輝いて、砕け散る
学校から帰ろうとしたら、雨が降ってたんだ。傘を開いたとたんに、横からあいつに傘を取られたんだ。
「かしなさいよっ。うるさいわね! ジュンと帰ればいいでしょ。そうじ当番で、まだ教室にいるわよ。このことを先生とか親に言いつけたら、ただじゃおかないからね」
小学一年生の弟の手から傘をもぎ取っていったんだ。ひどい姉だよなぁ。
僕は半ベソで、二年生のジュンちゃんの教室まで行ったよ。子供用の傘って小さいだろ。ジュンちゃんは僕を傘に入れるために、自分は傘からはみ出してびしょ濡れになったんだ。
僕が一年生の時、ジュンちゃんとあいつは二年生だったよ。うん。なぜって?
僕とジュンちゃんは双子だけど、日をまたいで生まれてしまった。ジュンちゃんは四月一日の早生まれ。僕は四月二日の遅生まれ。僕たちは双子なのに、学年が一つ違うんだ。
子供時代の一年の差は大きい。それなのにジュンちゃんは、一歳年上のあいつと同じ学年に入れられて、同じ箱の中に並べられて比べられたんだ。できる姉と、できない妹。似てない双子の姉妹だと勘違いされることも多かった。
「私のモットーは、ひっそり、目立たず、とけ込む。だよ」
ジュンちゃんはそう言って笑うけど、僕は笑えない。教室の隅っこで、気配を消して、物静かに大人しく、ひっそり目立たぬように周りに溶け込む。それは、ジュンちゃんが学校で、あいつにイジメられないための処世術だったから。ジュンちゃんは本ばっかり読んで、友達も少なかった。
僕の学生時代は
僕にとって学校は楽しいところだった。いつも友達に囲まれていたし、先生にも好かれていた。勉強もスポーツもできたからね。小学生から大学までずっと、王子と呼ばれていた。
ぶっちゃけモテたよ。バレンタインは山ほどチョコをもらったし、高校大学ではお弁当をもらったりもしたよ。大学の時は一人暮らしだったけど、何かと世話を焼いてくれる友達とかまわりにたくさんいて、不自由しなかった。
僕から告白したことはないんだ。いつも向こうから告白してきて、付き合って、いつも向こうから別れを告げられ去っていく。それが僕の恋愛だった。
ジュンちゃんは、あまり勉強をしなかった。
うちの両親は、本人たちは否定してるけど、学歴主義だと思う。あいつも僕も勉強ができたから、ジュンちゃんの成績が目立っちゃって。親がジュンちゃんにやる気を出させようとして言ったんだ。
「勉強を頑張って、留学を目指してみたらどうだ? 海外の大学なんていいんじゃないか?」
そしたら成績が、ビュンッと上がった。ジュンちゃんは本気で海外を目指したんだ。
高三の夏、両親は言った。
「日本の大学に行きなさい」
親は、海外留学させる気なんて毛頭なかったんだ。
ジュンちゃんは、静かにキレた。
「大学には行かない。高校を卒業して就職して家を出る」
びっくりしたよ。
大騒ぎになった。親も僕も担任も、あいつでさえも口々に止めた。猛反対したんだ。
「早まるな! 冷静になれ! 考え直せ! 大学に進学して一人暮らしをすればいいだろ。海外に行きたければ旅行で行け。日本の大学に行っても、短期留学はできるんだ。就職は大学を卒業してからにしろ! その方が断然有利だ。企業ウケもいい。給料も高卒よりいいし昇進も早い」
「海外へは自力で行く。もう親の言う事は信じない」
親がブチ切れた。
「だったら出ていけ!」
ジュンちゃんは、ニッコリ笑って出て行ったよ。
「すぐに
親もあいつもそう言った。僕も内心ではそれを期待していた。就職して仕事で海外に行ったジュンちゃんを、家族の誰一人として応援しなかったんだ。ひどい家族だよ。
中でも最低なのが僕だ。ジュンちゃんは自力で夢を叶えたのに、僕はジュンちゃんが遠くに行ってしまうのが嫌で、反対したんだ。ガキだよ。
「ジュンちゃん、帰ってきてよ。親だって本気で、出てけって言ったわけじゃないんだからさ」
