二日目〈5〉
近くの都市から侵攻を開始した鬼人たち。
門番二人はお眼鏡に
白昼堂々と正門から侵入していく。
「冒険者ギルドだったか」
「それじゃ儂は傭兵ギルドじゃな」
「俺は領主に会いに行こうか」
「「誰と出会っても恨み言なし」」「「
三人は獲物を探しにそれぞれの目的地へ散って行った。
「
気配になかなかいい獲物が見つからない。都市構造が複雑で道に迷いやすく、階層が高い建物も多く密集しているため、初めて来た者にとっては地理の難しい場所だった。
手っ取り早いのは強者の気配を読むことだが、どれも似たようなもので強い者が察知に引っかからない。
現状は逃げる者は追わず、向かってくるものは鞘付きの刀でぶん殴って吹き飛ばしながら歩いていきながら探していく。
「そこの者止まれ! 止まらぬか!!」
「そりゃ」
衛兵たちが集まってきても、彼らは止まらない。
この都市に別々の場所で同時に三件、鬼人の襲来が起きた。
駐屯していた兵士は勿論のこと、冒険者たちに傭兵がそれぞれ分散しながら鬼人撃退へ向かうが成すすべもなく吹き飛ばされて終わる。
命に別状は無くとも気絶は免れない。殴られた衝撃と壁や地面に激突する衝撃に耐えられる者がいなかった。
「そりゃそりゃ」
「手加減も難しいわい」
「大きい都市も小さい都市も強さは変わらんの〜」
「いやあ
弱き者たちは門から都市外へ脱出したのだろう。向かってきたものは殆どが気絶していた。
結局のところ合流した三人は
拠点制覇の条件はそれぞれある。住人から認められるか、住人を全員倒すか、
「ここにくると思っていたぞ」
全員レベル40超えの実力者たち。冒険者ランクはシルバー。ドリームワールドランキングでは上位30パーセントに入る精鋭。
「お、やっと刀を抜けるぞ」
「カッカッカ、生まれ変わった刀の実力も楽しみじゃ」
実力者であることを肌で感じた鬼人たちは喜びを隠せない。
やっと戦えるのだ。弱者の相手をしなくていい。自分自身とマスターの為に死闘が出来る喜びが、彼らを文字通り鬼に変えていく。
「
相手の魔術師が先制に攻撃魔法を放った。
地獄の業火と共に現れた巨大な不死鳥が鬼人三人に向かって羽ばたく。
「しっ!」
掛け声と同時に抜いた刀が空気を割いた。
不死鳥が二つに割れ、炎が地獄に帰るように消えていく。魔法そのものを断ち切った姿に、人間のパーティーに戦慄が走る。
「あ……、あ、あり得ない……」
インフェルノは上級魔法であり、レベル40オーバーの魔力から放たれた炎は対象物が死ぬまで消えることは無いはずだった。
この魔法で殺した魔物は数知れず、ボスクラスでも死ななくても大ダメージを与えることができる。そのため一撃必殺の魔法を先制で使ったのだが、目論みが呆気なく外れた。
「マスター直伝の鍛冶師、
「止まるな! 作戦は継続だ!」
パーティーメンバーに動揺が走ったことに喝を入れるためリーダーが叫ぶ。
「てめえら、こんなことして無事で済むと思うなよ」
剣士であるリーダーが先程魔法を斬った鬼人に両手で斬り掛かるも、相手は片手で難なく受け止めた。
「それほどの力、どのようにして手に入れた? 多種族を多く殺して得た力じゃろ?」
「だまれ!」
「人間だけが特別か?」
「ぐはっ――」
鬼人は
「アラン!」
リーダーの名前を叫びながら鬼人に闘拳士が殴りかかるが当たる気配がない。
「
「その技は既に見た。他には無いのか?」
もう一人の鬼人が魔法発動の一歩手前でマナごと斬り、魔法を消滅させた。
「あ……そんな……」
「終わりかの? つまらん」
魔術師である彼女の最強魔法が全く役に立たない。この魔法に頼り切っていた彼女は深い絶望に
彼女は膝を折って座り込む。興味を失った鬼人は杖を破壊し首を斬り落とした。
