22 天麩羅の晩/野村絽麻子さん

 天ぷらを揚げる音も含めて好きだから。


【タイトル】

https://kakuyomu.jp/works/16818093083993272803


ジャンル:現代ドラマ

文字数:1957文字


 野村絽麻子さんの作品は天ぷらを揚げるロマンチックなお話です。


 主人公がひたすら天ぷらを揚げるというのがお話の中心ですが、この天ぷらを揚げる行程がとても丁寧です。主人公が本当に天ぷらを揚げることが好きであることが読者にも伝わってきます。


 今までも天ぷらを揚げる作品がいくつか登場しましたが、本作の主人公の天ぷらが一番美味しそうだと思いました。他の作品の天ぷらもおいしそうなのですが、この作品は「美味しい天ぷらを揚げる」ことを目的に書かれているため、その他の余計な情報がなく純粋に天ぷらと向き合えていると感じます。そして「天ぷら」という料理とは一体何なのかという答えが見えたような気がします。


 天ぷらは跳ねる、お腹が膨れる。そしてこの作品で強調されているのは「天ぷらは様々な食材を使う」というところだと感じました。茄子にズッキーニ、大葉に椎茸、海老や蓮根に舞茸にジャガイモにキス。衣を付けて揚げれば全て「天ぷら」になります。天ぷらは料理としての包容力がすごい。食材のラッシュからそんな印象を受けました。


 それからかき揚げを揚げる描写が素晴らしいです。ゴボウにニンジン、モズクのかき揚げも気になるところですが、ニンジンの葉とタコと玉ねぎのスライスというかき揚げがかなり気になりました。めっちゃ美味そう。食いたい。結末の包み込まれてしまった主人公もよかったです。まさしく胃袋を掴まされた、という奴ですね。末永く揚げられてください。


 気になった点は、主人公と幼馴染みの関係です。本作は天ぷらの描写に全振りしているのでそれほど気にならないと言えば気にならないのですが、やはりこの二人がどういう関係でここに至っているのかを詳しく知りたい読者は多いかと思います。作品として過不足はないのですが、揚げられてしまった二人の更なるエピソードがあると更にサクサクできると思いました。


 全体的に天ぷらを揚げる描写がとても丁寧で、とにかく登場する天ぷらが美味しそうな作品です。天ぷらとは何か、人に食事を提供するとは何かという話にも繋がり、短い文字数の中に天ぷらという食品の魅力がギュッと詰まっていて「ごちそうさまでした」と不意に呟きたくなるような読後感でした。

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