ジュンちゃんはスマホの向こうで首を振った。
「もう親と一緒に暮らしたくない。親の望む娘を演じるのはしんどいし、
ジュンちゃんはあれから一度も実家に帰ってない。連絡もとってない。僕以外とは音信不通になった。
僕は家から離れた大学を選び、親元を離れた。
真弓さんとの出会いはバイトだったよ。カフェに客できていた真由美さんに、逆ナンされたんだ。
「結婚を前提に、付き合って下さい」
僕の顔がドストライクたったらしい。
大学の四年間も楽しかった。就活もうまくいった。僕の人生は順風満帆だった。自信満々で入社したよ。すぐにトップセールスになる予感がしてたんだ。未来予想図と現実はイコールで結ばれなかった。僕は見事に予想をはずした。ちょっと信じられなかったよ。なかなか受け入れられなかった。
この僕が、会社では全く評価されないどころか、自分でもびっくりするぐらい何もできなかった。学生時代は黄色い歓声を
初めは新人として優しく教えられ、次にやんわりと注意され、次第に教育係の先輩の顔が引きつり、口調がきつくなっていった。周りの人にもガンガン注意されるようになり、よってたかって説教された。
「ここは学校じゃなくてさ、会社なんだけどさぁ。そこんとこをわかってくれないとさぁ。いいかげん、学生気分を卒業して社会人の自覚をもってくれないとさぁ。困るんだよなぁ」
「学生のノリで話すのヤメろ。ヘラヘラするな。スマホいじるな」
「仕事なめてる? 敬語って知ってる? 話し聞いてる? ちゃんとメモる。これはメモじゃないから。受話器を取った事ない? キーボードに触った事ない? 電卓ってわかる?」
「ここに社判を、社判がわからんと。これだ。そしてここに社印、それじゃなくてこっちの印な。覚えろ。あと、印紙には必ず割印を……割印の前に印紙を知らんと。領収書どころか請求書も見たことないと。見積もりも契約書も知らないし聞いたこともないと。はぁ~」
「少しは自分の頭で考えろ。何でもかんでも聞いてくるな」
「やる前に聞けと言ったよな。勝手に自分で判断するな。どうせ間違ってるんだから。よけいな仕事を増やしてくれるな」
「ホウ、レン、ソウ。ちゃんとやれ」
僕の自信がどんどん
「何をどうすればいいのか、全くわからないよ」
ジュンちゃんに
「言われた通りにやってるのに。マニュアル通りにやっても怒られたんだよ。ひどくない? しかも、人によって言う事か違うんだ。おかしいよ……」
スマホの向こうでジュンちゃんは、僕のグチグチにウンウンと耳を
「……ジュンちゃんは会社に入った時、大変じゃなかった?」
「うーん、そだねぇ。会社のルールや仕事の決まり事を覚えるのが大変だったかな。うん。私はできない事や言われる事には慣れてたから。もともとコミュ障だしね。うまくいかなくても当たり前という前提で入ったから」
「僕が今ぶつかっている問題は、コミュ力なの?」
「うーん。と言うか、人間関係なのかなって気がするけど」
今までずっと、自分のコミュ力はかなり高いと思っていた。人間関係もすぐ
「目の保養にはなるけど、ミスばかりで使えない新人」
僕は会社で女性からそう言われている。
「ちょっと背が高くて顔がいいからって、調子に乗ってる新人」
僕は会社で男性からそう言われている。
社会人として、僕はコミュ力が低いのだろうか? この疑問は、かなりショックだった。
三歳年上の真弓さんに聞いてみた。会社の愚痴がてら、アドバイスを欲しいなと思って。
真弓さんはスマホをいじりながら言った。
「新人なんて、みんなそんな扱いよ。気にすることないわ」
「でも……」
僕の話は真弓さんの耳を素通りして行った。
僕の現状よりも、芸能人ニュースの方が真弓さんの興味を引きつける。僕は興味の対象外というこの現実。できるなら、輝いていた学生時代に戻りたい。誰か時を戻してくれないかなぁ、なんてむなしい。僕の輝きカムバック!
