つがいを選べ!
「……朝ご飯を食べそこねちゃったね。歩きながら食べれそうなものを探そうか」
「うん。神の木はあっちなの」
ジュンちゃんは元気に歩き出した。夜の間に雨が降ったらしく、草の上に落ちたしずくがキラキラと朝の光をあびている。しっとりとした雨上がりの朝は気持ちが良かった。
僕たちが登山遠足の思い出を話しながら歩いていると、横道から馬が出てきた。
「えっ⁉ 何?」
馬の背にまたがった男が、僕の全身に目を走らせたと思った時には、僕は男にかかえ上げられて、走る馬の背に乗せられていた。
「な、何なんだ? 何するんだよ⁉ あんた誰?」
「俺は
カウボーイみたいな恰好の馬場が白い歯を見せて笑う。ナルシストかよ! ぞわっとした。気色悪くて毛が逆立つ。僕がたとえ女でも、この男は選ばない。引くわ。顔が引きつるわ。馬に乗って女をさらう。これは求婚じゃなくて
僕のスカートの
「うわっ痛……」
「ユウちゃんを、はなせ!」
「危ねっ⁉ 何だこのガキ? 邪魔だっ!」
馬場はジュンちゃんの足をつかむと、
「ジュンちゃん!」
ジュンちゃんの小さな体が後ろへ飛んでいき、あっと言う間に見えなくなった。
「何をするんだ⁉ 馬をとめろ! 引き返してジュンちゃんの所へ戻れ!」
「るっせーな。静かにしろ! 落馬して死にてーのか? じっとしてろ!」
カウボーイ馬場は、
僕は馬場を押しのけ、馬の背からすべりおりると同時に
「待て、姫!」
追いかけてきた馬場に、僕は蹴りをお見舞いした。
「ぐはっ!」
馬場が地面に沈む。背中の軽くなった馬が、はずむような足取りで走り去るのが見えた。
僕は今来た道を駆け戻る。ジュンちゃんが落ちた場所は、どのくらい前だろう? たしか直線一本道だったはず。ずっと同じような景色だった。
ドン! 背後から馬場のタックルを受けて、僕は地面に転がった。そのまま仰向けに地面に押さえこまれた。馬場が上からがっちりと僕の両手を押さえつけている。ゲヘへと笑う馬場の首で、赤い玉が揺れていた。
「離せ。ジュンちゃんに何かあったら、おまえを殺す」
「
「ふざけるな! 僕は」
「おい! 何やってるんだ⁉」
声がして、馬場の肩を誰かがつかんだ。馬場が後ろを振り返る。僕はその一瞬の
「……消えた? ……どうなってんだ?」
男が
「……大丈夫ですか? ケガはないですか?」
男はしゃがんで、心配そうに声をかけてきた。少し距離を取っているのは、男に襲われかけた僕を怖がらせないように、という気づかいらしい。危険な男ではなさそうで、少し安心した。
手の中に、砕けた玉の感触が残っている。僕は震える手を、もう片方の手で押さえた。馬場は……。僕がこの手で馬場を消した。
「俺は
僕は立ち上がった。田辺も立ち上がる。イケメンでイケボの田辺は、僕より背が高かった。
「僕は中田雄一。二十四歳。田辺さん、おかげで助かりました。ありがとうございます。じゃあ、これで。急いでいるので失礼します」
「え? 男?」
目を丸くする田辺。いい奴そうだけど、ハンターとは関わりたくない。
僕は
田辺が追いついてきて、僕の横に並んで走る。
「田辺さん、ついてこないで下さい」
「カズでいいよ。同い年なんだから、ため口でな。そんな泣きそうな顔して、ついてくるなと言われても、気になるだろ。旅は道連れ世は情けと言うしな。ここはどこで、さっきの男がどうなって、今どこに向かっているのか、嫌でなければ教えてほしい」
僕はカズを振り切れず、無視できず、やむなく今までの
「ジューンちゃーん!」
けれどジュンちゃんは見つからなかった……。ジュンちゃんが消えていたらどうしよう。
日が暮れて、僕とカズは狛兎を見つけた。けれど、結界の中にも木の
「離せよ! ジュンちゃんを探しに行くんだ!」
「落ち着け! ユウ、外は真っ暗だ。
「でも、でもジュンちゃんは、走ってる馬の上から落とされたんだぞ。ケガして動けないかもしれないじゃないか」
「逆に、ケガしてなくて、ユウを探して動き回ってる可能性もあるだろ。お互い動き回ってすれ違って会えない、なんてよくあることだろ」
