第6話 トリックによる相乗効果

 今のような、トリックというか、殺人手法と言えばいいのか、

「交換殺人」

 であったり、

「顔のない死体のトリック」

 などというものがあるが、それ以外に、顔のない死体のトリックに、似たところがあると考えられるのが、

「一人二役トリック」

 というものである。

「一見、まったく関係のないトリック」

 と思えるが、

 これは、

「殺された人間を架空の人物で、実際には、まったく上がってきていない人物が犯人だ」

 ということになれば、それは、一人二役のトリックとしても、使えるというものであった。

 ただ、

「顔のない死体のトリック」

 と、

「一人二役のトリック」

 というものは、似ているようで、決定的に違う部分がある。

 というのは、

「顔のない死体のトリック」

 というのは、最初から、

「この事件は、死体損壊トリックだ」

 ということが分かっている点である。

 しかし、これが、

「一人二役のトリック」

 ということになると、

「一人二役のトリックというのは、分かった時点で、その事件は解決するのだ」

 ということで、探偵小説の中でも、

「決して、分かってしまっては困る」

 というものであろう。

 そういう意味では、最初から分かっているという犯罪としては、

「死体損壊トリック」

「アリバイトリック」

 などであろうか、

 あと、トリックが分かってしまうと、その事件が解決されるというのは、

「一人二役トリック」

「交換殺人」

「叙述トリック」

「密室トリックの謎」

 などであろうか?

 密室トリックの場合は、

「これが密室殺人である」

 ということは、最初に分かっていないといけないが、トリックや謎解きによって、トリックの謎が解けてしまうと、

「事件解決に近づく」

 というものだ。

 ただ、密室トリックの場合は、

「密室だからといって、犯人が誰なのあ?」

 ということに影響することはない。

 あくまでも、

「探偵小説も面白味を深める演出」

 ということで、密室トリックを使うことが多い。

 特に、昔から日本家屋は、密室トリックには向かないということであったが、密室の謎というものが、犯罪の動機に繋がってくるなどということは、なかなかないに違いない。

 それだけ、密室トリックというものは、

「派手ではあるが、事件の本質とは関係ないところであったりする」

 ということであろう。

 密室トリックというと、どうしても、

「針と糸などを使った、機械トリック」

 というのが普通だったりする。

 しかし、その場合は、本当に、大きなトリックとしては使えない。

 前述のように、ちょっとしたエッセンスというか、

「ただの演出」

 ということにしかならないかも知れない。

 だから、そのために考えられることとしては、

「トラップのような、一種の読者を騙す」

 というようなやり方を、

「作者が読者に仕掛ける」

 というようなやり方で、それを、

「叙述とリック」

 という。

 まるで手品師のように、

「右手を見るようにまわりに仕掛けると、その間に左手で細工をする」

 というようなやり方である、

 密室の中で犯罪が行われたということであれば、

「最初から、そこに死体があったのかも知れない」

 ということを悟られないようにするのが、

「叙述トリック」

 というもので、それには、

「アリバイトリック」

 と併用する場合もある。

 アリバイトリックの中には、

「Aのアリバイが崩れるということは、Bのアリバイも崩れる」

 ということだというのを聞いたことがあるが、これも、一種の、

「三段論法」

 のようなもので、

「完全犯罪のように見える犯罪も、一つの小さなほころびから、すべてが崩れてしまうということがある」

 それこそ、

「大きな山も、アリの穴から崩れる」

 というような話を聞いたことがある。

 まさにそのことではないだろうか?

 完全犯罪というのは、前述のような、

「交換殺人」

 というのも、完璧にできさえすれば、

「完全犯罪」

 となるのかも知れない。

 もし、完全犯罪を100として考えた時、

「どんどん、削れていって、結局、ほとんど、完全の部分はなくなってしまうのではないだろうか?」

 それも。完全というものが、

「すべてにおいて、重なることなく、平均的に密度を満たしていれば」

 ということである。

 要するに、最後の一つが合わないということは、少なくとも、

「もう一つは絶対に違う」

 ということであり、間違いが最後になって、どんどん小さくなればなるほど、一つが嵌らないというわけではなく、いくつもの間違いが、積み重なって、小さなほころびになっただけである。

