或る真実の告白
ライゾウ
一通目
拝啓お義母様
と書き出すべきなのか迷いながら、今筆を執っています。
多分、あなたは僕の話などお聞きになりたくないものと存じます。
それはそうでしょう。
こうして僕が塀の中から手紙を書かなくてはいけない身分である以上、特に貴方から非難されるべき人間に違いないのです。
貴方がこの間、僕の所へやって来てお責めになられた言葉の数々は、至極真っ当なもので、世間の事実からしても「その通り」と受け止めるつもりです。
そんな僕が貴方に手紙を寄越すなどというのは『何をふざけた』とでも思っているのでしょう。
それは当然で、僕をより嫌いになるのかもしれません。
であるのに、手紙を出しているというのは、こちらも相当に考えた末であるのをお察し頂けると有り難いです。
僕がこうまでするのは『貴方だけには話しておかなければならないものがある』と思ったからなのです。
貴方が来てから僕には、数ヶ月考える時間がありました。色々と考え、手紙を出すことにしたのです。
貴方はあの時、御自分の住所を仰らなかったので探すのも苦労しました。
僕の限られた方法では、可也難しかったのですが、なんとかクリアするに至りました。
はじめに言っておくと、僕が言いたいのは謝罪の意思とか罪から逃れようとする為の言葉ではありません。
それは、読み進めていただければ解るのだと思います。
もしかすると、貴方の望むものではないかもしれませんが、読んでいただけると信じて送り続けさせて頂きます。
貴方も「何故、可愛い孫が手に掛けられることになったか」は、本来身近だからこそ知りたいとも思っているでしょうし、知ってもおくべきでしょう。
僕にとって
誰からも愛されたであろう、あの笑顔が忘れられない······
今を以て、独り占めしたいという欲求が湧いて来る。
令美という人生は約束されていた。
嗚呼、令美······
貴方には、僕のこの悲しみは解らないでしょう。
貴方にとって僕は孫を殺した憎い奴でしかないのですし、こうして我が子を思い出しているのでさえ、苦々しく思うのだろうと推測します。
しかし、こちらから言わせて頂ければ、それにすら理由があるのです。
貴方の人生に理由がつけられるように、こちらも然りと言え、ましてや自分の子を手に掛けたとすればそれは明白です。但しそれは、複雑な原因の入り混じった物事の結果なのです。
様々な物事は生まれたその瞬間、ただそのものでしかないというのに、それが一秒、十秒、一分、一時間、一年、十年と時を経ると、或る一つの形でしかなかったものが、全く違う形へと変化しているという事があります。
更には変化の過程で、意味自体が変化し、意味すら一定ではない、という場合があります。
もっと言えば、形や意味の変化が起こる過程で、何処に、誰に作用するかは誰にも解らないという側面があります。
貴方が怜を産んだのも、僕が怜に出会ったのも、令美が誕生したのも、僕と貴方が手紙で繋がったのも、理由がつけられる。
この細かい事象が連関し偶然にも生まれたものを、見えない力が生み出した人生に於ける必然と僕は捉えました。その必然となった理由を僕は考え、貴方にお伝えしようと思った訳です。
僕が行き着く先となったのは、端から見ても体感からしても、最悪な場所と言って差し支えないです。
けれども、場合によっては「百八十度、逆ににも出来ていた」という、気もしているのです。
結果が最悪であっても、全ては偶然であり必然という中で、だからこそ「この行き着いた先は何故だったか」という原因究明はするべきで、手紙は解決の方法なのです。
世間では良いことは良いこと、悪いことは悪いことの域を脱せず、決して裏返るでもなく報道され、裏側に本来あるであろう真実を見るでもなく、殆どの人は生きているのだと思います。
善にも悪が、悪にも善が絡んでいるのが自然で、我々もその一例でしょう。
罪は罪であり、僕の立場は変わりません。
されど「物事には理由があるのだ」と知って「罪にも幅がある」と知るのも決して悪くないでしょう。
いえ、知るのは今や必然。
僕が手紙を出すと決めた時点で発生した
「義務」
のようなものかもしれません。
『そんな義務を課されても』と重荷を感じて頂かなくても結構です。
とりあえず、貴方の知らないであろう我々の思い出話を、ただ聞いてみるだけと思ってお読みください。
もしかすると、部分的に消化に時間がかかるかもしれません。
そんな時は、まず気軽に受け取って頂いて、そのうち、なんとなく受け入れて下さればと思います。
なにせ僕には時間があります。
不幸な人間に付き合うくらいのボランティア精神をお持ち頂いて、これより長々と書くこちらの戯言にでも付き合って下さい。
先に書いた通り、結果には全て理由があるとすると、一から書くほうがいいでしょうか。
でしたら、まず僕の生い立ちもそこそこに、自分と怜の出会い辺りから書くのが良いでしょう。
貴方は僕らの出会いなど、当然知らない訳で、丁度良い機会なのかもしれません。
それではちょっとお耳を、いえ、目の方でしょうか。加えて時間の方も少し拝借して、お話させて頂きます。
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