3 いなりのたたり/そうざさん

 食い物の恨みは恐ろしい。


【いなりのたたり/そうざさん】

https://kakuyomu.jp/works/16817330654567488994


ジャンル:現代ファンタジー

文字数:1045文字


 そうざさんの作品は「油揚げ」をテーマにした不思議で味のある作品です。


 とある鬱蒼とした場所にある社で何者かが稲荷寿司を食べていると、その場に相応しくない少年がやってきて稲荷寿司を寄越せと言ってきます。何者かが拒否をすると少年は怒り、百年に渡る稲荷寿司の呪いをかけます。そのせいで油揚げがこの世界から消滅し、稲荷神は悔しがるが稲荷寿司をあげなかった鳶はそんなこと知ったことではないと人から今日も食べ物を奪います。


 短い話ながら、緑深い社から一気に青空を舞う鳶の姿が想像できる楽しいお話でした。鳶がいるこの場所はおそらく観光地の近くなのでしょう。バラエティ豊かなお弁当を広げる場所があるということで、食べ歩きだけでなくキャンプ場などがあるのかもしれません。そんな場所の近くの稲荷神社が忘れられたように放置されているのは悲しいですね。これは鳶が来なくてもそのうち稲荷神は怒っていたかもしれませんね。


 油揚げを概念から消し去るほどの力を持つ稲荷神ですが、土地に縛られて動けないのに対して鳶は好きなところへ行って好きな物を食べられます。この二者の対比から鳶が自由であることが強調されていていいですね。空を飛べるということはそれだけで素晴らしいです。


 ちなみに稲荷寿司なのですが、油揚げがキツネの好物であることが由来であるのは言うまでもありません。そこで何故油揚げがキツネの好物なのかと言えば、元々は害獣であるネズミを退治してくれる有り難いキツネに対してネズミの素揚げ(!)を備えていたのがいつしか豆腐を使った油揚げに変化したという説が有力だそうです。油揚げも元々肉の代用として豆腐を揚げて肉に近づけたものが始まりだそうですね。つまり油揚げの消えた世界ではネズミの素揚げが復活するのかもしれないですね……!?


 気になった点は、文体と内容が少し合っていないかもしれないという点です。神聖で厳かな雰囲気から始まるお話ですが、要は鳶がケチであったということで概念を消すのは壮大なのですが「食い物の恨みは恐ろしい」という小さいところにまとまってしまうので、読者の期待を裏切ってしまうことに繋がってしまいます。全体的にコミカルなお話なので、鳶の性格を誇張して砕けた文体にすると読みやすくなると思いました。


 全体的にミステリアスな文体で綴られる、人ならざる者たちのやりとりがかわいらしいお話です。普遍的な「食い物の恨みは恐ろしい」というテーマにも共感できて、よかったです。

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