「気休めを言うな!」
僕はカズの胸ぐらをつかんだ。
「ジュンちゃんは、五歳なんだ。体か小さいんだ。落馬して朝から飲まず食わずで、そんなんで、歩き回る体力があるかよ? 子供なんだぞ。僕の姉なんだ。ジュンちゃんは僕を助けようとして……。ジュンちゃん……」
カズに抱きよせられ、僕はカズの肩に顔をうずめた。カズのたくましい体によりかかると、少し安心した。カズの大きな手が、なだめるように僕の背中をさする……。
カズの言うとおりだ。暗がりの中でやみくもに探し回るよりも、今夜一晩休んで朝になってから探す方がいい。ジュンちゃんは無事だ。そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。……カズに背中をさすられてるうちに、体が熱くなってきた。なんだか変な気分になってきた……。
「カズ、もう大丈夫だから。ありがとう。少し休む」
顔を上げたら、カズと目が合った。時が止まった気がした。
カズの顔が近づいてきて、息が触れ、唇が重なった。思考が停止したまま、僕たちは舌をからめ夢中でキスをした。唾液が糸を引く。僕たちはベッドに倒れ込み、からみあい、熱を放った……。
「ん……」
僕は目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。
洞窟の天井にランプの光がゆらめいている。
「起きたか?」
低く色っぽい声が耳をくすぐり、カズの手が僕の髪をかき上げる。それだけで体の芯が熱くなる。
「ユウ、こっち見ろよ」
「やだ。今カズの顔を見たら、キスしたくなっちゃうだろ」
カズの低い笑い声がうなじをくすぐる。
「ユウちゃーん!」
僕はガバッと体を起こした。
「ジュンちゃん⁉ カズ、今の聞こえた? ジュンちゃんだ。ジュンちゃん! ジューンちゃーん!」
僕は掛布団をはねのけて、ベッドから転がりおりた。そこへジュンちゃんが転がるように駆け込んできた。
「ユウちゃん!」
「ジュンちゃん!」
ジュンちゃんが僕の腕の中へ飛び込んできた。よかった。無事だったんだ。僕はジュンちゃんの小さな体を抱きしめた。消えてなかった。心の底から
カズがジュンちゃんに、自己紹介と今までの経緯を話している。ジュンちゃんも自己紹介をした。
「なかたじゅん、です。ユウちゃんの、ふたごのおねえちゃんなの。みためは五さい。なかみは二十四さいのジュンちゃんです。カズ、ユウちゃんをたすけてくれて、ありがとう!」
子供の舌足らずな話し方がかわいい。
「どういたしまして。ジュンちゃんは」
「ジュンでいいよ」
「ジュンは、馬から落ちてから、どうしたの? その後ろの犬は?」
犬? 僕はハッと顔を上げた。ジュンちゃんの後ろに大きな黒い犬がいた。僕はサッとジュンちゃんを背中に隠した。
三角の立ち耳。尻尾は背中に前のめりに倒れているけど、くるんと丸まってはいなかった。犬には詳しくないけれど、たぶん日本犬。その引きしまった筋肉質な体と雰囲気からすると、猟犬かもしれない。首輪は……犬の首には緑色の玉が光っていた。……こいつが、僕のつがい候補の犬かよ。ないな。僕は一瞬で却下した。
犬は、やれやれと言わんばかりにため息をついた。
「あんたがその子の弟じゃなきゃ、五歳の女の子に裸で抱きつく変態だと思うところだぜ」
「犬もしゃべるのか⁉ おまえも、私は神だとか言うのか? そのうち、チェシャ猫とか出てくるんじゃないだろうな……」
僕は思わず辺りを見回した。ランプの灯りがチラチラ踊る洞窟の部屋は、幻想を抱かせるには十分だ。
「知らねーよ。ここは不思議の国なのか? オレの説明をきく前に、まずは服を着たらどうだ?」
犬がジト目で僕を見る。
「……あっ」
僕は裸だった……。カズは、と見ると、ちゃんと着ていた。いつの間に? シャツのボタンはとめてないけど……。はだけたシャツからのぞく胸板や腹筋が、めちゃくちゃ色っぽい……って、僕は何をのぼせているんだ⁉ 服着なきゃ!
