10 母の背中と天ぷらと/ロゼさん

 人柄は台所に現れる。


【母の背中と天ぷらと/ロゼさん】

https://kakuyomu.jp/works/16818093082137711572


ジャンル:現代ドラマ

文字数:1847文字


 ロゼさんの作品は小細工なしの直球勝負です。


 急死した母が冷蔵庫に残した材料で、主人公は天ぷらを作ります。かつて母が楽しそうに揚げていたことを思い出し、丁寧に食材を切り、じっくりと料理をしていきます。その間も母のことを思い出し、父と二人で出来上がった天ぷらを食べながら改めて母を偲び、母のいない今後を憂いながらお話は終わります。


 このお話の良いところは、余計なことが一切書いていないことです。徹頭徹尾お母さんの思い出を天ぷらに託し、そこにお母さんの人柄を説明させているところが素晴らしいと思いました。


 まず、「冷蔵庫を開けると、母が買っておいた食材が綺麗に整理され、行儀よく収まっている。」という一文にぎゅっと情報が詰め込まれているのがいいですね。冷蔵庫に食材が入っているということは、母の死が本人もわからないほど本当に突然であったことと、亡くなってからそれほど日が経っていないこと、更に母が几帳面であったことも窺える素敵な文だと思います。更に母の死という非日常から母がいた日から保存されている日常に触れることで、主人公たちの喪失感がより強く感じられます。


 また、ごぼうを水に晒さなかったり玉ねぎを角切りにしたりなど少し一般的なものからはずれた調理法や、エビを尻尾まで食べるなど天ぷらの食べ方にも母の性格や個性などが徹底的に書かれていて最高です。まさしく故人を偲ぶための調理や食事であることが窺えて、一段とテーマが深くなっています。


 気になった点は、少し唐突な幕切れです。このままでも余韻があって良い結びでもあると思うのですが、欲を言えば今後主人公たちがどうしていくかという暗示や決意表明みたいなものがあると過去と現在、そして未来への展望と作品に深みが増すと思いました。


 全体的に一貫したシンプルなテーマで、淡々と進むお話からしみ出すように悲しみが伝わってきました。天ぷらを揚げる所作に込められた精緻な情景描写も素敵な作品だと思います。

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