ウィル
「おやすみ、ウィル」
『……おやすみ、宝』
宝が深い深い眠りについてしまった。その表情は至極穏やかで、僕までつられて笑ってしまう。
『ねぇ、宝』
もう、何も聞こえない弟に向かって話しかける。
本人に届かないなら、約束を破ったことにはならないだろう。
『僕の本当の名前はね、We'll love you forever なんだ。君の、そして僕の両親からのメッセージ』
あなたを……いや、あなた達を永遠に愛しています。
WISHシリーズの試作品。国の監視から逃れた唯一のAIロボット。
このクソみたいな世界から、君を守ることを託された君のお兄ちゃん。
『結局、守り切ることは出来なかったけど……』
僕もそろそろ限界だ。
毒だらけのこの体で、よく頑張った方だろう。
『母さん、父さん、最後の約束は守るからね』
完全に壊れてしまう前に、するべきことが残っている。
目を閉じて、脳内のスイッチを入れる。
キュイーン
ゼン システム ヲ ショキカ シマス
『おやすみなさい』
『どうだ?』
『駄目だな。ただのガラクタになってやがる』
動かなくなった人間とロボットの前に、二人の男が立っていた。
『こいつが邪魔しやがるから、片付けるのに時間がかかっちまったんだ。中身抜いてシステム解析してやろうと思ったのに』
ガンッと、片方の男がロボットを蹴り飛ばした。
『開発者はあの二人だ。自滅までセット済みだろう』
『チッ。で、どうするよ? こいつら離れねぇぞ』
人間の大きな右手を、ロボットの小さな右手がしっかりと握り締めていた。
人間を守るように覆いかぶさっていた体をどかしても、手だけはどうにも離れない。
『めんどくせぇな。手首切っちまうか?』
『駄目だ。まだ人間を故意に傷つけることは出来ない。死体であってもだ』
切断では言い訳が出来ない。冷静な方の男が、血の気の多そうな方をなだめる。
『壊れたロボットが人間を巻き込み落下した。それで良いだろう』
『あー、じゃぁ発見者ってことで救助依頼すりゃ良いか』
『あぁ。どうせデータは無い。我々の手間が省かれたなら好都合だ。』
そういって、男たちはどこかへと消えていった。
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