「ジュンちゃん、ちょっと待っててね。カズ、ジュンちゃんを頼む」
「いいよ。ジュン、おいで」
ジュンちゃんを抱っこするカズから視線をはがし、服を……、フリフリワンピースを手に取った。……これはどうやって着るんだ? 上からかぶるのか? 下からはくのか? この紐みたいなリボンは、どうすればいいんだ? そもそも
僕は途方に暮れて、ジュンちゃんに助けを求めた。ジュンちゃんに教えてもらい、手伝ってもらって服を着る。リボンもジュンちゃんが
「なんでわざわざそんなフリフリを着るんだ?」
犬が僕の恰好を見てドン引きしている。
「女装が好きなのか? それとも何かのコスプレか?」
「違う! 好きじゃない! これしか着る服がないんだよ! 犬、お前は何でジュンちゃんと一緒にいるんだよ?」
ジュンちゃんは犬の首に抱きついて、なでなでした。犬は大喜びでブンブン尻尾を振り回している。……こいつ、オスだな。
「ウマからおちたジュンちゃんを、キャッチしてくれたんだよ」
犬がジュンちゃんの顔をベロベロなめた。
「うわっ。ばっちい。なめんなよ、犬」
僕はジュンちゃんを抱き上げてカズに渡すと、犬をにらみつけた。
「ジュンちゃんを助けてくれた事には礼を言う。けど、ジュンちゃんをなめるな。汚いだろ」
「なんだと。オレの唾液は、消毒液なみの殺菌力があるんだよ。水よりきれいな唾だ」
「嘘つけ! お前は誰だよ?」
「オレは
「二十四⁉ 五歳のジュンちゃんをベロベロ舐め回しやがって、ロリコンかよ!」
「そんなわけあるかぁ! てめーこそ、シスコンだろ!」
「はぁ⁉」
犬が僕に顔を近づけ、声をひそめ
「ここに来た時、洞窟の中から変な声が聞こえてきたから、入れなかったんだよ。しかたなく、五歳児を外で寝かせたんだ。声が止むのを待って、ジュンを起こしたんだよ」
「そ、それは……」
ぐうの
「おーい。そこの二人。先に食べてるぞ。早くしないと、なくなるぞ。全部食っちまうぞー」
カズの声に振り向くと、テーブルの上においしそうな料理が並んでいた。犬が鼻をクンクンさせて、目を輝かせた。何はともあれ腹ごしらえだ。
空腹の僕たちは、いそいそと席に着くと「いただきます」をして黙々と食事を平らげた。
「ごちそうさまでした」
食べながら寝てしまったジュンちゃんをベッドに寝かせると、僕たちは情報交換をした。
「オレは、部屋でゲームをしてたんだ。そしたら急に揺れて、地震だと思ったら真っ暗になって、停電かと思ったら明るくなって、犬の姿で森の中にいたんだ。訳が分かんねーよ。どこだよ、ここ」
黒い犬が天を仰ぐ。
「馬と人の声がしたと思ったら、子供が飛んできたんだ。マジか⁉ と思ったよ。ケガがなくて良かったよ。司だから、ツカちゃんだね! って首に抱きつかれたよ。かわいい子だな」
ツカがベッドで眠るジュンちゃんを見て、目を細めた。こいつ……。
「やいっ、ロリコンのツカ。おまえにジュンちゃんはやらないからな」
「あのなぁ、シスコンのユウ。オレは、おまえやカズみたいに年中発情期じゃねーんだよ。ロリコンじゃねーし」
「なんだと?」
「やんのか?」
にらみあう僕と犬の間に、カズが割って入った。
「やめろって、二人とも。それで? ツカ、続きがあるんだろう?」
「ん、あぁ。オレとジュンの前に白兎が出てきてさ。そいつ、ジュンになでられて、でろ~んと寝そべって、ありゃあオスだな。そいつが、私は神だ、とか言うんだぜ。男しか呼んでないのに、なぜかジュンが来ちゃって、なぜかオレは犬の姿になってしまった、だとよ。なぜか、で済ませんなよ! 俺が怒ったら、兎は何て答えたと思う? 神にもできない事や手違いはある。予想外は世の常だ。だとさ。ふざけんなよ! ジュンが止めなきゃ食ってたぜ。あの野郎、白い風のように逃げてった」
ツカが喉の奥でグルルと唸った。ちょっと怖い。
もう少しで、神が犬に食われるところだったのか? 逃げるなよ。しょぼい神だな。そんなんで、この世界は大丈夫なのかよ?
