5 からあげ問題ベリーハード/吟野慶隆さん
唐揚げにはやっぱりレモンだろう。
【からあげ問題ベリーハード/吟野慶隆さん】
https://kakuyomu.jp/works/16818093079779436101
ジャンル:現代ドラマ
文字数:7536文字
吟野慶隆さんの作品は理不尽極まりないループものです。
居酒屋で先輩と唐揚げを囲んでいると「調味料をかけろ」と急に殴られる主人公。開幕からかなり異質で理不尽な展開なのですが、主人公は数分間時間を巻き戻す能力がありました。何度も時間を巻き戻して「正解」を探していきますが更に理不尽な展開に突入していきます。
ループものというと、読者はどうにか正解を主人公が導き出すことを主に読んでいきます。しかしこの作品では読者を裏切るように次々と良くないことが起こっていきます。この辺りから脱出劇ではなく、如何に主人公が悲惨な目に合っていくかを楽しんでいくホラーの様相が現れてきます。そもそも何もしていないのにいきなり殴ってくる先輩と一緒にいる時点でまともな始まりではありません。ループから逃れるということはこの先輩から逃れると同義になります。
それにしても、この鏃山という先輩はなかなか恐ろしい人物ですね。それほど面識があるわけでもない主人公とサシ飲みの場でいきなり暴力を振るうのですから、人間というより物の怪の類いかもしれません。しかも後々どうやらこの先輩は「セックスする女の調達」という目的で主人公に近づいたらしいことを仄めかします。それも「誰かいい女いないか」ではなく「お前の彼女を寄越せ」です。この辺でエスカレートする暴力の度合いも面白いですね。
そして後半に登場する主人公の元彼女も厄介な存在で、いきなり主人公を殺しに来ています。この辺りでどうしても主人公は暴力の連鎖から逃れられないことを察することになります。対抗手段はやはり暴力だったのでしょうか。先輩に殴られる前に殴り、元彼女も復讐できない程度に痛めつけておけば、こんなことにもならなかったでしょう。
気になったのは、やはり結末です。理不尽ものとしては最高な終わり方なのですが、やはり急に主人公を殺して終わるというのは人によって嫌なもの、または結末が思い浮かばなかったから逃げたのかと思われかねません。冒頭から「このループは次第に悪くなっている」という振りを大げさに入れたり、最後に死ぬ予兆をどこかに入れるといいと思いました。また、ループしていることがわかるように段落を分け、ループの冒頭を必ず同じ言葉に揃える、など視覚的にも工夫をすると読者も作者の意図を汲みやすくなると思いました。
全体的に主人公がループするだけでなくバイオレンスな状況もスリリングで、次はどうなるのだろうとハラハラするお話でした。少しホラー展開があるので苦手な人は要注意ですね。
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