 レジの清算をする時、

「もし、違っているのが、1円だったとすれば」

 ということである。

 1円などという商品がないわけなので、どこかの、プラスマイナスが、微妙に絡み合ったのだろう。

 例えば、双六で、ゴールするのに、ぴったりさいころの目が出なければ、ゴールできないという場合、いくら途中まで、ぶっちぎりで来ていても、最後の一振りでうまくいかないと、また戻ることになる、要するに、

「運がいい人が勝つ」

 ということだ。

「そんな双六の目をいかにうまく操ることができるか?」

 つまりは、犯罪も、ある程度運が傾いてこなければ、うまくいくものもいかないということになるのであろう。

 殺害方法にも、いろいろある。

「刺殺」

「毒殺」

「絞殺」

 などがそうである。

 それぞれに、一長一短あるだろう。

 刺殺であれば、

「血が噴き出す可能性があるため、返り血を浴びるという危険性」

 毒殺であれば、

「その毒の出所」

 などが調べられれば、ある程度足が付きやすいということになるだろう。

 絞殺であれば。

「相手が苦しみだして、その苦しみから、締めているこちらの手を必死に引っかいたりして、その証拠が残ってしまう」

 という危険性もあるというものだ。

 あとは、

「駅などで、後ろから突き落とす」

 ということであるが、突き飛ばすというのは、どこでどうやったとしても、目撃者がいないとも限らない。

 いや、今の時代であれば、どこにだって、防犯カメラがついているのだ。

 その防犯カメラでなくとも、今では、車の中のカメラ、いわゆる、

「ドライブレコーダー」

 というものに映っていることだってある。

 これだけ、いろいろあれば、いつどこに証拠として映っているかということなど、当たり前のように考えられることであった。

 そして、その殺人方法によって、トリックや犯罪のやり方が変わってくる」

 いや、

「決まってくる」

 といってもいいだろう。

「そういえば、今回の犯罪は刺殺だったのだろうか?」

 警官は、見つけはしたが、本当の死因まで分かっていなかった。

 びっくりして、署に110番したのだが、鑑識や刑事が来るまで、

「死体を動かしてはいけない」

 というのは当たり前のことで、

「首がない」

 ということに気づいてはいたが、

「どうやって死んだのか?」

 というところまで、気が回らなかった。

「そういえば、そこまで気にならなかったが、あの場で、首を切られたわりには、それほど、血が流れていなかったような気がするな」

 と感じた。

 ということは、

「本当の殺人現場はあそこではないということだろうか?」

 ということは、死体の首と手首を切り取って。それだけをどこかにもっていったというわけではなく、

「どこか他で殺しておいて、手首と首以外の胴体とつながった部分をここまで運んできたということになるのだろうか?」

 ただ、それなら、首や手首から、血が滴っていても、いいはずだ。

 あの道は、車で入ることは不可能なので、血が落ちていないというのもおかしなことである、

「死体をどこかから持ってきた」

 としても、

「ここで、手首と首を切り取った」

 としても、どちらにしても、ハッキリするわけではないが、このことが、事件解決に、何らかの手掛かりがあるような気がするのだった。

 それだけ、密室トリックというものは、

「単独で、トリックとして使うのであれば、それこそ、針と糸を使ったりする、機械トリックでもなければ、なかなか成立しない」

 というものだ。

 しかし、前述の、

「死体損壊トリックであったり、アリバイトリックと併用すると、結構面白い」

 あるいは、

「機械トリックになるが、水圧などを使って、鍵をかけるというトリックに、水を流すことで、実は、血を洗い流して、本当はここが、殺人現場ではないということをごまかすというトリック」

 というものも考えられるというものである。

 つまり、複数のトリックを駆使して、大きなトリックを作るという意味で。

「1+1=3」

 というような公式も、密室トリックには成り立つのではないか?

 ということではないだろうか?

