新世界ぴのこ殺人事件(下)
「犯人はもう出てる? 毒を盛ったのでなくラーメンの食べ過ぎで死んだって話なのに犯人なんているのか?」
「そ・う・だ・よ♡ 新世界ぴのこさんを殺した殺人ラーメンを作った厨房スタッフの店員さんが真犯人なんだなあ……」
「真犯人って……! 最初に俺が推理しただろ。厨房のスタッフには被害者を狙って毒を盛ることは不可能だ!」
「そうだね、厨房からは誰がどのラーメンを注文しているか区別できない。だから厨房のスタッフさんは作るラーメンすべてを殺人ラーメンにしたんだよ」
桜花はポケットから両親に買い与えてもらったiPhoneを取り出し、黒地に白くバッテンが描かれたSNSアプリを起動する。
「これがぁ、今日この店でラーメンを食べた人たちの投稿だよ♡」
画面上には「塩辛すぎる」「しょっぱくて食べられたもんじゃない」と言った批判的な感想が列挙されていた。
「犯人は厨房で作るすべてのラーメンの塩分を多めにした。大半のお客さんにとって塩分が多く不味いラーメンとして認識されて終わる殺人ラーメン爆撃は、慢性的な高血圧・塩分過多の食生活になっている被害者だけを殺す毒物になったってわけ♡」
厨房から、まるでトドのような顔をしたラーメン職人が出てくる。
「そうや。新世界ぴのこを殺したのはワシや。」
先生が、犯人として名乗り出た厨房スタッフの男を問いただす。
「何故、あなたはなぜ犯行に及んだんですか? 動機はいったい?」
「SNSの評判っちゅうのは怖いもんでな。何がきっかけで燃えるか分からん。この新世界ぴのこっちゅう男が前に昔ながらの醤油ラーメン食うたゆう投稿をしただけで、SNSは荒れた。店側には一切の非ぃがない。そもそもメニューに昔ながらの醤油ラーメンやなんて書いてない。せやのに、新世界ぴのこがSNSに感想を書いただけで、ラーメン店は普通の醤油ラーメンを勘違いした店やっちゅう烙印を押された。だからワシは怖かった。いつこの店に新世界ぴのこが来て言われなき誹謗中傷を受けるんが怖かったんや」
桜花はSNSで新世界ぴのこの今日の投稿を開いてみせた。そこには今日、この店のラーメンを食べに行くと書かれていた。
「SNSの向こうのやつの顔はわからん、どの客が新世界ぴのこなんか顔を見ても分からん。それでも……それでも……飛び切り塩辛いラーメンでなら、新世界ぴのこを殺せる。他のお客は塩辛いだけの……ターゲットにだけ聞く殺人ラーメンが作れるっちゅうことに、ワシは気づいてしもうたんや」
「しかし、新世界ぴのこはなんでそんな塩辛い……言ってみればマズいラーメンを完食したんだ?」
「SNSだよ、先生」
桜花はSNSアプリをスクロールして新世界ぴのこの過去のやり取りを表示する」
そこには、全部食べてもないのに味を語るなカス!と言った誹謗中傷が飛び交っていた。
「新世界ぴのこはラーメン屋に入った以上、必ず完食しないといけないという強迫的な衝動に駆られていたんだよ。SNSの顔も見たことないアカウントたちの誹謗中傷でね。そういう意味では犯人は新世界ぴのこのことを炎上させた顔の見えないSNSユーザーたち、なのかもしれないね……」
SNSを使うとき、画面の向こうには数多くの人間がいる。
SNSで見かける人間を玩具にするとき、貴方たちに彼らの人生を扱う覚悟はあるだろうか?
今一度、SNSの使い方を各自の心に問いかけて欲しい。
小5探偵 藤堂桜花の事件簿 青猫あずき @beencat
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