新世界ぴのこ殺人事件(中)

「まずは、今さっき先生が警察さんたちにドヤ顔で披露した推理のおさらいね♡」


 扉の外に立っていた桜花はつかつかと床に倒れていた死体の形を示すホワイトテープの近くまで入ってきた。


「このお店はラーメンをひとりで静かに食べれるように隣の席の人との間に仕切りがしてあるよね」


 ホワイトテープをぴょんと飛び越し、桜花は被害者がラーメンを食べていた席に座った。


「基本的にすべての席がカウンターで、カウンターの向こうは壁になってる。ラーメンを作る人はカウンターの向こうでなく完全に切り離された遠くの厨房にいて、テーブル番号を元に、配膳係のアルバイトがカウンターの向こうから顔を出すこともなくラーメンを配膳するスタイルになってるんだよね♡」


 桜花は、カウンターの壁に設けられたラーメンを配膳するための扉を叩いた。


「この形式の店舗では、ラーメンを作る人にはお客さんの顔が見えない。仮に厨房にいる人がラーメンに毒を盛って、この人を殺そうとしてもどの注文が被害者のものか数多くの注文の中から見つけるのは不可能……だったよね?」


 桜花はくるくると丸椅子に腰かけたまま回り、先生と警察を見回した。


「厨房の職人さんが毒を盛ったのでなければ、誰が被害者にラーメンを食べさせて殺せたのか? 先生の推理は配膳係のアルバイターさんなら、被害者にラーメンを配膳する時に毒を盛れるっていうものだったよね?」


 先生は首を縦に振った。


「ああ、その通りだ。配膳係は壁にさえぎられて客の顔を見れないが壁越しに注文する際に、声を聴くことができる。どの席の注文に毒をしこめば、被害者を殺せるのか判断できるヒントを得られるのは配膳アルバイターだけだ」


「でも、その推理には大きな穴があるんだなあ……無能なお巡りさんたちに聞きたいんだけど、被害者を殺した毒物は何か識別できた?」


「い、いや……それが、分からないんだ。いったい何の毒を被害者が盛られたのかいまだに鑑識から明確な答えは返てっこない」


 回転椅子からぴょんと飛び降りて桜花は指をピンと立てる。


「だよねえ。お巡りさんたちが頑張っても毒物が何か判明するはずないんだもの。そういう訳で、私がなぜ被害者が死んじゃったのか、答えを教えてあげましょう。ぱんぱかぱーん! 正解はぁ、でしたぁッ!」


「塩分……?」


 先生は首を傾げた。


「被害者の男性、ネットでは『新世界ぴのこ』っていうハンドルネームで活動してたラーメンブロガーさんは、毎日ラーメンを食べ続けるバランスの悪い食生活をしていたのがSNSにはっきりと残っているんだよね。こんな不健康な食生活を続けていれば血圧が上がって脳や心臓の血管に負荷がかかって死んじゃうのも自然なことだよね~。鑑識さんに毒物の有無でなく血中の塩分濃度を調べてもらったほうがいいよ、お巡りさん♡」


「それじゃあ、被害者の死因は単なるラーメンの食べ過ぎだったのか……?」


「ううん、そうじゃない。まだまだ詰めが甘いんだよなあ……先生は♡ ここまでの話の中で


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