真弓さんの頭の中は、将来の夢で満杯だ。
「結婚して子供は三人以上ほしいわ」
その未来予想図の中で、僕はどうなっているんだろう? ノリノリで結婚情報を
その当時の僕は、真弓さんのマンションで同棲していた。
そのまま結婚するつもりだったから、アパートの部屋は不要だった。さっさと解約するべきだと思いながらも、だらだらと無駄な家賃を払い続けていた。逃げ込む場所を残しておきたかったのかもしれない。
僕は時々、真弓さんの広いマンションが息苦しくなって、狭いアパートの部屋でひとり息つぎをした。
だからジュンちゃんが仕事で日本に戻ってきた時、その部屋に住んでもらうことにしたんだ。僕は前のめりでジュンちゃんに言ったよ。ちょっと強引だったかも。
「新しい部屋を探すのも面倒でしょ。ここならジュンちゃんの職場にも通いやすいし、コンビニもスーパーも駅にも歩いて行ける。僕の同居人として、ここに住んでよ。二人なら家賃も半分になる。僕は真弓さんのマンションにいて、ほとんど帰ってこないから、好きに使っていいから。模様替えも好きにしていいからね」
「……うん。じゃあ、そうさせてもらうね。家賃とか水道光熱費は? ……口座引落なんだ。じゃあ、毎月ユウちゃんの口座に全額振込むね。折半はしない」
ジュンちゃんは部屋の一角に布団を敷いて、小さなスペースで暮らした。びっくりするほど物か少なかった。部屋の模様替えもしなかった。いつでも出て行けるようになのか、お金があまりないのかな? と思ってた。でも今思うと、僕がいつでも帰ってこれるように、そのままの状態にしていたんだろうな。
マンションは真弓さんが払っていたから、僕は家賃や水道光熱費の出費がなくなった。食費もほとんどかからなかったよ。外食も出前も真弓さん持ちだったし、ジュンちゃんは食材を買って作ってくれたからね。
こう話してると、ヒモみたいだね。でも、この頃はまだ会社員だったから、収入はあったんだ。自分のお金を使わないのはヒモなのかな? 給料はほとんど使わなかった。物欲もわかなかったし、何かを買う体力も気力もなかった。
残高? 見てないからわからない。お金を貯めようとしていたわけではないんだ。変な話かもしれないけど、僕はだんだん生活しているという感覚がなくなってきて、生活費もお金も頭の中から消えていったんだ。
もちろん、はじめの頃は給料が仕事のモチベーションになってたよ。お金のために、怒られてもつらくても耐えていた。我慢して毎日会社に行けば給料が振り込まれるんだからね。
でも、そのうち習慣になった。毎日学校に行くのが当たり前だったように、会社に行くのが当たり前の行動になった。行きたい行きたくないに関係なく、そんなことを考えることも疑問に思うこともなく、行くのが当然、行かなくてはならない。いつのまにかそう意識と体に刷り込んでいた。
ジュンちゃんが、僕のアパートに住むようになってから、僕は毎日のように仕事帰りにアパートによった。ジュンちゃんに会社の愚痴を話してから、真弓さんのマンションに帰るようになったんだ。ジュンちゃんは僕の話を聞いてくれたよ。聞き役に徹してくれたんだ。ジュンちゃんだって仕事で疲れていただろうし、話したかったかもしれないのにね。僕の頭の中は、自分の事で満杯だったんだ。
「私、妊活します。だから一緒に病院に行きましょう」
ある朝、真弓さんがそう言った。
「え? まだ結婚してないのに? デキ婚したいの? 病院って、どこか悪いの?」
「違う違う、そうじゃないわ。二人でブライダルチェックするのよ。私は今すぐにでも子供がほしいから、できちゃった婚でも全然かまわないわよ」
そう言って笑う真弓さんの目がマジだった。
僕は結婚を先にしたいし、子供はどっちでもよかった。さらに言うと、夫になる自分も父親になる自分も、全然想像てきなかった。
「そのブライダルチェックって、何するの?」
