15 とろけーろ/柚木呂高さん

 過去も未来も全部とろけーろ。


【とろけーろ/柚木呂高さん】

https://kakuyomu.jp/works/16817330669292081200


ジャンル:現代ドラマ

文字数:3228文字


 柚木呂高さんの作品は、タイトルに反してちょっと大人のせつない揚げ物です。


 かつて行きつけにしていた沖縄料理屋にやってきた主人公。事情により月に三日しか店を開けない店に、主人公はよく遊び相手の女性を連れてきていた。時が経ち、久しぶりに訪れた店内で主人公はオーナーの創作料理の「とろけーろ」を食べ、輝かしかった過去を思い出して涙するというお話です。


 何より、この作品の「とろけーろ」がとてもおいしそうなのです。作中では「ジーマーミ豆腐をチーズのようにして、それを衣をつけて揚げたもの」と説明されています。それを「モッツァレラチーズみたいだね」と評した彼女がいた、というところで読者の頭の中にもちもちのモッツァレラチーズがアツアツで登場します。沖縄の郷土料理のジーマーミ豆腐に馴染みがなくても、モッツァレラチーズのような料理と大筋で話を読み進めることができます。この辺の説明がとても上手です。


 主人公が味わいたかった「とろけーろ」は、料理そのものではなく過去の女たちとの思い出も含まれたものでした。オーナーは「男は中身がありゃいいよぉ」と言うのですが、主人公は自分に中身がないと思っているところがとってもいいですね。過去の女たちも、当時は主人公の外見を飾り立てるものでしかありませんでしたが今の主人公にすれば「抱きしめたいほど愛おしい思い出」なんでしょう。


 最後に「前祝いだよ」と古酒を出すオーナーの優しさが染みますね。この酒は「新しい彼女が出来たときに出す」と紹介されていました。もうぐっと来ますね。締めの言葉も素敵です。


 気になった点は、男性の主人公が容姿の衰えを気にしていたところです。わかりやすい醜形恐怖のシーンなのですが、男性特有の頭髪や筋肉の衰えなどをわかりやすく書くと更に主人公が自分を惨めに思っているところがぐっと伝わると思いました。


 全体的に落ち着いたトーンで主人公の惨めな感情が綴られていきますが、温かい食べ物とオーナーに救われる結末が胸に染みる作品です。食事で人が救われる話は読んで気持ちがよくなりますね。

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