 それを考えると、他のトリックにおいても、もし、併用できるようなものがあるとすれば、

「1+1=3」

 という公式が成り立つということになるであろう。

 警官が、被害者の死体を見つけた時のことであるが、実は、その時、警官の後ろから、誰かがつけてきたということを、警官は気づいていなかった。

 毎日のパトロールをしていることで、どこか、マンネリ化してしまっていたのか、ほとんど、ルーティンになってしまうと、得てして、気づかないものであろう。

 いくら、

「いたるところに、カメラが設置されている」

 といっても、こんな場所に、設置されているということはないだろうし、やはり、この事件の一つの焦点としては、

「殺害現場がどこなのか?」

 ということであった。

 それは、

「この事件が、最初から計画されたものだったのか?」

 それとも、

「何かの原因で、突発的に起こったことなのか?」

 ということによっても、変わってくる。

 突発的に起こったことであれば、何かのトリックを考えて、その通りにしていたということではないだろうからである。

 逆に、計画性のある事件であれば、そもそも、あそこに死体を放置したということは、何か目的があってのことであろう。

「死体が発見されないと困る」

 ということなのだろうか?

 だったら、首を切り取ったりなどという、わざわざおかしなことをする必要もないだろう。

 それこそ、

「首を切り取ったことで、ここが殺人現場ではない」

 ということをわざわざ知らせたのだろうか?

 もし、そうであれば、

「逆に、ここが殺人現場ではないか?」

 ということも考えられるといえるのではないだろうか?

 そんなことを考えていると、

「殺人現場というものの確定が一つの事件解決への道しるべではないだろうか?」

 といえる。

 そこには、もう一つ何かが隠されているとすれば、

「死亡推定時刻をごまかす」

 という何かのトリックが隠されているのではないだろうか?

 ただ。その場合は、密室トリックとの組み合わせが考えられるのだが、今回は、そういうことではない。

 何をどう考えればいいのだろうか?

 そして、もう一つ。考えられることとしては、

「首なし死体」

 にしたということで、

「被害者が誰か分からない」

 ということで、警察は、身元の確定を最優先とするに違いない。

 それは当たり前のことで、

「通常の事件というと、顔があるわけである。しかし、この事件というと、顔がまるでない。それは、この人物が、どういう人間で、なぜ殺されなければいけなかったのか? ということがまったく分からない」

 ということになるのだ。

 これがもし、

「動機のない犯罪」

 であったとしても、

「偶発的に起こった事件」

 であったとしても、この男の、

「顔」

 というものが分かっていれば、

「この男なら、他人とトラブルを起こすのも、普通にある」

 などということで、

「実際に、殺害されても、無理もない」

 ということで、結局、

「行きずりの可能性もある」

 ということになり、

「通り魔の可能性だってある」

 と考えると、その通り魔は、首を隠すことで、

「通り魔とは思わせたくない」

 ということだけを考えたのかも知れないともいえるだろう。

 だが、他の考え方もないわけではない。

 というのは、

 この殺人において、顔がないということは、警察は血眼になって、被害者を特定しようと奔走するだろう。

 その中の一つとして、一番に考えられるのは、

「捜索願」

 というものの中から、探そうというのは、一番考えられることである。

 今回の被害者は、いろいろ当たっては見るが、少なくとも、近くの署には出ていないようであった、

 そもそも、捜索願などというのは、警察は、受理したとしても、本当に捜索することはないだろう、

 いわゆる、

「犯罪性のあるもの」

 だけが捜査される。

 何といっても、

「ただの家出の可能性だってあるわけで、実際には、そういう場合が多かったりする」

 ということになり、ほとんど、毎日のように、数件の捜索願が出されても、ほとんど捜査はされないだろう、

 しかし、逆に今回のように、

「殺人事件が起こったが、身元が分からない」

 ということで、

「逆に殺人事件の方から、捜索願をほじくり返す」

 ということも、普通にありなのである。

 それを考えると、

「警察を、手玉に取っているとも言え、犯人がこのことを分かっているかどうか分からないが、一種の警察に対しての挑戦だ」

 ともいえるのではないだろうか?

 だが、これも、別の考え方が許されるのであれば、

「警察を使って、誰かを探させるために、わざわざ、首を切り取ったのではないか?」

 ということも考えられるというものだ。

 これは、

「いくら何でも発想が奇抜すぎる」

 といえるのだが、

「元々の犯罪とリックというものが、いろいろなパターンで重なることで、相乗効果を引き起こしているとするならば、ここでも、「1+1=3」という公式が成り立つのではないだろうか?」

 と考えられるのだ。


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