「で、ユウはカズをつがいに選んだんだろ? ……二人して赤くなって見つめ合うなよ。まったく。また始める気か? オレはジュンを連れて外に出た方がいいのか?」
「ここにいろ。出なくていい。しないから」
「そうだよ。僕たちを何だと思っているんだ? するわけないだろ。もうしない。今は何もしないよ」
ツカは疑わしそうに僕たちを見た。そしてベッドに飛び乗ると、ジュンちゃんにくっついて寝そべった。……こいつ、ジュンちゃんを狙ってる。僕はツカをベッドから引きずりおろした。
「カズはこのロリコン犬と床で寝て。僕はジュンちゃんとベッドで寝るから」
「おい、カズ。おまえのシスコン姫をなんとかしろ」
犬に
「それは追い追い何とかするさ。それよりも、今は睡眠をとるのが最優先だろ」
ヒュルルルル。突然、白い風が吹き荒れた。これは……まずい。
「なんだ?」
「二人とも、ここを出ろ! 急いで!」
「なんだよ? どうしたって言うんだよ?」
「いいから、早く!」
僕はジュンちゃんを抱え、二人をせかして木の洞から外へ飛び出した。と同時にメキメキと音がして、洞がふさがった。洞窟が崩れ落ちる振動が、足の下から伝わってきた……。
カズの顔が青ざめる。
ツカが顔を引きつらせてつぶやいた。
「マジかよ? 狛兎の結界が一晩しか持たないって、こういう事かよ」
狛兎は三体とも消えていた。
「神の木は、あっちなの」
目を覚ましたジュンちゃんが、元気よく先頭を歩いて行く。
僕は、ジュンちゃんにまとわりつくロリコン犬を、監視しながらついて行った。
カズは紳士だ。容姿も中身も言動もいいなんて、そんな奴、男の僕でも
ツカの毛色はよく見ると、黒一色ではなかった。光の加減で
「ツカはシマ犬なんだな」
僕が言うと、ツカはしかめっ面をした。
「おい、ユウ。シマウマみたいに言うな。これは
「ツカはトライヌなんだね。きれいだね」
ジュンちゃんがそう言って背中をなでる。ツカはとたんにデレデレ声になった。
「ジュン、トラ猫みたいに言うなよ。これは黒虎って言うんだぞ」
こいつ、僕とジュンちゃんに対する態度が
カズがクックと喉の奥で笑った。
「ユウもツカも、わかりやすいな」
「ロリコンと一緒にするな!」
「シスコンと一緒にするな!」
僕とツカの声が
カズとジュンちゃんが
「笑うなぁ」
と言いつつ、つられて僕も笑い出し、ツカもこらえきれずに爆笑した。笑ってる姿がおかしくて、僕たちは身をよじって笑い転げた。本当に久しぶりに僕は、腹の底から笑った。
太陽が真上に昇った頃、
透明な水にそっと手を
ツカが鼻先を水面に近づけフンフンとにおいを
「ジュン、この水はきれいだから大丈夫だ。飲んでみろよ。うまいぞ」
口のまわりをびちゃびちゃに
その横では、カズが手で水をすくって飲んでいる。品があるなぁ。絵になるなぁ。僕とジュンちゃんは、カズにならって水を飲んだ。
「あー、生き返った気分だな」
僕は木の幹に背をもたれて座ると、足を投げ出した。
太陽の光が木の葉を通ってさし込んでくる。日に
ジュンちゃんは少し眠そうだ。お昼寝した方がいいのかな? そういえば、保育園では毎日お昼ご飯の後に、お昼寝の時間があったなぁ。子供用のちっちゃな布団を並べて
「ユウ」
カズの声に視線を上げると、木漏れ日をバックにイケメンの笑顔がまぶしい。カズはちょいちょい
「俺とツカで昼飯を
「おう。そんじゃあ、ちょっくら行ってくるわ。
ハンターと猟犬が森の奥へ連れ立って行った。
そよ風が心地いい。さわやかな天気だ。
「ねぇユウちゃん」
「うん?」
「カズは、とてもいいとおもう。いい人にであえたね」
ジュンちゃんがニコッと笑う。いい人、というフレーズにドキッとした。
「あ、まぁ、うん。いい奴だけどさ。でもさ、えーと、いい人とか、そういうんじゃないんだ。うん。あのね、ジュンちゃん。カズは男だよ。ゆ、ゆうべはその……ちょっとおかしくなっただけ……」
おかしくなってしまった事を思い出してしまい、僕の顔が熱くなる。
「あのね、ユウちゃん。ユウちゃんは、おとこの人を、すきになってもいいんだよ。カズとむすばれてもいいんだよ」
僕は、まじまじとジュンちゃんを見た。ジュンちゃんの言葉がじんわりと僕の心におりてくる。
「……いいの?」
「うん。いいの」
ジュンちゃんは力強くうなずいた。
「ジュンちゃんが、ユウちゃんとカズをしゅくふくする」
