発明王の夜明け

@GrayCrazyPanda

第1話

『こんにちは、人間さん』

何処から美しく、そして懐かしいような、そんな不思議な声が聞こえた。


『まだお眠ですか?』

もしかしてこの声は、儂にはなしかけているのか?

『ええ、貴方のことですよ』

ゆっくり目を覚ますとそこには、見目麗しい女性が佇んでいた。


背丈は何故か分からない、目の前にいるのに全容が掴めない、霧のようなそんな雰囲気だろうか。

いや、それ以前に自分の視点が不明瞭だ。

なんだこの感覚は、まるで夢を見ているかのような不安定さを感じる。


いや、それ以前にここは何処だ?

儂はたしか自宅のベットで寝ていたはずだ。


『唐突な事で驚かれるかもしれませんが、アナタは亡くなられました。ですが大往生でした。大勢の方が貴方の死を悲しんでいました』


そうか、儂は死んだのか。

日に日に眠る時間が増えていき、長年付き合ってきた身体の痛みも最近は無くなってきていた。

どうやらそれも、死の前兆だったと言うわけか。


だが子孫もだいぶ残せた、責務は果たせたと思おう。


『そうなると貴方は天使か女神の類でしょうかの?』

『ええ、私は輪廻を司る女神、リンネと呼ばれています』


洒落なのか安直なのか語源なのか分からんが大変ややこしい。


『リンネ様よ、儂はこれからどうすれば良いのじゃ?』

『私の役目はその権能、輪廻を司ることから死んでしまった貴方を再生する必要があるのです』


なるほど、つまりは解脱失敗。

ちっとばかし世のためになることをしたつもりだったのだが神様の方のハードルは高いようだ。


『いやいや!そんな悲しまないでください!特例がない限りは解脱なんてできませんから!ここ500年はだれも出来てなかったはずですし』


それに貴方みたいな優秀な人は解脱できませんよ。

女神様がボソボソと何かを言っているみたいだが聞こえんかった。

歳はとりたくない。

…まぁ、もうとることも叶わないが。


『えっとそれでですね。いつもなら事務的に輪廻の輪にぶち込むのですが、貴方は人類のために多大な功績を残した事と、その功績は地球に現存する生態系の保護にも昇華されてました。よって貴方には特別大サービス!!新生輪廻の輪 Version β へご招待!』

『儂、あんましβ Version って好きじゃないんじゃ、製品版とかないかの?』

『ないですよ?だって貴方が初めてなんですから』

ならばそれは被験者じゃな。


『はいはい、ブツブツ言ってないでこのゲートをくぐって下さい』

儂に決定権は無さそうじゃし、仕方がないからいくとするか。


『あ、大事なこと忘れてた』

大事な事なら忘れるでないないわ。


『貴方の一番大切なモノは何ですか?』

禅問答か?

掴み用のない質問は脳の負担になるからイライラするのう。


『い、苛々しないでくださいよ。ただの質問です、気軽に答えて下さい』

『そうじゃな、この『脳みそ』じゃ、今までの知識が詰まりにつまって、それでもまだ足りんとするこの腹ペコの脳みそが愛くるしくてしゃあないの』


『気持ち悪いですね』

『この儂かて怒るぞ!小娘!!』

温厚な儂を怒らすとは、とんでもないか神様じゃ。


『こ、怖いので特典は貴方の脳みそ?に詰まってる情報を転送しておきますね、あっ、でも今までの貴方自身を引き継ぐものではないので悪しからず、あくまで私は輪廻を司る女神様なのですみませんね』

『うぬ、別に構わん、今(過去)は既に堪能した』

『うーん、その知能がなければ解脱できてそうですね、可哀想に、、、まぁいいや、輪廻の輪にダイブしてください』


リンネ様がブツブツ言っていると、目の前に青白い渦巻が発生した。

少年心が刺激されると同時に一抹の不安も思える。

…が、好奇心には負ける、ゆっくりと歩みを進める。


ピョンと輪をくぐると、眼が360度回転し始め、次第に回転速度も上がっていく。

体感にして3時間も廻っている気がする。

恐怖よりも女神様に対する怒りが上回り始めた時、急に閃光が視界を遮った。


………


『はぁー、漸く魂に結合したわ、、、あの爺さんの頭の中どうなってんの?』


そんな声が聞こえた気がした。

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