「受ければわかるわ。さっ、行きましょう」
僕は産婦人科に連れていかれた。
結果、僕が不妊だった。
僕は「そうなんだ」としか思わなかったけど、真弓さんは椅子から転げ落ちるほどのショックを受けていた。反応の薄い僕を「信じられない」って顔で見てたよ。
「子供が欲しいから、雄一君とは結婚できないわ。別れてほしい」
そう言われてサヨナラしたよ。真弓さんは僕自身じゃなくて、僕みたいな顔をした子供が、僕の遺伝子が欲しかったんだろうね。
僕は真弓さんのマンションを出て、ジュンちゃんのいるアパートへ戻った。ジュンちゃんは、何も聞かず何も言わずに入れてくれた。
真弓さんとの生活は終わったけど、会社員生活は続いていた。
仕事はますますできなくなっていった。毎日毎日怒られて怒られて怒られて、ビクビクして
電話は先方に怒鳴られ舌打ちされ、ガチャン! と切られ、クレームを受け、謝ったのになぜか激怒され……。怖くて受話器に触れなくなった。
そのうちスマホも怖くなった。ラインは恐怖だった。文字にもスタンプにも、僕への怒りと非難があふれていたから。既読スルーして未読スルーして電話スルーして、会社で対面説教された。小会議室で一対一や少人数で説教されたこともあるし、事務所で公開説教されたこともある。
営業も、先輩や上司に連れて行かれたけど、嫌な顔しかされなかった。僕はいないものとして扱われ、相手は先輩や上司しか見なかった。
「さっきのあれは、先方に対して失礼だよ。営業の仕事は……」
説法のようなありがたい退屈な説教を聞いてるうちに、だんだんと意識が遠のいて……。
バンッ! 先輩が机を叩いた。
「居眠りするな!」
僕は、ビョッ! っと飛び上がって言い訳した。
「ち、違います! ありがたい話にキンチョーしてボーッとしてただけです!」
先輩のこめかみに青筋が浮かんだ……。
後日、「あの温厚な人を激怒させた新人」として、僕は社内で噂になった。
僕はだんだんと、自分が何をやって何を怒られているのか、何だか何にもわからなくなっていった。感情もマヒしていった。ブライドも自信も砕け散った。
毎日ただ会社に行って怒られて帰ってくる。そのまま床に転がっていると、ジュンちゃんが仕事から帰ってくる。玄関にぼんやりと座っていて、帰ってきたジュンちゃんを飛び上がるほど驚かせてしまったこともあったな。
「ユウちゃん、危ないから電気つけてほしい。帰ってきたら、電気のスイッチを押してくれるとうれしい」
それからは、ジュンちゃんのために電気をつけるようにした。
「ただいまー。ユウちゃん。スーツ脱いで着替えたら? 今ごはん作るから。先に風呂入っとく?」
僕はジュンちゃんに言われるままに、着替えて風呂に入ってご飯を食べてベッドに入った。朝はジュンちゃんに起こされてご飯を食べて会社に行く。昼はジュンちゃんの作ってくれたおにぎりを、お茶で流し込んだよ。食欲はなかったけど、ジュンちゃんの作った物だけは食べた。休日は一日中寝てた。
それでも僕の中に「会社を辞める」「転職する」という選択肢は浮かばなかったんだ。はじめの頃はあったのに、いつの間にか消えていた。
「ユウちゃん。会社、辞めよう」
ジュンちゃんに言われた時は、びっくりしてキョトンとした。
「え……? でも、まだ入社して一年しかたってないんだよ。僕は大丈夫だよ。毎日会社に行ってる。遅刻もしたことない。休んだこともないんだよ。会社にも慣れてきた」
「これ以上慣れたら、動けなくなると思う。ユウちゃん。これ以上は頑張らないで。私がどうしてもって言ったから、ユウちゃんは会社を辞めることにしたの。とりあえず、これ書いてみよう」
ジュンちゃんは「退職願」と「退職届」の用紙をテーブルの上に広げ、僕の前にペンを置いた。
「これ、書くの?」
「うん。どっちを出すのかわからないから、両方書いておこう」
