階段を下りていきました。
「さて、ここからは、一人だから、がんばるぞ」
私は、鼻息も荒く、自分に気合を入れるように、頬っぺたを軽く叩きます。
そして、ドアに手をかけて開けました。その瞬間、悲鳴と怒号が耳をつんざきます。
昨日のことを思い出すと足が竦みました。いわゆる、阿鼻叫喚の地獄絵図が私を待っていました。
しかも、今日は、私一人です。誰も助けてくれません。それでも、私は、やると決めたので、がんばりました。
ドアを閉めて、地獄に一歩踏み入れました。
途端に、両脇から亡者や死者たちの泣き叫ぶ声や、血だらけになりながら助けを呼ぶ声が聞こえました。
私は、なるべく見ないように歩きました。パンプスより、スニーカーがいいかも。
スカートより、パンツスタイルのがよかった。その前に、化粧とか熱さですでに取れてるし、髪もグシャグシャなことに気が付きました。化粧直しがしたいけど、こんなところにお手洗いなんてありません。
私は、勇気を出して歩き始めました。
「よぉ、なぎさちゃん。パトロールかい?」
声をかけてきたのは、昨日の赤鬼さんでした。
「ハ、ハイ」
私は、見上げるように顔を上げて言いました。
「今日は、一人かい。がんばってな」
「ハイ、ありがとうございます」
顔は怖くても、話し方は優しそうです。でも、それは、私だけに向けられた声であって、死者や亡者たちには、怒りに満ちた恐ろしい声をしていました。
「貴様は、生前に子供を殺しておいて、なにが助けてだ。てめぇは、助けてといった子供を一度でも、助けたことがあるのか」
赤鬼さんは、そう言って、すでに体中を針で刺されている死者に容赦ありません。
私は、そんな凄惨な現場を見て見ぬふりをしながら歩きました。
血の池地獄では、真っ赤に染まった河童たちに叩き落され溺れている死者たち。
熱風地獄で焼かれている亡者たち。とても直視できない、残酷な光景が広がっています。
私は、十分に足元に気を付けながら歩き続けました。
すると、生地獄の番人の青鬼さんから声をかけられました。
「なぎさちゃん、ちょっと相談があるんだけど」
「ハ、ハイ、何でしょうか?」
「総務に言ってんだけどさ、いつまでたってもやってくれなくて、困ってることがあるんだよ」
「ハイ、何ですか?」
「これだよ、これ」
そう言って、自分が履いている縞々パンツを指さしました。
「これのサイズが合わなくて、ずり落ちてきて、仕事になんないんだよ。新しいのをくれッて、言ってんだけどさ総務の方が全然やってくれなくてさ、何とかなんないかな?」
見ると、縞々パンツがブカブカで、片手で押さえています。これじゃ、確かに気になって仕事にならない。
「私にできるかわからないけど、直せるものなら直しますよ」
「そりゃ、ありがたい。やってほしいから、ちょっと待ってて」
そう言うと、青鬼さんは、岩場の陰に回ると、なにやら生着替えを始めました。
「ハイ、これ」
そう言って、私に差し出したのは、今まで履いていたブカブカのパンツでした。
しかも、ものすごく大きい。相撲取りなんてもんじゃない。まるで、ウルトラマンのパンツのように巨大です。
「これですか・・・」
「そう。なんとか、頼むよ」
「ハ、ハイ。がんばってみます」
私は、そう言って、大きなパンツを小さくたたみます。
「これに入れていけばいいよ」
そう言って、青鬼さんは、縞々の風呂敷をくれました。
私は、それに包んで背中に背負いました。まるで、マンガに出てくる泥棒です。
パンツの入った風呂敷を背負いながら、さらに歩きました。
なんだか寒くなってくると、そこは、雪女の氷地獄でした。
「ジャンパーを着てくればよかった」
と、後悔先に立たずの状況にいると、雪女の女王の雪姫様に声をかけられました。
「あら、なぎさじゃない。お仕事中なの。ご苦労様」
「どうも、雪姫様」
「丁度いいわ。お願いがあるんだけど」
「ハイ、何かしら?」
「ウチの娘を預かってほしいんだけど、あたしが仕事中に、面倒みてくれないかしら?」
「ハ、ハイ?」
「あたしが忙しいときでいいのよ。頼むわ」
「えっと、雪姫様のお子さんですか?」
「そうよ。一人娘で、跡取り娘の雪子よ」
女王様に娘がいたとは、知らなかった。てゆーか、結婚してるんだ。相手は、誰だろう?
