講評
1 ミルフィーユは恋の味/平井敦史さん
他人の家庭の当たり前がはみ出る時。
【ミルフィーユは恋の味/平井敦史さん】
https://kakuyomu.jp/works/16818093081754651903
ジャンル:ラブコメ
文字数:2187文字
まずトップバッターでいらっしゃった平井さん、ありがとうございました。ミルフィーユとんかつを通して通じ合う恋模様、料理は濃厚ですがさっぱりとしていて大変読みやすかったです。
この話の中心となるミルフィーユとんかつですが、役割として未来が司に対して引け目を感じてしまうのと司に惚れ直すきっかけを担っています。おそらく未来にとって、ミルフィーユとんかつは母の味だったのでしょう。しかし、少し視野が狭かったためにミルフィーユとんかつを「とんかつ」と認識していて、大好きな司くんの前で恥を掻いてしまいます。
このとき、未来はまず「自分の家庭が裕福でない」ということにショックを受けます。実は司の実家は名家で、未来は常々「自分の出身と司の実家が釣り合うかどうか」に怯えていたことが明かされます。話しぶりを見ると、許嫁などが存在しそうな家柄です。年齢的に結婚は現実的ではなく、まだ夢見るお年頃なのでしょう。しかし、ミルフィーユとんかつが彼女の幻想を一気に現実に引き戻しました。
司は未来に心ない一言をいってしまったのではと悔やみ、未来を傷つけた元凶であるミルフィーユとんかつと向かい合うことにします。自分でもっとおいしいミルフィーユとんかつを作れば未来の心は戻ってくるのではないかと、おそらく名家の息子として厳しく仕込まれた料理の腕をふんだんに使って改めて未来の心、いや胃袋を掴みます。そしてなし崩しに他のいろんなものも掴んだようです。幸せな話です。
気になった点は、お互いの思考が男女逆かなあというところです。自分が作って惨めになった料理をもう一度、しかもアレンジさせて完璧に出されたら一般的に女の子ってめっちゃ傷つくと思うんですよね。未来ちゃんはキャラクターとしてそういう矜持がない性格なのかもしれないんですけど、ちょっと全体的に男の子に都合が良すぎるかと思いました。「本当に私はこの人のお嫁さんになっていいのかしら」という葛藤があると更に深いものになると思います。
全体的に最後の一行に向かってどんどんお話を積み重ねているような味わい深い作品だと思いました。エピソードも丁寧にミルフィーユされていて、思わず食べたくなるようなおいしそうな料理の描写もよかったです。
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