僕の目がじんわりとうるんだ。
そよそよと風が吹き、草むらでは虫が鳴いている……。青い空からやわらかなひざしが降りそそぐ……。
僕たちは木の下でウトウトとまどろんでいた……。
ジュンちゃんが僕の膝枕から頭を上げた。
「まだ寝てていいよ。……ジュンちゃん?」
ジュンちゃんは立ち上がって……首をかしげた。
「うん? なんか……きのせいかな?」
うららかな午後のひざしは平和そのものだ。
「なんか夢でも見たの?」
「うーん。なんかみてたけど……わかんない」
ジュンちゃんは不安そうだ。そして眠そうだ。
「大丈夫だよ。ジュンちゃん」
僕はジュンちゃんの小さな体を抱きよせた。
「僕がついているから、寝てていいよ」
「うん。ありがとう、ユウちゃん」
ジュンちゃんは僕にもたれて目をつむり、スヤスヤと眠りに入った。僕もいつの間にか眠っていた……。それがまずかった。もしもこの時、ジュンちゃんの勘を気のせいや夢で片づけずに警戒していたら、僕たちは捕まらなかったもしれないのに……。僕は寝ずの番をしなければならなかったのに……。
「チッ。このクソガキが! 大人しくしろってんだ!」
「田所さん、何を手こずっているんですか。あ、殺さないで下さいよ。その子は地図なのですからね」
「うるせー! サバゲー、てめえも手伝っ、ぐえっ!」
「私はサバケーではありませんよ。井上です。サバイバルゲームの途中でこの世界に入り込んでしまっただけですよ。子供は嫌いです。言う事をきかなっ、かはっ」
バッと頭にかぶせられた布が取りのぞかれた。
ジュンちゃんが僕の顔をのぞき込み、すぐに後ろに回って手首の縄をほどきにかかかる。
「僕のことはいいから、逃げて」
手前にうずくまっている迷彩服の男が、サバケー井上だろう。ジュンちゃんに急所をやられたらしい。ざまみろ。井上の向こうで、田所が鼻血をぬぐって起き上がるのが見えた。
ぶつっ、と音がして、僕の両手が自由になった。
「にげて」
ジュンちゃんは僕の耳に
「ジュンちゃん! あーっ、くそっ!」
僕は足首を縛っている草のつるを、ほどきにかかかった。なかなかほどけない。あせればあせるほど、つるが肌に食い込んでゆく。
ジュンちゃんは、田所の手をすり抜け足を踏みつけアキレス腱に蹴りをいれた。田所がひっくり返る。その後ろから井上がジュンちゃんに飛びかかり、田所が下からジュンちゃんの足をつかんだ。大の男が二人がかりで五歳児を押さえつけ縛り上げる。
僕はつるを引きちぎった。両足が自由になる。それに気づいた井上が、僕につかみかかってきた。その首に赤い玉が光っている。井上が五人目のハンターか。僕は井上を投げ飛ばした。
「動くな! 姫、言うとおりにしねえと、このガキをぶちのめすぞ」
田所がジュンちゃんの頭を地面に押さえつけている。ジュンちゃんの目が、僕に「にげろ」と言っている。僕は「嫌だ」と目で答える。逃げる時はジュンちゃんと一緒だ。
井上が立ち上がって、迷彩服についた葉を払い落とした。
「はじめまして、姫。これから私と田所で、あなたを交互に抱きます。神の木についたら、私と彼のどちらかを選んで下さい」
「僕は男だ」
僕は井上を見おろした。僕の方が背が高い。
「私は男が好きです。そしてあなたは私の好みです」
井上が僕を見あげた。僕は
「抵抗したら、あの子の腕をへし折ります。あなたが大人しくしていれば、あの子を傷つけませんよ」
井上が冷たく笑った。怒りを抑え込んだ僕の体が震えた。
「おいっ! さっさとやって交代しろ! それともこのガキを木に
田所が、なめるように僕の体に視線を
「二人が勝負して、勝った方に僕の体をあげるよ」
僕は平静をよそおって言った。二人が争っているうちに、ジュンちゃんと逃げる。そして
「最終的にはそうなるでしょうが。まずは、あなたの足腰が立たなくなるまでしてからですね」
井上が手袋をはずした。
「その前に、ガキが逃げないように足を折っておくか」
「なっ⁉ やめろ! ジュンちゃんを傷つけるな!」
田所に飛びかかろうとした僕は、井上に
田所はジュンちゃんを見おろすと、足を振り上げた。
「やめろ! 何でも言うことをきくから! ジュンちゃんには何もしないで!」
僕の背中で井上が、息だけで笑う。田所は僕を見てニヤリと笑うと、ジュンちゃんの膝をめがけて足を振り下ろした。僕の全身の血が引いた。
ドスッ!
