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「すみません、カードで」
差し出されるタッチ決済用の端末で会計。
レシートを受け取った瑛太は、カップを手に取りながらそれをポケットにねじ込み、さっさと客席へ。
夕方前、この時間ならソファー席に座れる。広々としたレザー素材の席にボフッと腰掛け、小さなテーブルにカップを置く。グレーのカーディガンの裾を払いのけると、ポケットからスマートフォンを取り出した。
ホーム画面には今期アニメ化され、瑛太が主題歌を作曲したゲームのアイコン。
キャラデザとか好きなんだけど、なんかハマれねーんだよな、こういうゲーム……
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なんも買うもん無え。
好きだった機材も物色しなくなって久しい。曲作って提出できれば、もうなんでもいい。SNSはやめた。
瑛太は、明るいブラウンの髪をかき上げながら、吹き抜けの天井を仰いだ。
趣味で作っていたボーカロイドの曲が友人を通して伝わり、作家事務所というのに入って作曲漬けの生活が始まったのは五年前のことだ。
作曲コンペの募集がくる。曲作って提出して食って寝る。連絡は来ない。また作曲コンペの募集がくる。曲作って提出して食って寝る。連絡は来ない。
最初の二年は実質タダ働きで、当時の記憶も曖昧だ。しかし瑛太は、ルーチンに従って生きるのが性格に合っていたようだ。
体は潰れそうだったが地道に作曲を続けた結果、徐々に採用の連絡を貰えるようになり、気付けば口座には生活ができるだけの金が入るようになっていた。
しかし、この在宅作業のサイクルに依存してしまうと、瑛太の性格では人とも会わなくなる。たまにレコーディングスタジオなどで立ち会う仕事はあるが、合理的な性格が災いし何をするにも自宅で済ませてしまう。
結果、外からの刺激がなくなる。なにか動画やゲームなどのコンテンツを漁って消費する。だが、しばらくすると飽きる。
やっかいなことに、これもサイクルになるのだ。コンテンツだけではない。食事、生活用品に衣類、嗜好品の類もネットで済むし、最悪でも家から二、三分歩いて買い物すれば事足りてしまう。ひとりで家にいると、何をやってもこういうサイクルに囚われる。
きっと将来、やべーおっさんなるわ、俺。
いや、もう先のことばかり考えるのはよそう。
先月からは、このカフェで息抜きをするようにしているのだから。
スマートフォンを置き、壁際にあるソファー席から、従業員たちが働くレジカウンター全体を眺める。
……今日も、いる。
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