「今度来たときでいいわ。その時、よろしくお願いね」
「でも、私は、ベビーシッターとかやったことないし、資格もありませんけど」
「バカね。ここは、地獄よ。そんなの関係ないわ。なぎさは、子供って嫌い?」
「いいえ、好きですよ」
「だっらた、問題ないわ。ウチの子は、おとなしくていい子だから、手もかからないと思うの」
「そうなんですか。それじゃ、その時は、声をかけてください」
「ありがとう。なぎさのことは、大王様に言っておくからね。給料アップするわよ」
それを言われると、私も弱い。お給料のことは、やっぱり高い方がいい。
その後は、餓鬼地獄の見回りです。今日も、小さな子供たちが河原で石を積み上げています。
それを、鬼たちが崩して回っています。子供たちは、泣きながら何度も石を積み上げます。
そんな光景を見ると、やっぱり、悲しくなります。違う意味で、見ないようにするしかありません。
それを過ぎると、やっと、パトロールが終わります。
昨日のことを思い出して、今にも倒れそうで倒れない、大木の節目に手を入れると、不思議とドアが開きました。
中に入ると通路に出ました。それも一番奥です。どこからどう繋がっているのか、摩訶不思議としか思えない。
私は、早足で廊下を進み、一番奥の社長室まで行きました。ドアをノックして中に入ります。
「失礼します。見回り、終わりました」
「ご苦労様。時間通りだね」
私は、自分の時計を見ると、寅の刻を少し過ぎたばかりなので、許容範囲でホッとしました。そんな私を見て、社長が言いました。
「ところで、それなに?」
私が背中に背負っている風呂敷を見て言いました。私は、青鬼さんに頼まれたことを正直に話しました。
「あっはっはっ・・・ なぎさちゃん、しっかりやってちょうだい。がんばってね」
社長は、お腹を抱えて大笑いしながら言いました。
「それと、雪姫様から・・・」
「聞いてるよ。雪姫から連絡が来たから。アソコの娘の子守でしょ」
「ハイ、でも、私は、ベビーシッターなんてしたことないし・・・」
「平気、平気。あのオテンバ娘は、少しヤンチャだけど、なぎさちゃんの言うことなら、ちゃんと聞いてくれるから」
「そうでしょうか? でも、子供だけに、もし、何かあったら・・・」
「大丈夫だよ。人間の子供と違うんだから、ちょっとやそっとじゃ死んだりしないから、言うこと聞かなかったら
遠慮なく引っ叩いてもいいよ」
「イヤ、それは・・・」
「いいの、いいの。ここは、地獄なんだから、何も問題ないから。それに、ちゃんとやってくれたら、
給料上げてあげるからね。場合によったら、ボーナスもアップするよ」
「ホントですか?」
「わしは、ウソは付かんよ。人間じゃないからね」
「ありがとうございます。がんばります」
私は、そう言って、深く頭を下げます。
「それじゃ、行くよ。ちゃんと付いてこないと、迷子になるからね。迷子になったら、生きて戻れないからね」
社長は、縁起でもないことをサラッと言うと、部屋を出て行きました。
もちろん、私は、急いで社長の後について行きます。絶対に離れてはいけない。
離れたら最後だ。生きて帰れなくなる。私は、そう思いながら、ついて行きました。
長い廊下を社長は、慣れた足取りで歩くと、途中の地獄に通じる階段の前で止まりました。
「ここね」
階段の向かい側のドアを指さしました。そして、ドアを開けます。すると、そこにもう一枚ドアらしきものがありました。
「これね、エレベーター」
「ハイ?」
「魔界とか天上界に通じるエレベーターだからね」
まさか、地獄にエレベーターがあるとは、思わなかった。
社長は、私が知っているエレベーターと同じように、ドアの横についているボタンを押します。すると、扉が開きました。
「乗って」
私は、社長の後に続いて乗りました。ところが、そのエレベーターの中はというと、ざっと100人は軽く乗れるくらい、ものすごく広いエレベーターでした。そんな広いところに、ポツンと社長と私の二人だけです。
「広いんですね」
「そうだよ。だって、みんな体がでかいでしょ。これでも、定員は10人だし、体重制限があるからね」
やることなすこと人間世界と同じだ。てゆーか、このエレベーターに誰が乗るんだろう?
そんなことを思っていると、ドアが閉まりました。しかし、ドアの横にあるべき、階下の数字がありません。魔界というのは、何階にあるんだろう?
「社長。魔界というのは、何階なんですか?」
「地下230階だよ」
「ハァ?」
私の頭の上には、ハテナマークが限りなく浮かびました。
「丁度いいから、メモっておいて」
私は、慌ててバックからメモ帳を開きました。
「なぎさちゃんたちがいる地獄は、地下2000階ね」
右手に持っているペンが止まりました。地下2000階って、どれだけ地下なのよ?
「それで、悪魔が住んでる魔界は、地下230階。神がいる天上界は、地上1万階ね」
もう、書く気も失せました。メモしても無駄だなと思いました。すごい話だけに、一度聞いたら忘れません。
「なぎさちゃんたちがいた、人間界は、一階ね。でも、鬼とか悪魔たちが勝手に出られないように、一階は、通過するから、なぎさちゃんも許可がないと止まらないからね」
私も、降りられないんだ・・・ もはや、私は、地獄の住人ということなのね。
「ところで、魔界まで、地下230階ってどれくらいかかるんですか?」
「もう、着くよ」
「ハイィィ?」
そう言った途端に、エレベーターが止まりました。もう着いたの? 地獄って、地下2000階じゃなかった?
そこから、地下230階まで、物の二分とかからなかった。それどころか、ちっとも揺れたり音もしない。
こんなに静かで乗り心地がいいエレベーターなんて、乗ったことがありません。
そんなことを感じていると、ドアが開きました。
「降りて」
私は、社長の後について、エレベーターを降りました。そこは、地獄とは、違う意味で、恐ろしい世界でした。
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