重いものがぶつかる音がして、田所の体が吹っ飛んだ。地面に倒れた田所に、黒い犬がのしかかる。
「ツカ⁉」
僕とジュンちゃんの声が重なる。
牙をむき出したツカが、田所の首にかかった紐を
僕の背中で、ブチッと紐の切れる音がした。視界の端で赤い玉が砕けて消えた。と同時に井上も消えた。
「なっ……」
それが井上が最後に発した声だった。
振り返るとカズがいた。カズの顔を見たとたん、僕はホッとしてその場にへなへと崩れ落ちた。カズの力強い腕が、僕を抱きとめてくれた。
「ユウちゃん!」
ジュンちゃんが僕に抱きついてきた。僕はその小さな体を抱きしめる。ツカが嚙みちぎった草のつるを、ぶんっと放り投げるのが見えた。ジュンちゃんを縛り上げていたつるだ。
「ジュンちゃん、足は? 膝は大丈夫?」
「うん。ほら」
ジュンちゃんは、その場でピョンピョンとジャンプしてみせた。なんともなさそうだ。よかったぁ。一瞬ツカが早かったらしい。もしもあと少しでもツカが遅ければ、ジュンちゃんの膝は田所の足の下で砕けていた……。そう思うと、安堵と恐怖で体が震えた。
「ツカがたすけてくれたの。カズもありがとう。ユウちゃんはケガない?」
「ないよ。大丈夫。……ジュンちゃん、どうして逃げなかったんだよ⁉」
安心したら腹が立った。僕は半泣きでジュンちゃんに怒鳴った。
「ユウちゃんがにげなきゃダメだったの!」
ジュンちゃんもいつになく怒鳴り返してきた。
「ジュンちゃんを置いて逃げれるわけないだろ!」
「あいつらのねらいはユウちゃんなんだから、ユウちゃんがにげなきゃ! ジュンちゃんはいいの!」
「よくないっ!」
「二人とも、落ち着けって。ユウは怒鳴るな。大人のおまえが、子供のジュンを怒鳴りつけるな」
カズが僕の前に立って視界を
「もう大丈夫だ。もうあいつらが現れることはない。ジュンにもケガはない。ユウもジュンも無事だったんだ。ユウがジュンを置いて一人だけ逃げることができなかったように、ジュンもユウを置いて逃げることはできなかった。そんな事は考えもしなかったんだろう。だから責めるな。ユウ。自分の事も、ジュンの事も、責めなくていいんだ」
カズが僕の心を包み込むように抱きしめてくれた。それで少し落ち着いた。頭に上った血が元の場所へ下がってゆく。
「ありがとう、カズ。おかげで助かった」
僕は手を伸ばしてカズの頭を抱きよせると、キスをした。一瞬の
ジュンちゃんはツカに
「まったく……。あのなぁ普通は、なぜ一人で先に逃げた? って喧嘩になるんだ。それをおまえら姉弟は、なぜ逃げなかった? って喧嘩するんだから。まったくもって
ふくれっ面をするジュンちゃんを、ツカは「かわいくて食べちゃいたい!」と言わんばかりになめまわしている。
「なめるな、ツカ。ジュンちゃんは
「うるせー、ユウ。ほら、ジュン。手を広げて見せてみろ。やっばりな。すりむけてるじゃねーか。手首は? ……内出血して赤くなってんじゃねーか。足首も……だな。痛いだろ、これ。オレが今なめて治してやるからな」
ツカがベロベロなめると、ジュンちゃんの手のひらが見る見るきれいになっていった。傷も内出血も消えて、むけた皮も元通り。手品か⁉
「わぉ。すごーい。ありがとう」
ジュンちゃんに抱きつかれ、ツカは目尻を下げてパタパタと尻尾を振った。
「おい、ツカ。ジュンちゃんを助けてくれてありがとう。そこは本当に感謝する。でも、それ以上なめるな。
「おい、ユウ。オレの
ほらふき犬がのたまった。化粧品会社に売ってやろうか? 犬の唾ではなく、犬印の美容液として売り出せば
「ツカ、ユウの手足もなめてやってくれないか? 縛られたところがアザになってる。手もひらもすりむけてるんだ」
カズが僕の手をとって広げた。
「あぁ?」
僕とカズは思いっきり顔をしかめた。
「ユウちゃん、てをだして。あしも。おねがい、ツカ」
ジュンちゃんにお願いされたら断れなかった。
僕はいやいやツカになめられ、ツカもいやいや俺をなめた。それでも、手足の傷が消えて痛みもなくなり楽になった事は
「昼飯になりそうなものが見つからなかった。すまない」
カズが申し訳なさそうに言う。
「いいよ、カズ」
カズなら許す。ツカはジュンちゃんに、クーンと哀れっぽく鳴いて甘えている。ツカは許さない。
「おひるなくても、へいきだよ」
ジュンちゃんがツカをなでる。ジュンちゃんはツカを甘やかしすぎた。
水を飲んで顔を洗うと、さっぱりした。もう大丈夫。ようやく息をついた。もう危険はない。
「そもそもさぁ、逃げろ逃げないの前に、オレとカズを呼ぼうとか思わなかったのか?」
ツカがジュンちゃんの前に仰向けに寝転んで、腹をなでられながら言った。
「あ……」
僕とジュンちゃんは顔を見合わせた。その手があったか!
「全く思いつかなかったね」
「うん。わすれてたね」
ツカとカズがガックリとため息をついた。
「今度何かあったら、真っ先に俺とツカを呼べ。叫んでも、悲鳴でも、口笛でもいいから。忘れるな。いいな」
カズにほっぺたを、むにゅっとつままれた。もしかして、忘れられたことを怒ってる?
