2 松丸と虎太朗/きみどりさん

 のれんを潜ればパラダイス 万歳!世界の新しい食べ物!


【松丸と虎太朗/きみどりさん】

https://kakuyomu.jp/works/16817330648025937222


ジャンル:現代ドラマ

文字数:8561文字


 きみどりさんの作品は、「閲覧注意」がちょっと必要な作品かもしれません。


 その理由は、揚げモノは揚げモノでもこの作品の主役は「虫」だからです。主人公であるサラリーマンの松丸が謎の青年虎太朗に連れられて『バグバグ亭』という怪しい食堂に連れ込まれます。そこで出されるエビせんべいに舌鼓を打ち、うまそうな謎のサワーを飲み、何だかおいしそうなサラダを食べます。


 しかし、間もなく松丸は真実を知ります。そこで出される料理は「バグ→Bug」ということで虫虫虫のオンパレード。今まで食べていたのはコオロギせんべいにコオロギの素揚げ、謎のサワーはタガメのサワー。なんていうモノを食わせてくれるんだ! と激怒する松丸だったが、その後出てきた天ぷら定食の旨さに屈服する。上手い上手いと虫を食べ、虎太朗と再会する約束をする。


 このお話の面白いところは、主人公の松丸が新たな知見を得たという成長もあるのですが物語の中心に大きく「昆虫食」というものがあり、昆虫食を紹介するための装置として松丸と虎太朗がいるというところです。一般的な読者の視点としての松丸と、ちょっと話が通じにくいエキセントリックな虎太朗の組み合わせが面白く、とても楽しく昆虫食の世界に触れることができました。


 主催者としていきなり変化球が来たのでびっくりしましたが、虫料理を中心としたお話の展開が巧みでとても楽しく読むことが出来ました。特に店に到着して最初に食べるせんべいとサワー、サラダの美味しそうな描写からの「コオロギ」の落差がすさまじいです。ここが本当に美味しそうなんですよ。主催者は冒頭の虎太朗の奇行から「まさかな」と思っていたのですが、一瞬油断してしまっていました。「なんだ、普通の飯じゃん」って思っちゃったんです。サブタイトルからして、そんなわけないじゃないですか。ここは読者の心理誘導が巧みだなあと感心しました。


 そして虎太朗のキャラクターもよかったです。どこから飛び出してくるかわからない、一見理解できなさそうなキャラクターが昆虫食の世界へ松丸(読者)を誘う構成はとても読みやすかったです。


 気になった点は、お話の構成的に「昆虫食をしているところでびっくりしてもらいたい」という意図があると思いました。しかし、やっぱりタイトルかキャッチコピーに「虫」の文字は欲しかったです。サブタイトルで「まさか」と思うのですが、それならはっきり昆虫食を全面に出してもいいのかな、と思います。


 全体的に昆虫食をテーマにコミカルで驚きと発見に溢れた、面白いお話でした。奥深い食の世界へ読者=主人公を誘う案内人がいい味を出してますね。個人的にタガメのサワーが異様に気になりました。

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