20 犠牲フライ/ぴのこさん
揚げ物が怖くてよかった。
【犠牲フライ/ぴのこさん】
https://kakuyomu.jp/works/16818093083841077378
ジャンル:ホラー
文字数:2496文字
ぴのこさんの作品はかなり閲覧注意なホラーです。
揚げモノでどんなホラーだよ、と言われてもこれは秀逸な揚げ物ホラーですね。そして肝心なところのネタバレは避けますが、できればこれは作品を最初に読んでほしいです。読みましたか? じゃあいきます。
まず冒頭から「揚げ物が怖い」ってどういう状況なんだろう、と読者は思います。その後エビフライの得体の知れなさが語り手から告げられていくのですが、これがなかなか説得力あります。そもそもこの企画を立ち上げた時点で「揚げ物が怖い」という視点が来るとは思っていなかったので……。
ただ、ホラーの鉄則である「見えないことによる恐怖」というのは確かに存在していて、衣を付けて揚げる行為っていうのは対象をぐるっと包んで見えなくすることと同義でもあると思いました。エビの赤いのが嫌いという子もエビフライなら食べる、という話は聞いたことがあります。それならその逆もあっていいでしょう。
そして揚げ物嫌いを克服した主人公に訪れるささやかな甘い展開。おどろおどろしい雰囲気から一転、和やかな雰囲気に読者はほっとしてしまいます。それまで異様に怯えていたからこそ、大量の唐揚げに怯える主人公に「お前それ食っても死にはしないよ?」と読者も思ってしまいます。ここまでで完全に読者も主人公を見放して、共感せずに異質なものとして見なそうとしています。この辺の登場人物の書き方が本当に上手で主催者は「畜生! うめえなあ!」と思いました。多分無意識に読者をコントロールしてやがる!
その状態で訪れる結末。読者も完全に巻き込んで後味がかなり悪すぎる。ホラーとしては最高です。久々にイヤーな気分を味わいました。それ以上に「やられた!」という気分もあります。脳裏に某熱帯魚映画が過ったのはここだけの話です。あれの冒頭で大量の冷凍の唐揚げをすごい勢いでレンチンしてるのも、そういう演出だったのかなあ。
気になった点は、やっぱり主人公にはおいしい揚げ物を食べさせてあげてほしかったということです。でもこれはこれで完成しているお話なので、彼は無理に揚げ物を食べなくてもいいかもしれないです。
全体的に不穏で読んだことを後悔するような内容の、秀逸なホラーです。そしてこれはストーリーで怖がらせるのではなく作者が読者に情報を少しずつ与えて翻弄する作品です。是非気分が急降下する気分を皆味わってほしいです。
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