「口笛じゃ小さくて聞こえないだろ。でも指笛なら聞こえるかもな」
口笛を吹くジュンちゃんを見ながらツカが言う。さっそく指笛を試してみた。……鳴らなかった。
「姉弟そろって何を指しゃぶってるんだ?」
指笛ができない僕たちを見て、犬が笑う。こいつ、ムカつく。
「オレがやって見せてやるから、よーく見てろよ」
ツカは指をくわえた。その姿は、犬が自分の前足にキスしている、もしくは、投げキッスをしようしている犬、にしか見えなかった。キモい。当然、音は鳴らなかった。ざまみろってんだ。
「あれ? ……おかしいな。……まじかよ。犬は指笛できないのかよ。口笛は吹けるのにか。……オレ、人間の時は指笛できたんだ」
しょげる犬を放置して、僕たち姉弟はカズに指笛を教えてもらった。
指をくわえて息を吹く。それだけで、こんなにも大きな音が出るなんて。おもしろい! 唇と指の隙間を勢いよく飛び出した音が、空気を切り裂き遠くまで飛んでゆく……。僕たちは歩きながら指笛を吹き鳴らした。
日が落ちて、互いの顔が見えなくなるころ、僕たちは狛兎を見つけた。
今宵の宿も地下だった。岩と地面の隙間から中に入る。岩の下はちょっとした空洞になっていて、そこにテーブルとベッドが置いてあった。椅子が四つ。その内ひとつは子供用。ジュンちゃん用の椅子だ。テーブルの上にはランプと夕食がのっていた。
「いっただきまーす!」
お腹をすかせた僕たちは、手当たり次第に腹いっぱい詰め込んだ。手も口も止まらない。
「食事もベッドもありがたいけど、どうして地下なんだ?」
僕は洞窟の中を見回した。天井は岩で、壁と床はむき出しの土だ。土のにおいはするけど、湿度も室温もちょうどいい。虫もコウモリもいない。ランプのあたたかな光が、天井や壁に揺らめいてきれいだけど。
「崩れるのが怖いんだよ。山小屋とかないのかな?」
「ないんじゃない」
ジュンちゃんがあっさりと僕の希望を却下した。
「ウサギはあなをほって、つちのなかでくらすから。だから、ちかなんじゃない?」
「それはあるな」
カズがうんうんと納得している。
「あの自称神の白兎の奴がアナウサギだから、あいつが用意した寝床は土の中ってことか。なるほどなぁ、じゃねーんだよ。オレらは兎じゃねーってのに。まったく。あの神兎の奴、なんかぬけてるよな」
そう言いながら、ツカは椅子に座って前足をテーブルの上にのせ、べちゃべちゃと音を立てて、皿からスープを舌ですくって飲んでいる。
「おい、ツカ。こぼしてるぞ。行儀悪いなー。犬らしく、テーブルの下で食えよ」
そう注意したら、ツカはテーブルの上にこぼれたスープを、舌できれいになめ取った。いや、それはもっとダメだろう。
「地面に直接皿を置いて食う方が、行儀悪くねーか? 衛生面も悪いだろ。それこそ、ばっちい、だろ。それにさ。オレだけ床で食うなんて、寂しいじゃねーか。みんなでワイワイ食べるのが、食事の楽しみってもんだろ」
犬のくせに正論を説くな。反論できないじゃないか。
「うん。そだね」
ジュンちゃんが犬の頭をよしよしなでる。犬が尻尾をパタパタ振った。犬はジュンちゃんにでろでろだ。
「ゆう、大目に見てやれ。犬の手じゃ
「わかったよ。しかたないなぁ」
「ジュン、どれを取ってほしい? これか? ほら」
カズがジュンちゃんの皿に料理を取り分けてあげている。ジュンちゃんは嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。カズ」
「カズ、オレにも取って。それそれ。あ、肉も。サンキュー。おっ、これ、うまっ。食ってみろよ。ジュンも。なっ、うまいだろ?」
ジュンちゃんがもぐもぐしながら、おいしそうにうなずく。
「これって、どれ?」
僕はキョロキョロと皿を見回した。大きなテーブルの上には、色とりどりの料理がのった皿が
「ユウ、ほら。口開けろ。アーン」
カズが箸でつまんで僕の口のに入れてくれた。口の中に肉汁が、じゅわぁ~と広がる。
「うまっ!」
「だろ、だろ。作ってみてーな」
ツカが匂いをかいで舌でなめて割って中身を調べている。
「ツカ、おまえ料理するのか?」
「ああ。中華料理屋と居酒屋でバイトしてたからな。カズは?」
「俺もする。イタリア系でバイトしてた。ユウとジュンは?」
「僕もバイトしてたけど、料理を作る方じゃなくて、運ぶ方だった。料理はできないよ」
「ジュンちゃんはバイトないの。ごはんはつくるよ。ツカとカズはバイトでどんな?」
そこからバイトの話しで盛り上がった。謎のメニュー、変な客、癖のある先輩、失敗談で大爆笑した。こんなにしゃべって笑って食べたのは、いつ以来だろう? みんなでワイワイ食べるのが、こんなにも楽しいなんて。なんだかちょっと泣きそうになる僕だった。