そして他のメンバーに向かう。落ちた首は目が開かれたまま鬼人の後ろ姿を呆然と見ていた。
「当たらない!」
距離を置いた場所から弓を放つが一向に突き刺さることも掠りすらしない。ただの矢ではない。風の魔法を纏わせた自動追尾式なのだ。
焦る射手は炎や氷など様々な属性を試すが結果は変わらない。
「こんな馬鹿な話が――」
「先に地獄で待っとれ!」
「――あって……」
射手は斬られたことを認識出来ないままこのゲームを去った。
「破邪の奇跡はどうした!」
「さっきから使ってます。何回も――」
「チッッ」
リーダーのアランが神官に魔物に効果
つまり抵抗されるということは自分たちより遥かに格上なのだ。魔王レベルといっても過言ではないほどに。
「ふざけるな!!」
「なにがじゃ?」
「お前らのその
一撃が駄目なら回数で勝負するしかない。塵も積もれば山となる。効かない攻撃もいつかは
これならと大きく振りかぶり全力で振り下ろそうとしたが、途中で止められた。それも刀の剣先で。
「そろそろ終わりにしようかの?」
その言葉にリーダーは動揺し焦燥が襲う。助けに来た剣闘士は呆気なく斬り殺された。魔術師も射手ももういない。
「おい! もう一回破邪――」
神官の方に振り向いたときには既に斬られ事切れていた。
「あ、ああ、……あ」
死の恐怖が顔をだした。死にたくない。死にたくない。死にたくない。アカウントを失いたくない。これまでの数年の苦労が水の泡となる。ここで死んだら、現実でも死ぬかもしれない。助かる保証は何処にもないのだ。助けてくれ。助けてくれ。誰か、助けて――。
「速く移動出来る乗り物は持っているか?」
「え?」
覚悟も出来ないまま無惨にも殺されてしまうのだと、他の仲間のように斬り殺さて終わりなのだと思った時に声をかけられた。
助かるのか?
「一応飛空艇がある、いや飛空艇を持っています」
「イベントリに入っているのか?」
「はい、そうで――」
助かる希望は呆気なく散った。
「すまんな、これは貰っていくぞ」
「イベントリの奪い方をマスターから聞いていたしの」
「早速闇人形をオーブ化しようかの」
アカウントが消滅するまでの少しの間なら持ち物を奪うことが出来る。これは世界的にも知られていることだった。
ただしそれは
だが彼らはそんな事は知っちゃこっちゃない。人間は基本的に敵である。弱者だから見逃すなんてことは普通はしない。マスターの不義を買うかもしれないと考慮した結果だった。
鍛冶師喜兵衛は発明家でもあった。所有者のいないアカウントキャラクターを玉に封じ込める方法を開発していた。これで手駒を増やせる。
強者を倒したことでレベルも格段に上がり、アイテムを入手し、使える手下も手に入れた。
一石三鳥である。
「さあ、次は
「ああ、書き換えるだけだからそんなかからないだろうな」
「それよりも飛空艇の扱い方の方が重要かもしれんぞ」
「それは一理あるな」
教えてもらえば使う事が出来るようになるかもしれない。それなりの知能は持ち合わせていると自負している。
「儂が神社に行ってこよう」
「いや、俺がいく」
「儂もそっちが良いのお」
「ここはジャンケンじゃな」
ぎりぎりのところで指の出し方を変えることが出来る彼らは、相手の手を見ながら自分が負けないように手を出す。
あいこが続いて行く。あまりにも勝敗が決しないため全員で行くことにした。
結局のところ飛空艇には自動運航モードがあり、心配は杞憂となった。
そして各地で鬼人たちがここと似たように人間の都市で暴威を振るっていく。そして空の交通手段を手に入れると近畿各地に被害が拡がった。
夕刻には主要都市は鬼人の手に落ちた結果となった。
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