16 すべては美味しい揚げ物のため/鶴川ユウさん

 究極の揚げ物を食べさせてほしいな!


【すべては美味しい揚げ物のため/鶴川ユウさん】

https://kakuyomu.jp/works/16818093083739979751


ジャンル:現代ファンタジー

文字数:3533文字


 鶴川ユウさんの作品は、揚げ物の才能を授ける神様のお話です。


 高校生の主人公が汗だくになって天ぷらを作っていると、神を名乗る謎の声がする。天ぷらを作るのに忙しい主人公が「揚げ物の油を自在に操る能力がほしい」と答えると、なんとその通りになってしまう。揚げ油のスキルを駆使して活躍する主人公の前に、再び神が現れるというお話でした。


 おそらく今回の揚げモノ小説祭りで一番「揚げる」という行為に取り組んだ作品だと思われます。料理でも「揚げる」という行為は難しくて面倒くさい行為だとされています。まず油を用意するのが面倒くさい。材料を切って粉を付けるのが面倒くさい。エビは背わたをとるのが面倒くさい。そして油の温度を調整して入れるのが難しい。熱いし跳ねるし、掃除も大変。油の始末が最高に面倒くさい。こういったことを解消してくれる「神様」がいたら、そりゃ最高です。「こんなこといいな」の世界ですね。


 この「神様」が何ともくせ者で、自分が美味しい揚げ物を食べたいがためにその辺の人間たちに「揚げ物に適したスキル」を与えていたわけです。しかもお供え物のように消えるとかそういうわけでもなく、物理的に冷蔵庫を開けて中を物色します。要は「僕がおいしいもの食べたいから」というところに尽きるようです。神のくせにかなり俗物ですね。しかし、揚げ物スキルを持たせた人物をひとつの天ぷら屋に集結させたところや彼らに発破をかけたところなどは超人的存在感を出しています。そもそもこの天ぷら屋自体が彼の理想の天ぷらランドである可能性もありますね。先輩も神から力を授かっているのだろうか、など視野を広げると更に面白くなりそうです。


 気になった点は、「揚げ物」と幅広い料理を取り扱っているのですがこれと言った特定の素材や料理が出てこなかったことです。神の好物はエビフライとなっているので、エビフライにこだわったシーンなどがあればいいと思いました。エビフライはソースだ、タルタルだ、いいや天つゆだよなどひとつの料理をクローズアップすることで印象に残るようになると思います。


 全体的にコミカルな文体で、「揚げ物が食べたい」という神に力を授けられた主人公を中心に様々な登場人物が翻弄される作品です。特に私利私欲(?)にまみれた神が印象に残りました。これから美味しい揚げ物が食べられるといいですね。

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