第13話 今後の関係

「なに? 取り敢えず付き合っておかないと、ラケシスを他の男に取られそうだから。だって!?」

「ちょっ……クレスト!」


 ドノヴァンが、大慌てでクレストさんの口を塞ぐ。けれど当然手遅れ。


 寧ろクレストさんは、わざと大声で言ったのでは?


 なんとなく彼の視線を感じ、私は自分の中の疑問に確信を抱きながら、ドノヴァンへと近付く。


「ドノヴァン……今クレストさんが言ったこと、どういう意味なの?」


 そのままの意味だということは知っている。でも私は、どうせなら私に向かってハッキリ認めてほしいと思った。


 私を他の人に取られそうだから、付き合っておく、ということを。


 答えに窮したように口を何度かパクパクさせ、眉間に皺を寄せたドノヴァンは、クレストさんをギロリと睨んでから、拗ねたように口を開いた。


「ラケシスは……俺のだし」

「え?」

「いや違うな。幼馴染は決して所有物なんかじゃないぞ。それを言うならドノヴァン、お前も彼女の所有物ってことになるが、それで良いのか?」

 

 ドノヴァンの言葉に一瞬気持ちが浮上しかけて、次のクレストさんの言葉によって平静を取り戻す。


 そう言われれば確かに、私はドノヴァンにとって『便利で使い勝手の良い幼馴染』かもしれないけど、私にとってのドノヴァンはそうじゃない。


 言ってみるなら、『好き勝手に私のことを振り回す幼馴染』だ。


 ……あれ? こうして言葉にしてみると最低じゃない?


 でも、私はそんなドノヴァンが好きなのであって……ううん、ドノヴァンが好きだから、そんな仕打ちを受けても気にならなかったのであって?


 辛いことは今までにも沢山あったけれど、ドノヴァンと両想いになれるなら──って夢見て頑張って。頑張って……両想いになったらどうなるの? ドノヴァンは変わってくれるのかしら?


 なんだか気付きたくなかったことに気付いてしまい、顔から血の気が引いていく。


 アリーシャさんとをしていた時のドノヴァンはどうだった? 


 仲良く腕を組んだりはしていたけれど……特段私といる時と然程違いがあるようには見えなかった。


 でもそれは、ドノヴァンの気持ちが彼女になかったからよね? 気持ちがあれば、きっと違う筈よね?


 そう思うのに、どうしても愛情深く優しく接してくれるドノヴァンの姿が想像できない。


 幼い頃は確かに優しかったけれど、今の私は誰かに虐められることもなく、病気で寝込んだりもしないから、特に彼の優しさを感じることもなくなってしまった。


 私はこのままで良いの? ドノヴァンと両想いになったら、本当に幸せになれるの?


 そんな疑問が、突如として胸の内に湧き上がってしまって。


 だけど、私はずっとドノヴァンが好きだったのよ? 彼も私のことを好きだと、漸く言ってくれた。なら、何も迷うことなんてないのでは?


 そう思う気持ちと。


 板挟みになり、頭を抱える。


 思わずその場にしゃがみ込むと、ドノヴァンの声が耳に入った。


「俺がラケシスの所有物だって? 冗談はやめてくれよ。これまで俺はずっと自由で、ラケシスはそんな俺にひたすら尽くしてきてくれたんだ。俺の気持ちがそこになくても、精一杯尽くしてきてくれたんだよ。なのに今後は、そこに俺の気持ちがある。だったらもう、それだけで十分だろう」

「なら聞くが……お前の気持ちがラケシスにあるとして、今までと何か変わるのか?」


 クレストさんの声が、僅かに震えているような気がした。


 まるで、ドノヴァンの言葉にショックを受けているみたいに。


 ドノヴァンが言ったことにショックを受けているのは私。なのに何故、クレストさんが辛そうにしているの?


 胸の前で手を組み、私は祈るようにしてドノヴァンの言葉を待つ。


 私とドノヴァンが両想いになったらどうなるか、それが彼の次の言葉で分かる……!


 高鳴る鼓動を抑えつつ、私はじっとドノヴァンを見つめた。その胸の高鳴りが、期待によるものなのか、不安によるものなのかは、分からなかったけれど。


 彼の言う言葉によって、何かが確実に変わる。そんな予感がして。


 見つめる私の目の前で、ドノヴァンの唇が、ゆっくりと開かれる。


 そうして彼は、短い一言を吐き出した──。





 






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