「ごちそうさまでした」
「もう食えねー」
「寝るか」
僕たちの笑い声を子守歌に寝ちゃったジュンちゃんを、ベッドに運んだ。
ベッドはひとつしかなかった。大きなダブルベッドではあるけれど……。
「ソファもないしなぁ。うん。ちょっと狭いかもしれないけど、僕とジュンちゃんとカズの三人でベッドを使うしかないね」
「おい、ユウ。オレのことを忘れてないか?」
ベッドの上に飛び乗ったツカを、僕はすぐに床におろした。
「犬は床に決まってるだろ」
「なんでだよ! オレに土の上で寝ろってのか? 犬の中身は人間なんだぞ!」
「だからだよ! 中身が人間のロリコン犬を、ジュンちゃんと一緒のベッドにできるか!」
「おまえ、シスコンが過ぎねーか?」
「過ぎねーよ! 僕は
「ユウ、おまえは重度だよ。ってか、シスコンの自覚はあるんだな」
「昔から周りに言われ続けてきたからね。中学の時のあだ名は、シスコン王子だ」
「うわぁ」
「そう言うツカは、ロリコンの自覚ないのかよ?」
「あるかぁ! オレはロリコンじゃねーよ!」
「おーい。二人とも。そのへんでやめておけ。キリがないだろ。ツカはジュンの足下に寝ろ。ユウ、それでいいだろ」
「カズかそう言うなら。まぁ、しかたないかな」
「いいぜ」
ツカがジュンちゃんの足下に寝そべった。その両側に僕とカズ。川の字ってやつだな。ベッドに入ると、僕はスーッと眠りに引き込まれていった……。
そのまま朝までぐっすり眠る……はずだったのに、なぜが途中で目が覚めた。
体が熱い。ほてる。ムラムラする。体の奥で欲望がうねりまわる……。じっとしていられなかった。まずい。これはちょっと。いや、かなり。体がおかしい。
なんでこんな……。そういえば、兎が「姫は欲情する」とか言ってたな。それが、これか⁉ 僕の隣で五歳児のジュンちゃんが寝ているのに、発情するのかよ⁉ それはダメだろ! アウトだろ! どんなに体に言い聞かせても、いっこうにおさまらない。逆にどんどん
僕はそろそろとベッドから抜け出すと、よろめきながら外へ出た。
体の奥でマグマが煮えたぎっているようだった。ふくれあがる熱が解放を訴えて拳を突き上げる。血管がドクドクと脈打ち、暗闇の中で息が揺れる。僕はひんやりとした岩に背をもたれ、もどかしくスカートをたくし上げると、下着の中に手を入れた。
「ユウ」
カズの声がした。
どっきーん! バンッ! 心臓が飛び上がり、肋骨にぶつかり跳ね返って元の位置に戻った。重い体は、ビクッとしただけだった。とっさに下着から手を引き抜いて、スカートを引っ張り戻す。心臓がドドドドドドドドと破裂しそうだ。
「どうした?」
気づかわしげなカズの声。まさか、只今発情中! なんて言えるわけもなく……でも何か言わないと……何とか言葉をしぼり出す。
「えっと、あー、ちょっと暑くて……涼んでるだけ」
頼む、カズ。これで納得して中に戻ってくれ!
「……手伝おうか?」
うわあぁー! ばれたぁぁぁ……。
男同士。説明なしで何となく察したらしいカズの声。めちゃくちゃ恥ずい。手伝うって何だよ? ……まずい。昨夜のことを思い出し、想像してしまった……。理性よ働け! 欲望と想像力を止めるんだ!
「い、いや。自分で、で、できるから。カズは戻ってて」
両手てでスカートをにぎりしめてこらえる。
ふわり。スカートがめくられた。
「えっ? なっ⁉ ちょっと、カズ? な、何やってんだよっ……」
スカートの中にカズかもぐり込んできた⁉ おまえは変態かー! カズは僕の下着を引きずり下ろした。
「ひっ……⁉ ちょっ、待って。カズ?」
カズの熱い息が僕にかかる。
「うあっ……」
ヌルリとカズの口に包まれて、僕はたまらず熱を吐き出した……。
めちゃくちゃ……気持ちよかったぁ。うはぁ~。
でも、まだ足りない。全然足りない。もっと欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。カズが欲しくてたまらない。体の奥から欲望がたぎるマグマとなって押しよせる。
僕はカズに体を押しつけ、さらなる快楽をねだった。カズを草むらに押し倒しキスをして服をはぎとりまたがった。
僕たちは飢えた獣のように互いをむさぼり熱を叩きつけ、快楽を解き放った……。
カズの肩越しに満天の星が輝いていた……。なんてきれいなんだろう……。僕たちは、きらめく星の下で愛し合った。
僕はこの夜、自分の意志でカズを選んだ。
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