ジュンちゃんが「辞めて」と言うなんて、よっぽどヤバイのかな? でも何がヤバイのかわからない。けどジュンちゃんが言うなら書いてみよう。書いておこう。
僕は見本を見ながら書いた。そのとおりに〇〇〇年と書いてしまって、新しく書き直し、さらに誤字脱字して書き直し、また間違って書き直し……手が震えた。でもジュンちゃんは、僕が何回ミスっても書き直しても、全く気にしなかった。
「よくあることじゃん。私もよくやる。こんなの普通じゃない?」
「えっ、そなの?」
「うん、そだよ」
ふっ、と落ち着いた。手の震えも止まり、紙の上をペンが歩き出す。
何枚も書いているうちに「辞めよう」と思った。僕の中に「退職」がストンと落ちておさまった。
「うん。いいね。じゃあ明日、会社に行ったら朝一で、上司に出してみようか」
僕は、その通りにした。そして、それ以上のことをした。冷静に、思いついたままに、即実行した。ちょっとおかしくなっていた、と今では思う。たぶん、ちょっとパニクっていた。
翌朝、出社してきた上司に突進して「退職願」と「退職届」を押し付けた。
「僕、会社辞めます」
口を「あ?」の形に開いたまま固まる上司をそのままにして、僕は先輩方にも「退職願」と「退職届」を配り、枚数が足りなくなったのでコピーして、人事部にも行って配った。
「クレイジーな新人が現れて、人事に退職願と退職届を配って去っていった」
そんなニューズか社内を駆け巡った。
「こんなクレイジーな人には、今すぐ是非とも辞めてほしい!」
そう思ったんだろうね。僕の退職はすんなりと受理されて、僕はすぐに有給消化に入り、そのまま退職した。
体がふらふらしたよ。
ベッドから起き上がるのがしんどくて、一日中寝て過ごした。何日何日も寝て過ごしているうちに……、少しずつ、会社を辞めた実感がわいてきた。
そして、ようやく自分がへとへとに疲れ切っていたことに気がついたんだ。
そこから、少し起きてテレビをみるようになり、一日中ぼーっとテレビをみて過ごすようになり、コンビニに行くようになり、ジュンちゃんと一緒にスーパーに買い物に行くようになった。
退職した時は、会社から上司や先輩から電話やラインがきたら……と思うと怖くて、しばらくスマホの電源を切っていた。それでも何か退職書類の事とかで電話があって、つながらなくて親に連絡がいったらヤバイと思って、戦々恐々しながら電源を入れた。……電話は鳴らず、ラインもなく、スマホは静かに休んでいた。それでようやく少し安心した。ラインはジュンちゃんだけ残して切った。
そうやって僕は少しずつ回復していったんだ。
母親から法事のメールがきた時、迷ったけど、リハビリだと思って行ってみることにした。社会復帰の第一歩になるかもって思ったんだよね。親に会うのは気が進まなかったけど、あいつは来ないし、ジュンちゃんがいるから大丈夫。何かあっても、なんとかなるだろうって思ってた。会社を辞めた事と真弓さんと別れた事と僕の不妊の事がバレたけどね。何とかなった。
でもまさか、帰り道に神社で……。
僕がジュンちゃんの手をつかんで離さなかったから、ジュンちゃんまでこの異世界に来ちゃったんだ。僕がジュンちゃんを巻き込んだんだ。それなのに……。
「……自分の事じゃなくて、僕の幸せを願うなんてね。自分で紐を引きちぎるなんて、ジュンちゃんらしいよ」
僕の喉から
雨は止まない。前を歩くツカの尻尾が悲しげにたれている。僕はカズに手を引かれ、しとしと降る雨の中を暗くなるまで歩き続けた。
その夜、僕はカズに抱かれ泣きながら眠った……。
ツカの遠吠えが聞こえた。
ツカが言葉にならない鳴き声で、ジュンちゃんを呼んでいる。張り裂けそうな胸から息を振り
その声を聞いて、僕はまた泣いた。
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